ギャルゲー原作のアニメ化の限界と可能性とは?〜アマガミSSを見て

 アマガミSSを見ています。関西在住のために2週遅れということで、あまり考察記事が書けなかったり、見ていてもモチベーションが上がらなかったりで実はBS-TBSの3週遅れの放送で見ているような状態ですが、ゲーム原作が好きなのでそれなりに楽しく見ています。ただ、原作で感じたものと比較すると、どうしても、何か物足りなかったり、こうじゃないだろ、とか思うことがかなり多くあります。
 以前に原作のアマガミ(ゲーム)の記事を書いたときに、タイトルに「最後のギャルゲー」とつけたわけですが、アマガミってギャルゲーのゲームとしての最新の進化形だ、と思っています。ラブプラスのほうだろJK、とか言う方もいるとは思いますが、ゲームとしてのギャルゲー、という括りで言えば、間違いなくアマガミのほうがゲームらしいギャルゲーではなかろうかと考えています。
 そんなアマガミのアニメ化作品が「アマガミSS」で、アニメ制作スタッフとしてゲーム制作チームが加わり、中でも原画かつ企画やシステム設計などに携わった、言わばアマガミ制作チームの中心人物である高山氏がかなりアニメ化に対して、例えば構成であったりどういうエピソードを入れたりだとかに意見を出していると言われています。以前に同じ制作チームが作ったキミキスが、アニメ化の際に大失敗だった(僕は見てないのですが)と言われておりそのためだと考えられますが、おかげで、ゲーム制作スタッフの意図がかなり込められた、あるいはゲームスタッフが見たアマガミの魅力が伝わるような、そんな内容になっているのではないかと思っています。
 ただ、それでも足りないものが多いように感じています。足りないというか、ゲームをプレイしたときに感じた作品の良さの一部、あるいは大部分がアニメでは削がれてしまっているような、そんな感じさえしてしまいます。それは何なんでしょうか? それを考えていくと、辿り着く先にあるのは、個人的には「ギャルゲー原作アニメの限界点」に行き着くのではないか? そんな風に感じてしまうのです。

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 以前のギャルゲーなら……って例えが古すぎて申し訳ないのですが、声が無かったり、ほとんどが静止画だったりしていました。その時代であれば、例えばキャスティングという新鮮味だったり、止まっていたキャラが動くという新鮮味だったりがあったわけで、アニメ化の際にプラスになる要素がかなり多くありました。シナリオも一本道だったりした場合は、アニメ化の際にもそれほど悩まずに構成を考えられたのでは無いかと思います。
 しかし最近のギャルゲーではどうでしょうか? 最近というかここ10年くらいの、でもいいのですが。
 声が付いているのはもはや当たり前です。無い方が珍しいというかほぼ声はゲームの時点で入っています。そして、だいたいが複数キャラ・シナリオのものです。この辺は以前からずっとそうでしたが。
 そして、表題のアマガミで言えば、例えば1キャラで複数のルートとエンディングが用意されています。また、会話システムがあり、話題選びによって会話の内容が多岐に及びます。この辺は恋愛SLG寄りのゲームなら当たり前とも言える部分でしょうが、これら全てアニメ化の際に反映させることはかなり難しいと思われます。何せ、ゲームでも1プレイではまず網羅できないですから。
 演出面でも、最近のギャルゲーではかなり強化されていますよね。表情差分はアニメよりもゲームのほうがパターンが多いんじゃないかと思いますし、登場キャラとの遠近感を表現したゲームもあります。効果音やBGMなんかは、ほぼゲーム原作で完成されていますしパターンも豊富にあります。アマガミSSでは新規に書き下ろされていますが、ギャルゲーではOPやEDに歌を採用しているのも普通になりつつあります。ムービーも入っているゲームも多く、「キャラが動く」ことがアニメで初めて実現するわけではない作品もあるわけです。
 アマガミSSでは、複数キャラ対応のために、1キャラ4話制で各キャラのお話がそれぞれ独立している、というオムニバス形式を採用しています。ギャルゲー原作アニメにありがちなのが、メインヒロインのシナリオのみ消化してその他のヒロインは少し触れる程度だったり、一応ヒロイン全員のルートはやるものの恋愛関係に発展するところまではいかないままメインヒロインのルートに戻る、というものでしたが、オムニバス形式で主人公と各ヒロインの恋愛関係が他のヒロインのお話にまで持って行かれないことで恋愛自体が成立し、また話がそれぞれのヒロインごとに完結することで○股状態にもならず、全てハッピーエンドで終わるという仕様になっています。アマガミはメインヒロインは存在するものの、各ヒロインでCGやイベントシーンの数が大きく変わるわけではなく、シナリオの長さ自体も同じようなものなので、この形式を取ったというのは非常に理にかなったものだったと思います。まあ2クールだからこそ出来た構成であり、1クールで終わっていたのなら最悪ではありましたが。
 ただし、1キャラ4話となると、かなり駆け足だなという印象も強いんですよね。ゲーム中の印象に強いイベントシーンが削られていたり、あるいは会話などを含めてダイジェストっぽくとりあえず触れてみた、程度に触れられていたりなど、かなり短いな、という印象も強かったりします。アマガミの特徴として1キャラあたりのシナリオやイベントシーンのボリュームの多さ、というのもあるのですが、そこに関しては全くもって満足感がありません。また当然ながら、アマガミの複数エンドもフォロー出来ているわけではありませんし、シナリオが独立しているがために、各ヒロイン同士のバッティングイベントも今のところフォローされている様子はないようです。原作ファンとしては、それらをひっくるめて「アマガミ」なので、その辺がフォローされていないのがどうしても物足りなく映ったりします。各ヒロインがED曲を歌っているとかは非常に良かったんですけどね。

