智代アフターは色々な意味で失敗していた?!

 最初に書いておきますが、このエントリは別に、智代アフターのシナリオのことを批判しているわけではありませんのであしからず。
 最近、智代アフターのサントラを聴くことが多いです。ゲームとしてはPC版の1ルートを1度やったに過ぎないのですが、サントラは何度も聴いています。KSL Liveで聴いた生「Life is like a melody」もすんばらしかったんですが、タイトル画面の音楽「hope」も相当良くないですか? 戦闘中の曲を除けば、これだけクオリティも高く統一感もあるサントラは、Keyのゲームを見渡してもなかなか無いような気がします。
 しかし、智代アフターって色々と勿体ない気がしますよね。スピンオフ作品という世間的な扱いだったために、「CLANNADの派生品=完全新作じゃない」という見方をされてしまい、セールス的には思ったほど伸びなかったようなんですが、流用したキャラは智代と朋也くらいなわけですし(鷹文もCLANNAD本編に出てきてますが、細かい性格付けとかまではされてませんでしたし)、その他の要素はほぼ新作と言っても過言ではありませんでしたから。失敗だと思う理由をいくつか挙げてみます。

  • 新規エロゲユーザー、CLANNADからの非エロゲユーザーを取り込めなかった

 CLANNAD自体はエロではありません。それがエロゲユーザーの中で敬遠される一因になり、思ったほどセールスが伸びなかった(?)理由とされています。が、逆に考えると、非エロゲーが10万本も売り上げたこと自体が異例だったんじゃないかとも思うんですけど。
 そして智代アフターは、エロゲユーザーを取り込むべくエロ作品にしたわけですが、そもそもCLANNAD自体に18禁化希望の声がかなり挙がっていたとか(僕は反対ですが)。それもあって、智代アフターを作る際に「CLANNADの18禁版」という意味合いも兼ねられていたと思うんですが…。
 ただスピンオフ作品であることは、CLANNADの1キャラのアフターとタイトルで明言しているところからしても明らかでした。なので、結局18禁じゃないCLANNAD本編をスルーしたエロゲユーザーたちは振り向かなかった…と。CLANNAD本編と智代アフターは、密接な関係…といえるほどの関係性はありませんが、本編の智代シナリオ後の話ですから、導入部は完全に本編プレイ前提ですし、智代というキャラ自体も、魅力が伝わるのはCLANNAD本編のほうでしょう。ですから、智代アフターから新規にやろうというユーザーはほとんど取り込めなかった、と言う意味で失敗だったと言えるでしょう。
 そして逆に、非エロユーザーからしても、わざわざ「エロ」を入れる必然性には欠けたように感じました。CLANNADを最後までプレイした人ならわかると思いますが、エロが必要なストーリーだったと思いますか? とてもそうは思えません。そういうユーザーの一部が、エロゲであることを敬遠して智代アフターを買わなかった可能性もあるんじゃないでしょうか? まあ、7万本も売れているんで、売れていない原因を探るってのもヘンな話なんですが。ただ、リトルバスターズは、全年齢版と、新キャラ追加+18禁化したエクスタシーが共に10万本を越えているようなので、同じく10万オーバーだったCLANNADが元になったゲームとしては、内容はすべて新しいものなのに売り上げを落としている智代アフターは、失敗といえなくも無いでしょうし、その理由の一つに、エロ・非エロゲユーザーのどちらにターゲットを絞ったのかがわかりづらかったことも、一因と言えるのでは無いでしょうか?

  • スピンオフ作品なのに新作並みの手間や労力

 CLANNAD本編に比べると大幅なボリュームダウンでしたが、それでも内容はほぼ新作と言えるものでした。画面などのインターフェースから違ってましたし、シナリオ、キャラデザ、立ち絵の見せ方とか、あと最初からフルボイスだという仕様、そして完全新曲だった音楽…。リトバスへの叩き台だったというエントリは以前に書きましたが、逆に言えば、スピンオフ作品としてはあまりに手が入りすぎな内容だったんじゃないかと思うんです。
 TH2ADを見ればわかりますが、音楽や立ち絵、インターフェースとかシステムなど、多くの部分が流用されてました。開発費の削減には大いに役立ったかと思いますし、それがユーザーの満足度を下げたとは思いません。が、そうした部分が智代アフターでは全くありませんでしたから。これでは、開発費はそれなりにかかったんじゃないかと思うわけです。ある意味、もっと手を抜いても良かったんじゃ…って思いましたが、それが出来ないのが当時の麻枝さんだったのかなあ、って考えています。D&Tとか(やってないんですが…)不要ですからね(この辺がリトバスへの叩き台にもなってるんだとは思いますけど)。

  • スピンオフ作品を目指したのか完全新作を目指したのかが曖昧だった

 結局ここじゃないかと思います。記憶では、最初はCLANNADのスピンオフ作品としてプロモーションが行われたように思うんですが、そのうちに段々と「CLANNAD」との関連を窺わせるものが無くなっていき、最終的には製品から「CLANNAD」の直接的な表記が無くなってました。VAは当時、全年齢向けをメインに事業を展開しようとしていたため、「CLANNAD」というゲームから18禁的なものを排除したかったからなのかもしれませんけど。それで、徐々に完全新作っぽい売り込み方をしたんじゃないかって思うんですが…。ただネットもありましたし、途中から打ち消すなんてことはできないわけで。
 メインキャラを流用したワリには、キャラデザを変更してしまうなど、「原作ファン」寄りの作りなのか、あるいは新作を目指したものだったのかがあいまいで、何をウリにしたかったのか、ユーザーへの訴求力に欠けたのかな、と。
 樋上いたる氏を起用できない理由があったのかもしれませんし(リトバスが控えていたから?)、リトバスNa-Ga氏をメイン原画家として起用しようとしていて、そのためにいたる氏以外の原画でKey作品を出す予行をしたかった、とも言えますけどね。
 ただ、そうした実験的な要素も多く含んでいたこともあって、作品の位置づけが非常に中途半端になってしまったんじゃないかなあ、って思うわけです。割と近い時期に、今は退社した涼元悠一氏が、原画こつえー氏、音楽はこちらも退社した戸越まごめ氏と手がけた「planetarian」も出ていますが、これも相当実験作ではありましたしね。そしてあまりセールスは伸びなかった…。
 あとは…、

  • 一人ヒロインに割高感があった

 これも言えるのかも、とw フル価格では、例えシナリオのボリュームがあろうとも、一人ヒロインのエロゲなどほとんど存在しません。まあ調教ものとかならあるかもしれませんけど、複数ヒロインが当たり前ですから。CLANNADはメインヒロインだけで5人、Kanonもそう、AIRは4人?(神奈含む)、リトバスは無印で5人、EXで8人ですからね。せめて、河南子ととも(ぇー)が攻略対象だったら…と思わずにはいられません(汗。前述のplanetarianだってそうでしたから(攻略でも無いけど)。


 色々と挙げましたが、その教訓が生かされたのが、VA的には「リトバスEX」だったんだと思いますし、他社ですがリーフのTH2シリーズだったんじゃないかとも思います。クリエイターとしては、智代アフターみたいな作りが理想と言うか妥協点みたいなものかもしれませんが、ユーザーの満足度と会社の利益との最小公約数は、リトバスエクスタシーやTH2ADみたいな作りだったんだろうなあ、と言うのが個人的な感想です。売り上げの差とコスト的な面を考えると。