天使ちゃんSSの残骸〜Angel Beats! SS

 放置状態かつ、もう原作でやられてしまったので価値もありませんが、文量はそれなりあるので、よろしければ読んでみてください。書いたのは直井回(天使ちゃんと音無が監禁される回)の前でした。

★追記
 ちゃんとしたユイにゃんSSは書きました。岩沢とどんなだったかとか、ゆりっぺとはどんなだったのかとかを妄想で描きました。あと、「Thousand Enemies」や「Answer Song」の歌詞も参考にしています。どうぞ。
http://d.hatena.ne.jp/rikio0505/20100625/1277464494

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『天使ちゃんマジ天使(仮)』
 
 
 ゴトン。
 
 いつもの自販機で、いつものKEYコーヒーを飲む、そんな日常。
 この日常はずいぶんと騒がしいものだったけれど、缶コーヒーを飲んでいる間だけは何故か心が平穏に支配される。

 気分を落ち着けた後、俺は気になっていたことを頭の中で思い返した。
 かつて『天使』と呼ばれたあの女の子のことを。



−タイトル−



「……となしくん」

 今頃どうしてるんだろうか……。
 一人教室に残って、授業の予習でもしているのだろうか。

「音無君」

 そういえば、彼女にもそう呼ばれたんだっけ。
 俺が先に名前を聞かれて、流れもあったけど彼女の名前も聞いたんだった。それがあんなにも彼女を追い詰めるなんて……。罪悪感はあの時でもあったが、今となっては彼女を陥れたのがすべて俺の責任じゃないかとさえ考えてしまう。名前を聞き出したことが、戦線のみんなにとっては利益だったのかもしれないが、彼女の評判を地に落とした上に、彼女からこの世界での役割を奪ってしまったのだから……。

「お・と・な・し・くんっっ」

 耳元で、つんざくような大声で自分の名を呼ばれ、ようやく自分が今現在、人に呼ばれていたことに気づいた。

「ゆ、ゆりか……。そんな大声を出して、ビックリするじゃないか」
「ビックリも何もないわよ。あなたがぼーっとして、あたしが呼んでるのに気づかないからでしょう。自業自得ね」
「うう……」

 キンキンと鳴る鼓膜の無事を祈りながら、その声の主を見た。
 怒っているような口調ではあったが、心の底からと言うわけで無いらしい。

「天使が生徒会長を辞めさせられたから、これからの方針はB案で行こうって言ってるの。音無君はこれで異議はない?」
「ん……あ、ああ」

 これだけ大声で呼ばないと気付かなかった人間が、今までの作戦会議の内容を聞いているわけはないのだが……今更言い出すことも出来ず、惰性で頷いておいた。B案ってことはA案もあったらしい。だがそれも記憶の片隅にも残っていない。俺の今日の記憶といえば、朝に缶コーヒーを飲みながら彼女のことを考えていたことくらいだ。

「じゃあ決まりね」
「ゆりっぺ。何で音無のヤロウに確認取ってから決めんだよー」
「いいじゃない。これまでの活躍から言って当然じゃない?」
「うっ……それはそうだけどよ……」

 どうやら俺は、ゆりの中での評価が高いらしい。
 どういうわけかわからないが……。もし天使だった彼女を追い落としたことで評価されているとしたら、ますます俺は何が正しくて何が間違っているのかがわからなくなる。
 どう考えても、彼女は敵じゃないんだ。今も、以前も。

「じゃあ音無君は彼女の監視、よろしく頼むわね」
「あ、ああ。わかった」

 彼女……と思い返して、候補は一人しかいないことに気づいた。
 ずっと考えているあの彼女。
 監視というニュアンスがどういうスタンスで臨むべきものかはわからなかったが、次の瞬間には、これは好都合じゃないかと勝手に解釈していた。





 夕暮れ時。

 俺は作戦を実行すべく食堂で待ち伏せをしていた。
 本当は「待ち伏せ」なんかしたいわけじゃない。彼女に会って謝りたかった。謝って、誤解を解きたかった。
 でも、誤解って何だろう? ここまで追い落とす意図は無かったと言うことを、彼女に話すことなんだろうか? 俺はゆりたちのために、あの瞬間は自らの意志で名前を聞いたはずだ。解かなければならないほどの誤解が果たして存在するのだろうか。
 そういう思考に陥ってしまい、結局彼女に直接会って話すことは躊躇われてしまった。本来の任務は「監視」なのだから、会って話すよりも見ているだけのほうが気が楽なのかもしれない、などとチキンな思考が勝ってしまう始末だからだ。

