「じょしらく」と「人類は衰退しました」で感じる、成人した女性キャラがメインキャラクターであるメリットとは?

 今期アニメで面白いなと思っている作品として「じょしらく」と「人類は衰退しました」があります。どちらもさほど萌え要素押しな内容ではなくむしろ今までのアニメからするとちょっと〜かなり毛色の違う内容になっていますが、どちらもなかなか工夫されて作られているのがよくわかりますし、キャラ萌え押しな作品に食傷気味な自分にとっては非常に楽しく見させてもらってます。
 この2作品に共通する要素といえば、成人している(18歳以上?)女性が主人公であるという部分があります。一時期はアニメの主人公やヒロインはみな女子中学生や女子高生といったティーンでなければならないみたいな風潮もあって大人キャラが主人公なアニメはあまり多くありませんでしたが、今期はそういった流れとは違って大人の女性が主役だったりメインヒロインだったりするアニメが多い印象です。
 その中からこの2作品を取り上げてみるわけですが、どちらも一見すると成人しているようには見えない可愛らしいデザインのキャラなのにティーンじゃないというのは、主要キャラは若くなければならないみたいな人にとっては誰得だと思うかもしれません。いずれも原作がそういう設定になっているからでもあるのですが、大人であることを生かした設定や展開でもあるとも思っています。今回はそんな「じょしらく」と「人類は衰退しました」の女性主人公が成人していることがどの辺に生かされていると感じるかを考えてみました。

お後がよろしくって・・・よ!

お後がよろしくって・・・よ!

 じょしらく田中将賀さんのキャラデザといい原作のヤスさんといい可愛らしいキャラデザではあるんですが、彼女らは前座あるいは二つ目でまだ駆け出しではあるんでしょうけどプロの落語家なんですよね。恐らくですが学校は卒業していていわゆる社会人という感じでしょう。
 個人的にこの作品でキャラクターたちが成人していることを生かしているのが、肝となる会話の引き出しの多さになるのではないかと思っています。例えば、これが「おちけん!」的な部活動アニメだったとすると、話のネタ的に社会的なものやお金的なものが扱いにくくなるでしょう。そうじゃないほうが良かったという声もありそうですが、例えば宝くじネタで盛り上がったりだとかそんな女子高生は嫌すぎます。彼女らが社会人になっているからこそお金のネタで盛り上がれるわけです。
 また、Bパートの東京観光モードでは毎回東京のどこか名所だったり有名なスポットに出かけたりするわけですが、これも学生よりも社会人だからこそアフターで行く事に違和感がないような気がしますし、外でビール飲んだりする光景も成人ならではなオフを満喫しているとも言えるでしょう。ちょっと話は逸れますが、酒と落語って結構密接に関わっていると思うんですよね。落語で酒を飲むところなんかは定番でありますし。その辺も考えると落語でアニメをするのであれば、学生よりも社会人設定のほうがやりやすさがあるのではないかとも思うのです。学生設定の作品だと、何処か出かけるために何か口実や理由を作っているケースが多いような気もしますし、ましてや聖地や舞台があるような作品だとその場所に縛られてしまいますからね。じょしらくの場合は末廣亭という場所が舞台ではありますが、Bパートだけは場所からも制服(袴)からも開放されています。ギャグ物だからという気もしないでもありませんが、特に理由もなくぶらぶらするには学生じゃないほうが都合はいいように感じています。

 この作品も一見すると可愛らしいデザインで描かれてますが成人ですよね。最後の学校卒業者で公務員な主人公でした。
 成人設定を生かしてる部分はどの辺にあるか、じょしらくと比較すると見えづらい部分がありますが、じょしらくが仕事と言うよりは休憩時間やアフター主体の内容なのに対し、人退は1,2話が仕事中のお話なんですよね。仕事中にとある謎を追ってるうちにああいう工場を見つけたりチキンたちの野望を阻止したりしていたわけで。高校生とかでも探偵物とかミステリ物なんかだとそういうことが出来なくもないのですが、あくまでも「仕事」なので「仕方なく」やってる感じがすごくしたんですよね。「わたし」の声優さんは中原麻衣さんですが、その演じ方がもの凄く「仕方なく」やってる感じを出しているように思います。だから、謎を探求するなんていう好奇心から来るものが動機ではないように感じるんですよね。そこが凄く「社会人」とか「仕事」だからという設定とリンクしているような気がします。
 人退は社会人設定で無くても良さそうな感じもあるんですが、そうすると妖精さんとの不思議な出来事「だけ」を追えず学生生活も描かないといけなくなります。やはりそうした「縛り」から開放するための社会人設定なのかなとも考えたりします。「わたし」はビール飲んだりするシーンはたぶんないだろうとは思うのですが……でもまあヤケ酒しててもいいことになりますからね。

  • 学生設定は「縛り」?

