今期No.1ダークホースアニメ『ベン・トー』は何故話題性抜群なのに売れそうにないのかを考えてみた

 今期アニメで、昨期のように、原作があまり有名でないところからのダークホース的な面白さを見せてくれているのが間違いなく「ベン・トー」だと思っています。半額弁当バトルというテーマを上手く面白さに変換している気がするのですが、よくあるラノベ作品ならではの「中二病」的な造語を、半額弁当を狙う狼たちの二つ名としてや、半額シール貼付することを「半値印証時刻(ハーフプライスラベリングタイム)」とか横文字で言ってみたりなど、そういう中二的な用語を上手くシリアスさと笑いの部分を両立させるような使い方をしていて、非常にその辺で興味深い作りになっているなあと思います。
 スーパーの陳列棚の描き方や商品の造形、スーパーの構造とか、弁当作画監督を配置する弁当描写のこだわりなど各所で力が入ってますし、半額弁当をめぐるバトルシーンは非常に見応えがある作画にもなっていて、なるほどかなりよく出来たアニメだと思いました。
 が、アニメBD/DVDの発売が1ヶ月後に迫る中、日々観測しているamazonのアニメDVDランキングではなかなか浮上して来ません。今期はFate/ZeroやP4、WORKING'!!に境界線上のホライゾンあたりが既にランキング上位なのですが、そのあたりからは大きく引き離されていますし、その他の大ヒットはしないだろうけどそこそこなラインにも名前がありません。まあ、前述の作品は原作ファンが強い作品ばかりではあるのですが、夏期アニメでは原作ファンが多くなかったゆるゆりや原作そのものの評判がイマイチだったうたプリあたりの動きを思い出すと、現時点でこのランキングではなかなかセールス的な大成功は難しいのではないかと思うわけです。
 面白ければ売れなくてもいいじゃん、と言われそうですが、原作が爆発的に売れているわけでもなさそうですし(たぶん)、アニメ単体としても面白くなっているのに売れそうにもないのはどうにも疑問を抱かずにはいられません。個人的にも非常に面白いと思いながらもポチるには至っていない理由なんかを、自分自身の感想と想像を交えながら考えてみたいと思います。

  • 半額弁当のありがたみがわからない?

 まず1つ目のここに引っかかるのであれば、そもそもこの企画自体がニッチすぎてアニメという媒体に向かない、ということにもなってしまいますが、少なからずあるのではないかと考えています。
 最近ではコンビニでもあるようですが、半額弁当というものの存在はほぼスーパー限定です。しかも、各スーパーで半額シール貼付のタイミングとかシールそのもの、半額神が異なるのも当たり前です。……が、その辺の仕組みがわかるのはスーパーでそういう場面や時間帯に立ち会えたことのある人たちだけだと思うんですよね。スーパーを使わずコンビニだけで事足りてたり、日々を外食で過ごしてたり、自炊が得意だったり、一人暮らし経験が無かったりすると、半額弁当そのものの存在からまずピンとこない可能性もあります。「こういうものなんだな」で納得して観てる半額弁当の存在を知らない層もいそうですが、やはりあの半額弁当を現実で知ってるか否かは「あるあるw」的な楽しめ方が出来るか出来ないかと大きく違ってきますから、まずはこの部分が1つ目のハードルになっているような気がします。
 普段は400円とか600円とかの価値のものが半額で食べられる優越感は代えがたいものがありますので。あと、半額神登場前後の売り場の空気の変わり方は、実際にああいうバトルにはならないにしても戦場そのもののスーパーも実際にありますので。あれ知ってるともの凄く面白いんですが、知らないで何処まで楽しいのかはちょっと謎だったりします。

  • 半額弁当の良さをわかる層=BD/DVDにまで回すお金の無い層?

 これは主人公の佐藤のようなものですが、半額弁当をありがたいと感じるのは、恐らくは現役の学生さんだと思います。学生さんと言っても時間があり一人暮らしをしてるような層……となると、恐らくは大学生がほとんどではないでしょうか。あるいはかつては半額弁当に世話になった層か。
 現役の半額弁当ユーザーだと、アニメのBD/DVDにまで手を出せるのだろうか? と思うわけです。1巻買うだけで20日分くらいの弁当代になるわけで。どん兵衛換算なら1ヶ月分です。ちょっと、アニメBD/DVDを買わせてなんぼな深夜アニメの企画としては、ここを狙ってきたのはちと狭すぎた感じがしました。

  • セガネタがわからない→若年層にウケない?