 様々な思いを巡らせていると、次々に一般生徒たちが食堂へと流れてきた。全寮制の学校のため、夕飯も食堂なのだ。メニューは様々で飽きることはない。もっとも、惰性で生きているようにも見える一般生徒たちが、メニューの多様さと変化を楽しんでいるかどうかはわからなかったが。
 ちなみに今日は、「オペレーション:トルネード」は行わないらしい。陽動すべき相手がああいう風になってしまったからだが。

「いないなあ……」

 他の一般生徒と同じように、規則正しい時刻に食堂に来るのかと思い物陰から入り口を見張っていたが、姿を一向に見せようとはしていない。
 背が小さいから、周りに紛れて見落としたのかとも考えてみたが、昼と違い、生徒が一気に集中して押し寄せるようなことが無いので、その可能性は低い。それに……あの姿外見を見逃すはずが無い。何故かそんな、根拠のない確信が自分の中に存在していた。

 しばらくすると、訪れる生徒の数が目に見えて減ってきていた。時計を見ると、食堂の終了時間まで30分と迫っていた。
 あの日、風に巻き上げられた彼女の食券は、もしかしたらこの学校に残された唯一かもしれない楽しみだったのかもしれないんだ。
 それを奪われた彼女は、もうここにも来なくなるのでは……と、悪い方へ悪い方へと考えが及んでしまう。そういえば今日一日、彼女の姿は見ていないのだ。

 もしかするともう消えてしまったのか……?

「……となしくん」

 買ってきた缶コーヒーも、蓋を開けないままで既に温かさを失っていた。
 そして囁くような声。
 この声の響きは……とても心地いい。

「音無君」

 か細いが、今度ははっきりと、誰かが俺を呼んでいる。
 今度は頭の中の声と実際に耳で感じる声が一致している。

「立華?」

 振り向いた視線の下のほうに、彼女はいた。
 身長が違うからだが、こちらを見上げるようにして立っていた。

「ここで何してるの」

 そう言われて初めて思い出した、今回の自分に課せられた役割に。
 見つかってはマズイのだと。

「?」

 返す言葉に困っていると、彼女は不思議そうに、首をかしげながらこっちを見ていた。

「ここで何してるの?」
「何してるって……その……」

 まさか、「君を監視しにきました」とは口が裂けても言えないわけで……。
 いったいどうやって誤魔化せば良いのだろうか?
 そもそも、監視しようとして来たのに、先に見つけられてしまったのは大いなる失態で、作戦としてはここで終了でもおかしくないレベルだ。
 どうしたら……と思っていると、考えるよりも先に、自分の口からとんでもない言葉が飛び出していた。

「立華のこと待ってたんだ。晩飯、一緒に食おうぜ」

 口に出していた言葉を理解した瞬間、俺はあの時の大山を思い出していた。
 間違いなく玉砕だと。
 そもそも任務の「監視」からして、その相手と一緒に食べようなんて言うこと自体がどうかしてるわけで。
 その上で、いつも一人で食べているであろう晩御飯を、この前ようやくお互いの名前を教え合った相手に誘われたところで、一緒に食べるなんてあり得ない話で。

「……いいわよ」

 だから俺は、あの時の大山のように、一刀両断でバッサリ斬られることを覚悟して身構えていた。

「……いいわよ」

 だから俺は、どんな辛辣な言葉が来ても大丈夫なように、考えうる中でも最悪なケースを想定して聞く耳を立てていた。

「?」

 目を開いて彼女を見ると、不思議そうな顔で俺を見つめていた。
 一体どういうことなんだろう?

