「音楽抜きのけいおん!!」なんかじゃない、超自然体のほのぼの百合アニメ「Aチャンネル」

 アニメ開始当初に「違和感」と書いてたアニメAチャンネルですが、相変わらず作画的な違和感は残るものの、毎週とても楽しく観させてもらってます。今期は豊作につきアニメBDマラソンをするほどではありませんが、売れてくれたらいいなあと思っています。
 さてそんなAチャンネルですが、「けいおん!」のバンドが無い感じとかキャラソン戦略だとか言われていますが、個人的にはむしろ「けいおん!」や「けいおん!!」で看過されがちな不自然さを一切取り除いていたり、ほのぼのさを強調していたりと非常に実験的で攻めている作品だと思います。
 そこで今回は、Aチャンネルはこれだけ攻めてるんだぞ、ということをけいおん(!!含む)を絡めながら書いていこうと思います。

  • 枠組み不在

 Aチャンネルは、トオルにるん、ナギとユー子の仲良し4人組を中心として描かれた作品ですが、この4人がどうして仲良しなのかは単純に「友達だから」以外に無いんですよね。トオルは昔からるんのことが大好き(逆も然り)ですし、アニメでは描かれていたかわかりませんがナギとユー子の馴れ初めも描かれてましたしね。アニメの1話では原作ではフォローが無い、るんとナギ・ユー子がトオルとは関係なく仲良くなっている様も描かれてましたし、よりこの4人が仲良くなっていく様子が濃く描かれているように感じました。トオルがナギやユー子と打ち解けていくのもアニメの方が丁寧に描いていますよね。もうすっかり打ち解けてますがw
 けいおん!だと、そもそも繋がっていたのは律と澪だけなんですよね。軽音部という枠組みがなければ知り合うことすらなかったかもしれないという。同じクラスになりそうな唯やムギと律澪については可能性がありそうですが、やはり「軽音部」があってこその友情ですし、特に年下の梓なんかは軽音部がなければまず関係を築けなかったんじゃないかと思います。
 もちろん、「軽音部」という仲良くなるキッカケというか共通の何か、があるほうが自然じゃないか? という意見もあるかと思います。ただ、中高生の時を思い出してみても、部活に打ち込んだ人たちならけいおん!的な友情の発生があったでしょうが、帰宅部だった人も多いわけでそんな人達が全員ぼっちだったわけでは当然ありません。どっちかといえば、同じ部活に好きな人も嫌な人もいるのがリアリティがあると思いますので、けいおん!みたいな仲良し集団な部活は割と都合のいい設定と言えるかもしれません。そんな枠組みがなく、ただ一緒にいてて気持ちいい面々だけとつるんでいるAチャンネルの仲良し4人組はただただ自然と言えるんじゃないでしょうか。

  • チートなキャラがいない

 個人的に感じるのは、「けいおん!!」で感じた都合のいい設定や仕掛け、仕組みなどがこのAチャンネルではほぼないに等しいことじゃないかと思います。それは前述の「枠組み」の話でもありましたが、他にもいくつもあります。
 まずは、けいおん!!でいうところのムギちゃんがいない、というあたりがあるのではないでしょうか。けいおん!の時はもっと大きな影響がありましたが、二期ではその辺がやや薄められてはいました。……が、普通なら一般家庭では所有してないような水槽だったり、短期間バイト出来るメイドカフェを紹介できたりなど、一期の合宿所ほどではないにしてもムギちゃんの一般人離れしたお金持ちさはチート気味でした。「放課後ティータイム」そのものもムギちゃんの力によるところですよね。毎日ケーキ食べてお茶を飲むことが出来るなんて普通の女子高生ではキツい気もしますし。また彼女の力の強さもなかなかのものなんじゃないかと思います。なので、彼女がいなければ成立しなかったことがたくさんあったんじゃないかと思います。
 唯の、初心者なのにそれなりにギターが弾けて歌えるようになっているのも、あの練習量の少なさを考えると結構なものですよね。絶対音感とかもありますし、ふわふわしたキャラに見えてチートさも持ったキャラだと思っています。唯の妹の憂はめちゃくちゃチートなキャラですよね。何でも出来るし、唯のコピーも出来るし、何より料理を含めた家事全般が出来るわけで。
 そう考えると、Aチャンネルにはそういうキャラはいないんですよね。トオルは年上のるんに勉強を教えられるくらいには頭いいですが、天才的とまではいかないでしょうし、目立って勉強的にチートなキャラはいないようです。他にも、芸術の才能があるとか運動神経が凄いとかそういう設定も無さそうですし、敢えて言うならユー子がモデル体型だということくらいなんですかね。るんが男子生徒に人気があるのも、美人とかそういうのではなく、明るくて気さくなところが可愛いから、って感じですしね。この辺が凄く自然だなあと思うわけです。こういう日常系の作品では、ちょっとチートな才能を持ったキャラを登場させることで起こせる笑いにも走りがちではあるんですが、それもこのAチャンネルではやってるようには見えないんですよね。その辺が、よりゆるさが目立つ結果にもなっていますし、ある意味では自然な真の意味での日常系作品にもなっているんじゃないかと思います。

