Angel Beats!は2クールすべきだったかどうか?〜Angel Beats! 考察

 ガルデモシングルのロングセラー、そして主題歌「My Soul,Your Beats!/Brave Song」の初動8万枚と、Angel Beats!関連CDの売り上げが加速しているようです。麻枝准の作る楽曲の素晴らしさは今さら言うまでもないんですが、ここへ来て鍵っ子以外にもそれが伝わるような数字が出てきたことが、麻枝信者としては嬉しく思います。
 
 さて、鍵っ子の中でも上がっているのが「AB!は2クールにすべきだったのでは?」と言うものです。単純に「終わって欲しくない」という意味でのものもあるでしょうが、やはり「詰め込みすぎ」感や「消化不良」感などからの2クール化希望、と言う声が圧倒的多数を占めているようです。まあ僕がTwitter上で見てる中でだけなので多数派の意見ではないかもしれませんが、消化していない伏線も未だに発言すらしていないキャラもいることから、1クールで収められる内容ではないのは間違いないでしょう。
 ですが、個人的には「1クールで良かったのでは?」と考えています。理由は、過去のKey作品のアニメ化を見ていてそう思うからです。
 
 過去のKey作品のアニメ化で、大成功したといえば間違いなく「京アニAIR」でしょう。どちらかと言えば、Keyよりも京都アニメーション出世作となった印象もありますが、AIRという難解な作品が世間に好意的に広がったことは間違いないと思います。
 そして、逆に最終的には失速したのが「京アニCLANNAD(AS)」だったかと思います。一期のCLANNADは最後まで好意的に見られいたようなのですが、二期になって、原作ユーザーからも一般アニメファンからもものすごい賛否両論になってきていて、特にライトなアニメファンは離れてしまったような印象もありました。DVDの売り上げはずっと維持していたのは、信者による下支えとも言われていますが、そちらの詳細はよくわかりません。ただ、一期と二期では、周りの盛り上がり方に差が出ていたのは確かだと思ってます。
 この差は何なんでしょうか? 個人的には、単純な「長さ」じゃないかと考えています。
 CLANNADといえば、麻枝准のカラーが濃く反映された作品だと思います。クリアまで50時間以上と言う全体のボリュームもさることながら、特にAFTER STORYの長さと間のあけ方などが、実に氏らしいと思うわけです。その「長さ」こそがCLANNADCLANNADたる所以なんですが、それを4クールと言う異例の尺を使って再現しようとしたのが、京アニ版のCLANNADだったかと思います。
 その長さは、原作ファンにとっては許容出来る、あるいは心地よいものだったかと思いますが、アニメファンにとってはどうだったでしょうか? 長くてダレたんじゃないかと思うわけです。原作ファンから見ても、ここはいるのか? という話があったりして、毎話が素晴らしかったかと言えばそうじゃないと思いました。ただ、あの長さと尺の取り方は、確実に麻枝准の「間」を再現しようとしていたと認識しています。京アニにも麻枝信者はいるので、4クールを使ってその辺をアニメでも表現しようとした痕跡があります。が、それをしようとしたがために、間延びした印象は拭えなかったかと思います。
 その辺を感じさせなかったのは、やはり京アニAIRでしょう。原作ファンからは「ダイジェスト版」とも言われていますが、個人的には原作でも間延びしていた印象が強く再プレイする気にはならなかったくらいなので、上手く凝縮させたなあという印象をアニメでは感じました。それは多くの視聴者も同意見ではなかったかと感じています。
 京アニAIRは、麻枝准の特徴である「長さ」や「間」と言うものをある程度省いた結果の産物だと思います。つまりは、間の長さを省いても麻枝作品の良さは生きるんだ、と言うことも示したのではないかな? と思うわけです。
 
