キネティックノベル大賞 説明会で判明した、キネノベ大賞の中身とは?

 遅くなりましたがやります。開催されたのは5月9日でした。
 
 参加者は、一迅社文庫の寺澤氏、ocelotの桜沢代表と、ocelot所属ライター・ディレクターでラノベ作家でもある箕崎准氏でした。西中島南方近くにあるアミューズメントメディア総合学院大阪校内で、専門学校の生徒+一般参加という感じでした。一般参加者は十数人くらいだったかと思います。
 
 内容ですが、一迅社文庫の寺澤氏がキネノベの趣旨を、スライドやポリフォニカアフタースクールの体験版を見せながら進めていくという感じで、小説との違いを演出面やビジュアル的なものを中心にして説明されてました。そしてゲーム的な演出に関しては、桜沢代表や箕崎准氏が補足で行うような感じで進行してました。説明が終わった後は質疑応答でしたが、軽く三十分以上時間を取ってやっていたので、本当にキネノベに応募しよう、と思っている人間にとっては、非常に有意義だったのでは無いかと思います。
 
 キネノベといえばポリフォニカシリーズが特に有名ですが、鍵っ子的には「planetarian」が馴染み深いかと思います。ただあのplanetarianを想像してみると、ノベルゲームよりもかなり小説寄りの作りだったのではないかと思うわけです。が、説明を聞いてるとそういうわけでは無いんですね。ただ、例えば涼元悠一氏だったり榊一郎氏が小説畑で、たまたま小説寄りの作品だったというだけで、演出次第ではいくらでもやりようがあるという感じでした。
 個人的には、キネノベ作品の作り方が興味深かったですね。ポリフォニカの場合ですが、作者(榊一郎さん)から原稿が上がってきてから開発をする、という流れらしいです。通常ならおそらく、ある程度の流れだけライターさんが形作ってから他のスタッフも並行して進めるのだと思うのですが、完全に原稿が上がるのを待ってからのスタートらしく(絵とかは並行作業なのかもしれませんが)、開発期間としても余分にかかってしまうそうなのです。普通のギャルゲーを作るよりも簡素だ……と考えていましたが、どうやらそんな印象は改めた方が良さそうです。逆に言えば、シナリオ本位で演出なども配置するので、よりシナリオが生きる作品になっていくんだとは思います。

■参考:Visual Art's情報局 キネティックノベル大賞説明会に行ってきました
http://vainfo.blog35.fc2.com/blog-entry-930.html

 さて、以下は個人的に気になった部分をピックアップして書いていこうと思います。

  • 高額賞金+印税

 大賞は500万円ということを冒頭に強調していたように、この賞金額は他のラノベの賞金ではあり得ないレベルで高額です。ほとんどのラノベ系の賞金は100〜200万円らしく、キネティックノベルの高額さは際立っています。
 更に、キネティックノベルで大賞を取れば、GA文庫もしくは一迅社文庫からの小説出版が確約されています。なので、大賞獲得で賞金はまず入ってくるとして、その他として、発行部数に応じて印税も入ってくるわけです。説明会では一迅社の寺澤氏が「賞金+印税で1000万円目指してください」と言ってましたがその通りなのかもしれませんね。話題性の高まりや内容次第では、もしかするとそれ以上も期待出来るかもしれません。

  • いきなりのメディアミックス効果で露出が大きい

 一般のラノベだと、賞を取ってもいきなりのアニメ化やゲーム化は期待しにくいかと思いますが、キネノベの場合は、まずゲーム化と小説化が同時に為されるわけですから、いきなりメディアミックスされて世に出ることになります。これは説明会でも強調されてましたが、でかいと思います。
 小説だけでの刊行だと、どうしても宣伝媒体が限られてしまうと思うんですよね。カテゴリ:ラノベ界隈では宣伝されるとは思いますが、それ以外のカテゴリへの波及はほとんど無いでしょう。そうなると、ラノベのヘビーな読者層以外にはあまり訴求力が期待できないということになります。
 ですが、キネティックノベルとしてゲーム化も同時に行われる場合はどうでしょう? 少なくとも、片方だけを紹介されるってことは考えづらいですよね。つまりは、ラノベ界隈でゲームの紹介も同時にされる可能性が高いことと、ゲーム界隈でも小説を同時に紹介してくれる可能性が高いということでは無いでしょうか? ゲーム……とりわけギャルゲ界隈でのラノベ読者はそれなりの数がいるものと思われます。そこへの宣伝が同時に出来ると言うことは、一般のラノベ大賞作品とは読者層の分母の大きさが全く異なるように思います。作品内容にはよるでしょうが、ラノベだけの大賞作品に比べると明らかに有利に働くことは間違いないでしょう。
 そして審査員には、Angel Beats!でお馴染みの、アニプレックス鳥羽プロデューサーの名前も……。アニメ化ももちろん視野に入っているというわけです。

  • VAではなくocelotからゲーム(キネノベ)化

 これは勘違いしてたのですが、キネノベ大賞を取ったからと言って、VAからゲーム化されるわけでは無いとのことでした。あくまでocelotからキネノベとしてゲーム化することが前提のようです。
 もちろん、キネノベのプログラム自体はVAで作られたものなので、VAと全く関係ないわけではないんですが、大賞作品がゲーム化するのはocelot一択だそうで。
 ocelotもメディアミックスの経験も深く、むしろKeyよりも他への展開は積極的に行っているようにも見えますし、所属している箕崎准氏は本業がライターでは無いはずなのに(ディレクター業が主体。ライターとしてももちろん作品を出されているのですが)オリジナルのラノベ執筆もされているように、業界とのパイプは太いと考えられます(関係あるのかわかりませんが)。なので、アニメ化などへの道も、VAの他のブランドなどに比べても近いのかもしれません。

