美樹さやかは「堕ちた」のか「堕とされた」のか?〜魔法少女まどか☆マギカ8話より

 8話でついに魔女になってしまった(と思われる)さやかですが、自らが選択肢を全て間違ってしまって堕ちるべくして堕ちた、という声も聴かれる一方で、逆に巧妙に仕掛けられた罠に引っかかったとも取れる気がします。
 個人的には前者だと思っていたんですが、後者の意見も非常に頷けるものがありましたので、その根拠を色々と書いておきます。

  • 上條君の変心

 上條君は元々非常に精神的に不安定というか落ち込みやすい設定ではありましたし、CDを聴きながら泣いていたりもしたので、さやかを拒絶したあの展開に違和感を感じない人も多かったとは思いますが、3話で出てきた魔女と関係している可能性があるんですよね。
 3話でマミを喰った魔女が生まれたグリーフシードが刺さっていたのが病院の建物の外で、魔女の結界の中にも注射器や「手術中」の看板が出ていたりなど、結界内は病院の中の可能性が高いと思います。そしてその病院で入院していたのが上條君なわけですよね。
 上條君が魔女のくちづけを受けていたかどうかはわかりませんが、魔女の影響力がもし結界内全てに及ぶとしたら、その瘴気みたいなもので元々精神的に不安定だった上條君がより負の方向に考えるようになって、魔女を倒した後でも影響が残って……という変心の可能性があるということです。
 そもそも、野良グリーフシードがあんなところに落ちている事自体が考えてみたら異常なことなんですよね。何処からか飛んできた可能性は考えにくいですので、人為的に置かれていたということになる気がします。そうなると……。結果的にさやかは上條君の拒絶で魔法少女になる決意を固めるわけですから、仕組まれたもの、という気がしてなりません。元々さやかは、魔法少女としての素質が無いというよりは、精神的に向いていませんからね。魔法少女にさせること自体が、彼女の破滅を誘っている気すらします。

  • 杏子の襲来

 マミが死んだことで杏子が見滝原市に来るわけですが、最初の魔法少女としての考え方の大きな隔たりから、なかなか相入れない存在になってしまいました。正義感が強く頑固なさやかと、利己主義で力こそ全てだった杏子では、まず間違いなく対立することはわかっていたはずです。実際に対立して戦い、大きく魔力を消費したさやかは手持ちのグリーフシードを使い切ってしまいましたが、これはその後の展開に多少なりとも影響を残したと思います。
 まどかがグリーフシードを投げ捨てた件も、元はといえば杏子がさやかに戦いを吹っかけたからこそ起きたことですよね。そこで魔法少女の仕組みを知ったさやかがますますネガティブな思考を深めていくキッカケになってしまいました。
 その後は杏子が一方的にさやかのことを気に入り、何とか助けようと割としつこく説得したり一緒にいたりしましたが、出会いのシーンで杏子に対するイメージを固めてしまったさやかは、彼女のことを最後の最後くらいにようやく受け入れはしましたが手遅れでした。
 ちなみに、杏子を呼んだのは恐らくはキュゥべえなんですよね。マミが死んで魔法少女がいなくなった(さやかとの契約前に?)と伝えたら来た、という感じで。
 杏子に関しては、最初はさやかを消耗させるために登場させたとも取れるんですが、途中からさやかを助けようと奔走するようになります。9話では魔女になってしまったさやかを救おうとする話になると思いますが、当初の「さやかを堕とす目的」では無くなった杏子の意思や存在が、魔女になってしまったさやかにどう影響するのかとかが非常に気になりますね。無力なのか、あるいは何か奇跡を起こせるのか。