 そうした上で、AB!を見ていきましょう。
 確かに伏線回収もしていませんし、ほとんど触れられていないキャラやNPCかと思うくらいに存在感の無いキャラもいます。それでも毎回が詰め込み感溢れる作りです。それでも個人的には、これで良かったんじゃないかと思っています。
 麻枝作品は特にですが、綿密な伏線を張っていたり、1から10まで物語の説明をしていたりという側面は全くありません。むしろ、ヒントだけ与えて後は投げっぱなしの部分が非常に多いです。ゲームであればいちいち立ち止まったり、あるいはクリアまで突っ走った後に戻ったりすることが可能ですが、アニメでは、リアルタイムに試聴する場合に、少し戻ったり立ち止まったりと言うことはできませんよね。録画を最初にみている人は違うかもしれませんが……。逆に、一気に最後まで突っ走ることも出来ないわけです。30分弱を見た後は否応なく1週間待たされるわけで、その間に色々と立ち止まって考えさせられるわけですが、個人的にはそれを前提とした作りだからこその詰め込み感なのかな? と考えています。
 毎回視聴者は、その1話を見て色々と考えさせられるわけですが、詰め込んでおけば視聴者が色んな方向に考えを巡らせます。あるいは、本当に見せたい方向性とは全く違う方向へとミスリードすることも可能です。そうして考察を終わらせず、また次話の展開を正しく推理させないことで、また新しい話を見終わるとまた別のことを視聴者に考えさせ、そしてまた次へ……というサイクルをさせることが狙いなのかな? と。
 ある意味では、ミスリードさせるための仕掛けの数々は、多くが放置されたままになっているようにも思います。が、先の展開を予想させにくくして、毎回を新鮮に見せるためには必要な仕掛けなんじゃないかと思うわけです。例えば日常回を挟んでもいいんじゃないか? とも思うのですが、視聴者に常に考えさせる展開にしておくのが狙いだとしたら、そうした中休み出来る回を挟んでこないのも頷けるような気がします。
 そしてこういう作りでは、そもそも2クールは無理じゃないかと思うのです。1クール13話構成だからこそ、詰め込んで色々と考えさせているうちにまた次の話、というサイクルが可能なんじゃないかと言う事です。AB!のキャラの多さや世界観設定、内包してる要素の数々を考えると、もちろん24話くらいの構成でも詰め込み感は出せるでしょうし、それでも視聴者に毎回考えさせることも可能だと思います。が、そうなると世界観によりほころびも出るでしょうし、伏線もより綿密に張らないといけなくなりますし、何より視聴者の脳みそや精神力的についていけなくなる恐れがあります。やはりこの手の「考えさせる作品」は1クールくらいの長さでないと、見ている方としては持たなくなる恐れの方が強いと思います。
 もちろん、麻枝作品の特徴である「間」を全く無視しているかのような作りには、麻枝信者であればあるほど違和感を感じてしまいます。けども、そこを敢えて取っ払ったところで見せているんだろうなあ、と言うのはわかるんですよね。「間」以外にも麻枝作品の長所はありますし。何よりまだ、麻枝准の最大の特徴である「自作の物語を自作の歌で演出する」という部分がほとんど出ていません。真骨頂は見せていないと思うんですよね。なのでまだまだこれからじゃないかと思うわけです。

 よって、個人的にはですが、AB!は1クールで正解だったんじゃないかと思います。まあ原作なしのオリジナルアニメがいきなり2クールと言うのはそもそもあり得ないんですが、詰め込み感も演出の1つと考えると、2クールはそもそも無かったなあとも思うわけです。関連CDの売れ行きを見れば、放送期間がより延びたほうが商売的には良いのかもしれませんが、それとは話が違うと思います。
 まあAB!のこの盛り上がり方で、麻枝准がアニメ業界から無視出来ない存在になったことは、関連CDの売り上げ的な意味からも間違いないと思いますし、また次の作品と言う話になっていくでしょう。そこで、更に洗練された作品が見られるのでは無いでしょうか?


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