 さほど出てきてはいませんが、佐藤の部屋にはセガのゲーム機があって実際にプレイしていますが、果たしてこのネタがどれくらい通用しているのかという疑問があります。セガのゲーム機といえばドリームキャストまで遡らなければならないわけですが、もうハードの全盛期からは10年くらい経過しています。小学生がプレイするようなハードでなかったということを考えると、高校生以下のアニメファンにはこのネタが通用しない可能性が高いんじゃないかと思います。もちろん僕はドリームキャストユーザーでしたし、むしろ20代後半から30代前半にはウケるとは思うのですが、それ以下の層には何のことかわからないんじゃないかと。前述の半額弁当ユーザーといい、ここでも対象となる層を大きく狭めてしまっているように思えます。

 主要キャラは、主人公の佐藤に、HP同好会部長の槍水仙、部員の白粉花、幼なじみの著莪あやめ、生徒会の白梅梅あたりですが、まず白梅さんは狼ではないですし決して佐藤にデレることのないガチレズな人なのでともかく、白粉さんは腐女子ですし佐藤に魅力は感じてるものの「佐藤→斎藤と誰かのガチホモ妄想」の材料に使っているに過ぎませんし、槍水先輩は特にデレることなく佐藤に半額弁当道を授けようとしているだけですし、あやめにしても佐藤に好意は持っているようですがどちらかと言えば親友に近い感じでもあります。こうして観ると、主要キャラに女性キャラが多い割には全くハーレム的な要素がないんですよね。
 個人的には、ラノベ原作アニメのハーレム物は「インフィニット・ストラトス(IS)」でやりきった感があったのか、あそこがピークだったように感じています。なので、ハーレム物と見せかけてそういう描き方をしていないこのベン・トーという作品は面白いと思ってます。ただ、そうでなくともキャラ萌え要素はしっかりと描いていかないとなかなか売れ線には乗りません。ですが、残念ながらベン・トーのキャラにはそこまでの萌え要素が個人的には感じられないんですよね。キャラの魅力を描写することよりも、半額弁当バトルの面白さや他の狼の描写を優先してしまっているように感じてしまい、結果的に弁当の記憶しか残らないという感じなのかなあと思っています。
 白粉花さんは良いと思うんですけどね。悠木碧さんってこんなハイテンション妄想娘もイケるんだ、と言うよりもはっちゃけすぎてて凄すぎるんですが……。彼女の妄想や筋肉刑事の朗読はBD買って聴く価値もあると思うのですが、それは話の本筋からは微妙に外れてしまっている。引いては、どうも原作を知らずアニメを観ている層が、悠木碧さんの演技が抜けすぎてるからか、白粉さんが割と抜けた人気している気がするんですよね。以前にまとめブログなどで白粉さんを溺愛する白梅さんの佐藤への暴力が理不尽すぎると取り上げられていたりもしましたが、あれもあまり半額弁当バトルにガチでは参加していない白粉さん絡みですし、ましてや狼でもない白梅さんがああいう形でフィーチャーされてしまうあたりに、この作品の本筋に絡むキャラ以上に目立ってしまっている弊害みたいなものも出てきてしまっているんじゃないかと思いました。
 佐藤の二つ名が「変態」である以上、あまりハーレム的な展開にもならないでしょうし、佐藤が二枚目的な魅力を発揮することもあまりないのかもしれませんが、あまり主人公へのデレがなさすぎるのも微妙なんだなあと思いましたし、それに代わる何かは絶対に必要なんだろうと感じました。

  • そもそも、佐藤たちで無ければいけないのか?

 これを言ってしまうとこの作品そのものを否定してしまうような気がするのですが、この「ベン・トー」という作品の構造が、佐藤らこの登場人物でベストだったのかどうかが気になってます。
 例えば「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」だと、主要キャラは誰が抜けても話が成立しないし、ああいうキャラたちが一緒にいたり絡んだりしているからこその面白さだったんじゃないかと思うわけですが、ベン・トーはこの半額弁当バトルの構造に対して、それを最大限面白くするためにはあのキャラクターたちがベストな布陣ではないのではないかという疑問があったりします。もちろん、このベン・トーという作品がハーレム物のテンプレを使っていないことや、登場するキャラクターたちもテンプレ的な要素を回避しながら作られていることはよくわかりますし、テンプレ的な設定から発生するあざとさは感じられないので狙いとしては成功しているような気はしますが、テンプレを回避する代わりの何かが提示できていないような気はしています。

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 ベン・トーは主人公の佐藤が、よくあるラノベ原作アニメの主人公キャラにある「草食」「ヘタレ」「ツッコミ役」という要素をほとんど持たない珍しいタイプだと思うんですが、これってちょっと昔の少年漫画の主人公キャラそのものなんですよね。というかベン・トーそのものがラノベ作品の主流よりも凄く漫画チックな構造をした作品だという感じで観ているので、どうしてもキャラよりもバトル方面への特化になってしまうのかもしれませんが、弁当を巡ってヒロインキャラと殴り合わないといけない(同じ弁当を目指すのなら)設定とか、なのに普段は仲間というあたりも微妙に相乗効果には繋がらないんだろうなあと思ってます。
 なので、例えば超えなければならないラスボス的な存在が最初からいたり(槍水先輩?)、高みを目指しながら段階的に強くなっていったり、特殊能力的なものがあったり、何かシリーズを通して流れているテーマみたいなものがあったらもう少し違った面白さを見出せるのかなあと思いました。
 茶髪を含め各女性の狼たちの太ももとかは美味しそうに描かれていますし、弁当に収まってるあのアイキャッチ絵も素晴らしいですし、本当によく作られたアニメだと思うだけに、次週くらいから登場するという原作での人気キャラだという双子の登場で違った魅力を見せて欲しいと思いますが……。

※11月22日21時時点のamazonでのベン・トーBD1巻は過去最上位にいますが、記事を書いていたときにはこの倍くらいの順位だったことを追記しておきます。


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