  • 何も成し遂げないゆるさ

 アニメの序盤で、ナギが夏に向けてダイエットをしようしようとする場面がいくつか出てきます。が、結局特に効果なしなんですよね。実際にどのくらい努力したかも曖昧ですし、そもそもそれほど気にするほどにお肉がついていたかもわからないんですが。でも海行って水着になってるんですよね。つまりはダイエットは成し遂げてない、と。
 このAチャンネルには長期的な目標もなければ、そこに進むために何か努力するということは全く描いていません。短期的な目標でさえ曖昧になってしまうんですから当然ですが……(ユー子の忘れ物を取りに行った回とか)。
 けいおん!だと、目指せ武道館だったり新入部員勧誘のためのライブやらチラシまきなどの「努力」をしたり「目標」があったりするんですよね。なので、一応はそこへ向かっている……という流れも残しているんですよね。だから、アニメ二期は特にその「ゆるさ」がクローズアップされてましたが、卒業という終わりに向かっての話でしたし、ゆるやかながら唯も律もムギも成長していましたからね。
 Aチャンネルで成長要素なのは恐らくはトオルの人見知りが治る部分のみで、るんがアホの子から脱却してしまうことは恐らく無いでしょう。この「変わらない日常」というのはAチャンネルでの特徴的な描かれ方なのかもしれません。

  • 時間の経過そのものがストーリー

 Aチャンネルで感じるのは、ストーリーは本当に無いんだな、ということです。まあ、トオルの交友範囲やるん以外にも打ち解けていくあたりはストーリーと言える数少ない部分だと思いますが、その他にあるのはただ「時間が流れていく」この一点ではないでしょうか。
 アニメAチャンネルの面白いところに、全話かどうかはわかりませんが、多くの話で「1日」単位になっていることじゃないかと思います。終わりが日が暮れる・夜になる・1日が終わって朝になる、という感じで。海水浴回とか花火回、肝試し(忘れ物)回もるんとトオルのケンカ回なんかは「1日が始まって終わる」ことを意識させるような構成になってると思います。特にストーリーらしいストーリーがないアニメAチャンネルなので、この1日が終わる、あるいは1日単位の時間の流れこそがこのAチャンネルのストーリーと呼べる部分なのではないでしょうか。

  • 男性や大人の存在と限定されている干渉度

 るんが男子生徒に人気がある、という設定は1話冒頭でいきなり見せていたので驚きましたが、その後は最新話で久々に出てきたりしましたがあまり仲良し4人組には深く関与していません。るんがいくら男子生徒に絡まれても彼女自身が男子生徒を好きになる訳ではありませんし、トオルも邪魔するだけでコミュニケーションを取るわけではありません。
 また、個性的な先生3人も出てきて仲良し4人組に関わりますが、それぞれでスタンスが違うのが面白いですよね。鎌手先生はあまり関わりませんが、鬼頭先生はトオルとるんのケンカ……はともかく仲直りの場面を観て号泣してましたし、佐藤先生はるんに対しておでこのみならず存在そのものを偏愛しています。が、いずれも彼女たちの行動指針には影響を及ぼしていないんですよね。肝試しの時も、佐藤先生は出てきてベッドの下敷きにされましたが、それは結果として彼女たちが得たものにも影響してませんし、彼女たちが1日、あるいはそのイベントを楽しんだということ以外には及ぼしていないんですよね。
 また、るんが男子生徒や佐藤先生から好かれているという設定は、彼女が男性から観ても魅力的なキャラであることをより強くさせているような気がします。けいおん!だと、アホでゆるゆるであまり練習しようともしなかったりだらしなかったりするけど、唯の下へみんな集まってくるんですよね。ただ、ベルサイユのばらの役の投票ではあまり入っていなかったように普遍的に観て魅力的な子ではないような感じですよね。ずっと接してるからこそわかる魅力を描いていたように思います。が、Aチャンネルではその積み重ねを、男子生徒や佐藤先生に好かれていることで、客観的に観ても魅力的な子なんだ、ということを視聴者側に強く示しているように思います。
 なので、男子からも好かれているるんが、男子生徒や佐藤先生ではなくトオルやナギ・ユー子たち女の子を選んで遊んでいる、ところに「男<女」であることを示唆し、百合的なゆるい日常系アニメであることも演出できているように思います。まあるんは子どもっぽいところもありますし、それはトオルにも言えることなので、恋愛よりも同性の友達、という感じなのか、恋愛にまだ興味がないという意味合いなのかはわかりませんけども……。

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 以上です。長々と書いてしまいましたが、Aチャンネルがいかに実験的な作品なのかということが伝わったでしょうか?
 Aチャンネルも1年が経過して終わりなんだろうと思ってますが、るんたちが2年生なのでさほど別れで悲しい終わりにはならないでしょう。逆にもし二期があるとしたら1年が経過した後でしょうが、トオルが三度目経験するるんとの別れが、ナギやユー子も加わってより悲しいことになりそうなものになりそうですね。そちらのAチャンネルも観てみたいと思ってます。

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