麻枝准の作品はすべて「歌」である〜Angel Beats! 考察

 信者もアンチも多く、いい意味でも悪い意味でも話題性が爆発してきているAngel Beats!ですが、その理由を色々と考えているうちに、そもそも麻枝准の作品に共通しているある部分を思い出しました。それこそ洗脳されたようにハマる層と、ものすごく冷めた目で見てしまう層に分かれる部分がどこであるかを。
 
 麻枝准作品でよくdisられるのは、作品構造の欠陥とか伏線の張り方や回収の仕方やその弱さなのでは無いかと思います。確かにAB!を見ていても、「あれ? あの謎はどうなったの?」という部分が数多く存在しています。作品を振り返ってみても、彼の作品にはその辺の緻密さや計算というものを見出すことはあまりできません。もちろん、序盤に見せていた何気ないシーンが実はすごく意味があって、後半部分に生かされていることはあるのはあるんですが、それはどちらかと言えばイメージに近いもので、推理小説などであるような伏線とはどこか異なる気がするのです。
 ですので、麻枝信者から見ても、そういう部分が決定的に弱いのはよくわかります。ですが、それが弱点かといえばそうじゃないと思うんですよね。それに、それが無いから作品としての質が低いなんてことも無いと思います。むしろ、その辺が弱いにも関わらず魅了されている人がこれだけ多いわけです。では、何ででしょうか?
 

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 麻枝准といえば、シナリオやキャラなどでは批判の声も多いのですが、逆にあまり雑音が聞こえてこない部分を言えば、作曲や作詞の部分ではないでしょうか? 麻枝曲といえば、AIRの「青空」で当時の鍵っ子に衝撃を与え、CLANNADの泣き場面の曲の数々+「小さなてのひら」で多くのユーザーを泣かせ、智代アフターの「Life is like a melody」はこの曲だけでほぼ物語をすべて語れてしまうほどですし、リトルバスターズの「リトルバスターズ」では泣き曲だけじゃないという意味では新境地を開きましたし、その後のCLANNAD AFTER STORYのOP用として書かれた「時を刻む唄」もすごかったですし……。eufoniusのボーカルであるriyaと作ったアルバム「Love Song」や、Keyの歌姫とも言えるLiaと作った「karma」などの名曲もありますし、ことこの辺に関して、あまり麻枝曲に対しての批判的な意見はあまり聴いたことがありません。
 あまり好きでないと言う人も中にはいるのだと思いますが、AB!の主題歌だったりガルデモ曲だったりは、「作品内容は好きじゃないけど曲はいい」と言う人もいたりするなど、総じて高評価ではないのかと思うわけです。
 音楽ってどう楽しみますか? いきなりですが。音楽を聴く時に、その曲の構造だったりAメロにサビへの伏線があったりだとか、そういう部分を気にして聴きますか? この曲変拍子きめえ、とか、エンヤみたいな多重ハモリだから凄く脳みその奥にまで響いてくるんだ……だとか、そういうことを考えるのはプロだったり音楽をやったことのある人が感じる視点であり、ただ聴くだけの一般のリスナーたちにとっての視点ではありませんよね。歌詞だって、初めて聴く時に一言一句を聴き取って感じる人ってそんなにいないと思うんです。
 つまりは、音楽を聴く時には色んなことを考えていることは多くなく、むしろ感じるままに受け入れることのほうが多いんじゃないかと言う事です。異論はあるでしょうが、初めて聴く音楽に対するスタンスって概ねそういうものではないかと思います。
 何が言いたいのかといえば、それは麻枝作品全体に言えることなんじゃないかと言う事です。言ってる意味が分からないかもしれませんが、麻枝作品は極めて「歌に近い」のでは無いのか? と考えているのです。
 自分自身が麻枝作品にハマっていく時を振り返ってみると、あれこれ考えていないんですよね。最初、あるいは途中までは色々と考えたり、あるいは「中だるみだなあ……」とか思ったりもしているんですが、ハマり出すとその辺の視点をいつの間にか忘れ、ただあるがままを受け入れている自分がいるんですよね。信者乙、と言われたらそれまでなんですが、それは音楽を聴く時のように、ただ受け入れているだけになっていると言うかそうさせられていると言うかそういう力があるというか、そういう状態だからこそ楽しめるものなんじゃないかと思うのです。余計なことを考えないと言うか、提示されたものをただひたすら追っていくからこそと言うか。それって音楽の楽しみ方に近いような気がするんですよね。で、一通り物語を追った後に、原作者の意図とか色々と考察という形で更に楽しむのも、歌詞を追いながらリピートするのと似ているように思うのです。
 また、麻枝准で欠かせない創作物といえば、音楽の中でも「作詞」だと思います。これだけは誰が何と言おうと、個人的には素晴らしいと思ってます。むしろシナリオライターとしてよりも、作詞家として麻枝准という人は凄いのではないかと。これに関しては異論はあまり無いんじゃないでしょうか。というのも、前述の「Life is like a melody」が智代アフターの作品を全て表しているという意味そのものなわけです。むしろ、作品を通してユーザーに伝えたかった意図がすべて歌詞に内包されているのです。
 歌詞ってどういうものでしょう? 小説などと違い、少ない文字数で表現するものですよね。そこに伏線などは存在するでしょうか? 無いですよね。麻枝准の詞は「karma」であったり「Hanabi」であったり、あるいはガルデモの曲でも良いですが、とにかくこの短い詞の中に世界観やら物語性やらメッセージ的なものを、とても高い次元で内包させて表現しているんですよね。伏線などとは関係なく。ここに麻枝准のシナリオとの共通項があるんじゃないかと思うのです。乱暴な言い方をすれば、麻枝作品って作詞的なものを引き伸ばしているのかな、とさえ感じることがあります。なので、余計に伏線などが物語の中で軽視されていたり、あるいは細かいキャラ描写やらが置き去りにされている部分があったりするのかな、と思います。歌詞で細かい人物描写など出来るはずがありませんしね。そう考えると、麻枝作品は詞をベースにした、あるいは詞的な描写の仕方をしているんじゃないかという結論に至るのです。
 では逆に、何でdisられるのかと言えば、生理的に受け付けないと言う理由を除くとしたら、理詰めでは無い部分が受け入れられないからなんだろうなあと思ってます。歌詞世界って理詰めでは無いじゃないですか。韻を踏んだりする部分とか、言葉の響きを重視したりと言う部分がある曲の場合は理詰めな部分もあるのかもしれませんが、ほとんどの歌詞にそういう部分は無いと思いますし、そこで好き嫌いが分かれるわけではないでしょう。個人的には、イメージの世界なんじゃないかな? と思うのです。1から10までの事象が作中で語られていない作品に対する「あり得ない」感が、よりAB!を見ていて入り込めない人の視点なのかなあと思っています。
 