  • ノベルよりはギャルゲーのテキスト寄り(でも可)

 キネティックノベルなので、ノベル寄りのテキストが求められるのかと思いきや、実はそうでも無いようです。むしろ一迅社文庫の寺澤氏が、榊一郎氏のポリフォニカのテキストを参照してて「ここの地の文は要らないですよね」「ここテキストでここまで書かなくても画面効果で済みますよね」などとおっしゃってましたので、ガチガチの小説を書けるスキルと言うよりは、面白いアイデアや展開、キャラの掛け合いなどが描けるほうが有利かもしれません。
 というのも、キネティックノベル化する際にかなり柔軟で時には派手な演出を加えることが出来るのです。planetarianあたりから比較すると、それは視覚的にも聴覚的にもダイナミックになっています。地の文が弱くとも、これならあまり問題ないでしょう。
 もちろん文庫として刊行される際には、作者自らが編集者と一緒になって、小説として恥ずかしくないものに手直しする必要性に迫られるとは思いますが……。説明会を聞いた感じでは、そこはあまり重要ではないようでした。後から何とでもなるという感じで。
 ちなみに、キネティックノベルには分岐は無いそうなので、そこは考慮しなくて良いそうです。ここが、ノベルでもシナリオでもない一番の部分かもしれません。

  • 全年齢向けが基本

 あまり、年齢制限のつくようなエロテキストはNGだそうです。とはいえ、全年齢向けラノベでも際どい描写はあると思うので、どの辺までOKなのかはわかりません。まあ、メディアミックスを考えると、コンシューマゲーム程度の描写であれば大丈夫じゃないかと思います。

  • 宗教やグロ、半道徳的な描写について

 この辺は、積極的に犯罪行為を肯定したり、差別的表現を多用したりすることはもちろんNGとのことですが、小説とゲームではその基準が違っているなど曖昧な基準で規制があるそうです。なので、エッセンス程度に使うのは問題ないでしょうが、それをメインにした作品はあまりやらないほうが良いでしょうね。
 あとグロ描写に関しては、ゲームでも演出でカバーするそうなので、恐らくはテキストでの描写はそこまで細かくしなくても大丈夫だと思います。

  • 冒頭から面白い作品を!

 応募作品が多数来ることが予想されるため、やはり冒頭から面白い作品が有利と言われてました。ラノベとかでもそうですよね。全くの新人が書く作品でスロースタートだと、それこそ途中で読むのを止めてしまうのがオチですから。冒頭からヒネリの効いた面白い作品を求めている、とのことでした。
 あと、演出の映える作品、という注文も出されていましたね。せっかくのキネティックノベルなのですから、演出のしがいのある、あるいは動的、絵的な演出で化けるような作品が有利なのかもしれません。

  • 実績がない

 第一回なので当然と言えば当然なのですが、とにかく今までの実績がないことが一番の問題かもしれません。もちろん大賞をとれば500万円+小説刊行ということで、その後が上手くいかなかったとしても、一時的にでも十分すぎる額のお金が手にはいるわけですが、大賞以外や、音楽・絵の部門では、たとえ大賞を取っても30万円の賞金しかありません。その後のキネノベへの原画家や小説の挿絵としての採用はあくまで「検討事項」となります。説明会のニュアンス的には、シナリオ部門やイラスト、音楽の大賞を取った新人同士でシナリオ部門の対象作品をキネノベ・小説化したい、と言う感じでしたが、シナリオと絵の傾向が全く異なれば、それぞれを組み合わせてもベストとは言えなくなってしまうわけで、そうなるとイラストはまた別の原画家さん……となれば、イラストで大賞を取ったからと言って、いきなり大きな仕事が入ってくるとは限らないわけです。もちろん、色々な道が拓ける可能性は高まるでしょうが、ラノベの挿絵絵師さんはそう足りないわけではないでしょうし、よほどの人気作品にでもならなければ、食っていけるほどの収入も確約出来るわけではありません。なので、シナリオに比べると、絵や音楽の部門はうま味があまりない、と考えられます。
 シナリオにしても、このキネティックノベル大賞自体の知名度だったり、賞自体の格みたいなものはまだ全然無いわけで、この賞を取ったからと言って箔がつくわけではないでしょう。あくまで第一回、第二回で大賞を取った作品がどう評価されるかにかかっているわけですからね。
 まあそんなことを言ってても、まずは一回目をやってみないとわからないわけですが。一回目でどれだけレベルの高い作品が集まって、大賞選出に苦労するようなことになれば、大賞作品以外の日の目を見たりして、周りの賞に対する評価も変わってくるでしょうからね。
 ちなみに大賞から外れた作品の作家は、例えば大賞作品のスピンオフ小説執筆とか、あるいは編集者がついてその作者の作風に合った別作品の執筆→ラノベデビューなどを考えているそうです。まあ確約されていないので何とも言えませんが、応募作品のレベルが高いものが多ければ、複数の応募者がラノベ作家デビューとなる可能性もあります。逆の目もあるわけですが……。

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 以上、僕がとったメモ(気になった部分)でした。
 6月には東京でも開催されるそうなので、ぜひ行ってみてはいかがでしょうか? 大阪では質問者があまり多くなく、説明する側が物足りない感じでしたので、質問を用意して臨まれてはどうでしょう?
 9月が締め切りですが、応募してみたくはなりましたね。

キネティックノベル大賞のページ
http://kineticnovel.jp/gp/