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 しかしながら、いくら原作から面白さの大部分が削がれてしまおうと、アニメ化する意義が失われるわけではありません。というのも、ここまで書いたのはあくまで「原作プレイ済みユーザー(経験者)」が感じるものだからです。ゲーム原作の場合、どれだけゲームが売れようがユーザーなんて10万人前後なわけです。そしてそこからちゃんとゲームをクリアしたユーザーの数を考えると、しょせんそれほど割合的に多いわけではありません。もちろん、ゲーム原作のユーザーはアニメ化されたら高い割合でアニメも観るでしょうし、それがアニメ化の際の視聴者やDVD・BD購入者のベースになるでしょうから、原作ユーザーが見ないような作品は作れないと思いますし、原作ユーザーを無視することは出来ないでしょう。
 ただ、アニメ化された場合、そのアニメを見る人の大半はゲーム原作をプレイしていないわけです。そういうユーザーに対しては、そもそも原作にどれだけ忠実か、という観点も、原作の良さを殺している、という観点すらあまり意味がありません。むしろ、初めてこの作品にアニメで触れて、アニメそのものが、あるいはアニメ単体で面白いかどうか? この視点が全てではないでしょうか? なので、ゲームに含まれている要素を出来るだけフォローして、全体としてはすべての要素が薄まって面白さがぼやけてしまうよりは、ゲームの良い部分を限定的に抽出して、それをアニメの中で重点的に描いていくような作品のほうが、アニメから入る多くの視聴者にはわかりやすくなるのではないかとも考えられるわけです。
 その観点から行けば、「変態紳士」たる部分を大きくクローズアップしているアマガミSSの作り方は、Twitterで原作未プレイの人の感想を見ている限りでは成功しているのかな? と思っています。ゲームに興味を持った人も数多くいますしね。
 ただこの手法は、あくまでユーザーの割合が大きくないゲームを原作にした場合に限られるかもしれません。例えば、ラブプラスなどは更に原作ユーザーが多いわけで、その場合は原作を軽視するような手法では、割合的に多い原作ユーザーからの反発を招いてしまうでしょう。Key作品なんかも、原作ユーザーの声が大きくこの手法が取りにくいかもしれません。
 そういう問題が割と起きにくく、アニメ化の際に自由度が高いと思われるのが、漫画やライトノベルの原作の作品なのでしょう。ギャルゲーのアニメ化よりも漫画やライトノベル原作のアニメ化に対するハードルが低く感じたりするのは、この辺が影響しているのではないかと思っています。漫画やラノベ原作であれば、声や映像、音楽など様々なアニメ化の際の新要素がありますしね。新鮮味という意味でもギャルゲー原作よりもあるでしょうし。
 それでも、ギャルゲーのアニメ化の需要自体はなくならないとは思います。「高いお金を出さないと買えない上にクリアまで時間がかかる」ゲームを、誰にでも見れるテレビアニメ化することの意義がなくなるわけではないですから。ただ、既に主流からは外れてしまってるんだろうな、とは考えています。

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