「どうした? 断りの言葉が見つからないのか?」
「晩御飯……一緒にって」
「ああ。だからバッサリ断ってくれ。言葉が見つからないのなら平手打ちでも構わないぞ」
「え……いいわよって」
「うんうん。いいわよ……って、ええっ?!」

 まさか……まさかの展開だ。
 まさかOKしてもらえるなんて。

「?」
「あ、ありがとうっ。じゃあ行こうかっ」

 平静を装おうとしても、上ずる俺の声。
 今の、恥ずかしさと高ぶりが入り交じった気持ちは、一体どう表現したらいいんだろうか?
 散々嫌がらせをした女子にいきなり告白してOK貰ったようなものだから。

 彼女はそんな俺の声には何も言わず、先に食堂へと入っていった。
 そんな彼女を追うように、俺も後に続いた。




 彼女は予想通り、躊躇いもなくマーボー豆腐のボタンを押した。
 そして俺も、彼女に倣った。

「貴方も同じなの?」
「ああ。前に食べてみたら、ちょっとヤミツキになってさ」
「……そう」

 お盆と食券を持ち、誰もいないマーボー豆腐の配膳口に向かう。
 彼女に引き続き、俺にも波々と真っ赤なマーボー豆腐が注がれた。

「物好きね」
「そうかな?」

 彼女の反応は、俺が学食のワースト人気メニューを敢えて頼んだことによるものなのか、あるいは彼女と全く同じものを食べようとしていることに対してのものだったのか、どちらなのかはわからなかった。
 そして、彼女と隣合わせになって食べることにした。彼女に倣うのだから、当然ご飯は無しである。日向が言っていたように、本当はご飯と一緒に食べるものなのかもしれないが、ここは敢えてである。

 レンゲで真っ赤な溶岩の中に浮かんでいる、白い物体を掬い、口に運ぶ。
 俺は知っている。一口目が一番刺激的だと言うことを。

「うおおおお……」

 口の中で弾ける辛さ……の前に、その溶岩が先に触れる唇がその強烈な刺激に晒されるのだ。
 途端に腫れ上がる唇……の周辺。

「大丈夫?」
「あ……ああ。慣れてきた」

 喉もとすぎると……ではないが、最初の刺激さえ耐えれば、後は他のメニューでは代え難いウマさに変換されていく。「慣れてきた」が適切な表現とは思えないが。
 学食メニューでありながら実験的で斬新さも兼ね備えたこの味は、他所では決して味わえないものに違いない。

「?」

 汗だくで食べている俺の姿が滑稽なのか、それを見ている彼女の顔には終始疑問符がついたままだった。



「いただきます」

 礼儀正しく両の手のひらを合わせてから、彼女もその溶岩の中にレンゲを差し入れ、それを掬った。
 彼女の白い肌と、レンゲに並々と注がれた真っ赤なマーボー豆腐とのコントラストが、肌の白さも、マーボー豆腐の赤さも、お互いをより強調させていた。そして躊躇いもなくそれを口へと運んだ。

「お、おい……」

 俺の驚きの声も全く届いていないのか、
 しかし、彼女の表情には変化がない。

 レンゲが皿と、彼女の口を往復する。それは作業じみているようにも見えた。

「辛いだろ、これ。こんなに真っ赤だもんな」
「……」

 俺の問い掛けにも答えず、彼女は黙々と食べ続けている。
 俺はと言うと、まだ口の中も唇の周りもヒリヒリしていると言うのに……。

「俺なんて口の周りがヒリヒリしててさ……」

 そう自分で言ってみて気づいた。
 驚いたことに、彼女の唇の周りには一切マーボー豆腐の汁はついてはいなかったのだ。たぶん今の俺や、あの時の日向とは違って。遥かに俺たちよりも口は小さいし、大きくも開けていないと言うのに。
 作業じみているからなのか、あるいは食べ慣れているからこそ出来る芸当なのか……。
 彼女の口の周りは、頬や額と同じく、色白な地肌の肌色を保ったままだ。

「どうしたの?」
「いや……どうやって食べてるのかな? って」
「? 
「な、何が……」

「口の周り、真っ赤」
「ああ……お前は感じてないのかもしれないけどな。俺たちにとってこのマーボー豆腐はすごく刺激的だったんだぞ」


 だが俺は知らなかった。
 いや、気づいていなかったんだ。
 俺たちの行動はすべて監視されていることに。


マーボー豆腐を一緒に食べる
天使笑う
ゆりっぺ乱入

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 最後の3行は、この先の展開のメモですね。1週間で書きたかったのですが、次の放送には間に合わなかったのです。それにしても、天使ちゃんのマーボー豆腐とか懐かしいですね。マーボー食いたい!

 感想とか無いと思いますが、あれば拍手とかコメント欄にどうぞ!


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