  • 仁美の突然のカミングアウト

 さやかにとっては決定的だったイベントだったかと思います。個人的には、仁美は本気で上條君に告白したかったわけではなく、さやかの背中を押したかったからこそついた「嘘」だったように思いますが、さやかが魔法少女になったのは上條君のためだったので、戦う意義を完全に失ってしまったことにもなってしまいました。
 この仁美の行動は自発的な意思によるもの、と普通は考えますが、仁美に魔女のくちづけをされた後遺症とか、実は魔女のくちづけによる影響はずっと消えない……ということになれば、さやかを陥れるために魔女か誰かに操作された、という可能性が否定できなくなります。上條君も同じく魔女の影響を受けていたと考えられるわけで、この2人がさやかを追い込んでいったことを考えると、そこに第三者の悪意みたいなものもあるのかな? と思うわけです。
 ただ仁美に関しては、なぜいきなり上條君に告白するって話が出てきたかって考えると、まどかとさやかがテレパシーを使ったりしてやたらと2人でいたりこそこそ話をしたりしているので、仁美との距離感が出来てしまっていたと思うんですよね。表面上は前と変わらない感じで接していましたが、まどかたちも事情は伝えられていませんし、逆に仁美もそこまで深くは詮索してきていないんですよね。そんなすれ違いが招いた出来事、というのが正しい見方なのかな、とも思いますが。

  • ほむらの存在

 ほむらがさやかを助けたシーンは実に3回もありました。最初は、マミが殺された後にまどかとさやかが魔女に襲われそうになったときに救いました。2回目は、杏子とのファーストインパクトの時に止めを刺されそうになったのを救いました。3回目は、まどかがソウルジェムを投げ捨てたときに瞬時に動いて取りに行きました。4回目は……微妙ですが、穢れを吸い込みすぎて危険な状態になったさやかにグリーフシードを渡しました。が、これだけ命を救われているにも関わらず、さやかはほむらに対しての警戒を解くどころか、自分を助ける行為の真意が別にあるとして、素直に受け取ることはしませんでした。さやかのプライドがそうさせたってのはあるのでしょうが、むしろそれまでの助けがさやかにとっては「借りを作っている」くらいに感じていたようにも思いました。
 しかしこれって、元を辿れば1話でほむらがキュゥべえを襲っていた場面に出くわしたから、なんですよね。ほむらがさやかにとっては敵……までもいかないまでも、マミのような「正義の味方」としての魔法少女ではない、つまりはリスペクトなんてできる対象じゃない、ってことを印象づけられてしまったからなんですよね。もちろん、ほむらがさやかを助けているのは、まどかが親友を失う、あるいは親友が殺される場面を見てしまうことをさせないためではあるんですが、「敵」では無いですよね。同じくまどかを想うのであれば。それがほぼ「敵」にまでなってしまったのは、最初の頃の刷り込みが相当さやかには効いているからだと思っています。
 その刷り込みは、ほむらがキュゥべえを襲っている場面を、キュゥべえ側がわざと作っているのだとしたら……? また、その後もマミはほむらを敵視しますが、その姿勢がさやかにも伝染っているわけで、マミが絶対的に正しいと思い込んでいるさやかに、ほむらは敵だと信じこませる意図って、魔法少女として正しい在り方を教える以上に意味がありそうな気がするのです。
 個人的には、キュゥべえはほむらを敵視する方向に誘導してるとは思います。「君はいったい何者なんだ」とか序盤にも言ってますしね。そこにマミも同調したようには見えますね。まどかはさほど影響されてませんが、さやかはモロにこの刷り込みからほむらには最後までなびきませんでした。結果的には、グリーフシードを受け取らないさやかを殺そうとさえしましたが、杏子に邪魔されて上手く(?)行きませんでしたが……。あの場面でほむらに殺されたほうが幸せだったのか、あるいは殺されなくて良かったのかはわかりませんけども。

                    • -

 とまあこんな感じです。どっちとも取れる事例がほとんどですね。杏子とほむらに関しては、完全にキュゥべえの仕組んだものということになりますが、上條君や仁美に関しては何とも言えません。もしキュゥべえに魔女を操るような力があるとしたら、全てキュゥべえの仕組んだ罠にさやかが堕ちた、ということになってしまいますが、真相はわかりません。たださやかが、別の意思によって堕とされたのは間違いないとは思います。
 なので、さやかは自業自得で魔女になってしまった、とまでは言えないと思います。もちろん、猜疑心や頑固さが魔法少女としてそもそも不向きだった、というのもあると思いますが、堕ちるように仕組まれていたこともまた事実ではないかと思っていますがどうでしょうか? ソウルジェムの穢れと精神状態の悪化という世界観の仕組みそのものも、彼女を陥れるように作られているのではありますが。

Web拍手送信