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 何を言ってるのかよくわからないって人は、AB!で言えば、ガルデモの曲の歌詞を見てもらえればわかるんじゃないかと思います。AB!はひたすら主人公である音無の視点のみで描かれており、その他のキャラの視点はほぼ登場していないわけですが、そんなサブキャラの視点で描かれているのがガルデモ曲の歌詞です。「Crow Song」に収録されている3曲は岩沢の、それ以降の6曲(+一番の宝物などアルバム収録曲含む)はユイの視点で歌詞が書かれているのですが、よく読めば、例えば「君」がAB!本編では誰を指すのかなどが浮き上がってくると思います。特に本編を9〜10話まで見てしまえば、ユイの「Little Braver」や「Answer Song」まで何を指しているのかがよくわかるはずです。特に「Answer Song」は、LiSAさんのブログでも少し紹介されていましたが、ずっと岩沢に憧れていたユイからの文字通りの「Answer」なわけですが、恐らくは「My Song」あたりの岩沢からのメッセージに対しての答えだと思われますが……正直なところ、アニメ本編よりも泣けるんですよね(汗。
 ほとんど本編では掘り下げられていない岩沢や、ユイとの関係性が描かれているレアさもあるのかもしれませんが、本編で描かれているよりもストレートにこちらに伝わってくるものがあるんですよ。ある程度ハマっているから、麻枝信者だからこその感情なのだとは思うのですが、詰め込みまくりながらも実は寄り道しまくっている本編に比べると、ものすごくわかりやすいと思うのです。
 なので、麻枝准はライターと言うよりは歌詞を、そしてその歌詞を生かした曲作りがより優れているとは言い切れると思います。そしてシナリオは、やはり歌詞の延長線上で描いているのではないかとも思うわけです。そう考えると、ところどころ説明不足だったり、イメージで補わなければいけない部分が出てくるのも頷けるのでは無いでしょうか?

 個人的に、書いたことがより理解できるものとしておすすめなのが、全編が麻枝准作詞作曲で、かつ原作がないオリジナルアルバム「Love Song」ですね。このアルバムは、麻枝准がむしろ歌詞世界だけで表現することに長けていることを証明してくれています。全曲が連続しているような、1つ1つが独立した物語になっているような内容になってますが、独特の世界観で完成度が高すぎます。これを歌詞を見ながら聴いていると、どう考えても「ライター」と言う枠からはみ出してしまっていることはわかると思います。
 もちろん、Angel Beats!のガルデモ(Girls Dead Monster)曲も素晴らしいと思います。曲としても良いですし、歌詞世界だけで岩沢やユイ視点の物語が展開されていますので。この完成度を考えると、やはり歌詞世界が土台にあるように思えてなりません。

 脱線しましたが、そもそも他のライターさんや小説家さんたちと、麻枝准はシナリオの構築や描き方が全く異なるんじゃないかという気がしています。それはやはり、歌詞的な描き方をしてるからではないか? と言うお話でした。そういう視点でAB!などを見てみるのも面白いかもしれませんが、故に好き嫌いがハッキリするという表裏一体の問題でした。



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