 統計を取ってるわけではないのですが、ここ最近メインキャラが中高生設定ではないアニメが目立ってきているような気がしています。社会人設定ではなくても昨年のシュタインズ・ゲートのような大学生設定のアニメであっても、毎日学校に行く必要はない(にしてもほとんど行かなかったですよね……)わけで、中高生設定あたりからすると随分と縛りから開放されています。学校生活を描くことにリソースを奪われるくらいなら描きたいことに集中して尺を割ける社会人を主人公にしたほうがより面白くなるとかそういうふうに考えていたりもするのか、その辺を原作者が考えているかはよくわかりませんが、アニメの企画者たちはそういう考え方も出てきているような気がします。

  • 中高生設定でなくても「売れる」アニメは作れる

 深夜でパッケージを売るためのアニメ、という観点だと従来は中高生が主役のアニメが主流でした。が、昨年だと前述のシュタインズ・ゲートや、女性向けとはいえTIGER&BUNNYだとかがヒットしたことでずいぶんと視聴者の許容が広がってきている傾向も見えてきていますし、何が何でも女の子が18歳未満でなければならない、という人も自身の年齢が上がって守備範囲が広がっている可能性もありますからね。企画意図はわかりませんが、アニメ化させる原作選びの段階で「この作品は面白いしアニメ向きかもしれないけど主人公たちが大人だからNG」なんてこともなくなってくるような気もします(実際はどうなのかわかりませんが)。
 というのも、じょしらくも人退も以前ならまずアニメ化だなんていう話は上がって来なかったと思うんですよね。どちらも萌えとは程遠いし、じょしらくは名前覚えにくいし人退には固有名詞での名前を持つキャラがいないという……。この辺も、仕事上必要な情報だけあればいい、という社会人ならではの割り切った何かがあるのかもしれませんね。そういえば学校が舞台になるような作品だと、「Another」ではセリフのないクラスメイトにまで名前ととりあえずの設定を入れたという話がありましたし「けいおん!!」や「放浪息子」でもやっていたと思うんですが、ほとんど背景でしか無いモブキャラにまで設定を作ることがもはや当たり前になっています。そうすることで生まれる面白さも当然あると思うのですが、本当に見せたい部分ってそこじゃないと思うんですよね。特に「けいおん!!」だとあくまでも面白いのは部室で、もちろん教室での風景も描いているからこそ終盤だったり映画のシーンが映えたというのもあるんですが、別に国民的アニメでもない、映画化なんて目指していないのであれば、一番見せたい部分だけを重点的に描けば良いと思うんです。それが結果として売れるかどうかはまた別問題ですが、売れるんじゃないかと思う要素だけを描くためにやりやすい設定として、大人設定のようにも思います。

  • モブ排除を可能にしている

 その意味では「じょしらく」は究極的ですよね。つまりあれは、けいおん!で言えば音楽室に引きこもっていて、Bパートだけ外出してるって感じですからね。メインキャラ以外はほぼ背景でしかありませんし、特殊な仕事の上にほぼ私有化してしまっている楽屋が舞台なので、クラスメイト的な存在も設定のお陰で描く必要がないわけです。「人類は衰退しました」は未来設定もあるのですが、同僚がおじいさんと助手しかいない上に固有名詞を持たないことで常時出てくるキャラでなければ覚えることが難しくなってます。人退の場合は人類が衰退したことを都合のいい設定として使ってるようなところもありますけども。
 この2作品に共通してるとは言い難い部分ではありますが、どちらも社会人設定があるからこそモブ排除/軽視を可能にした作品という部分では共通していると思っています。

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 個人的に決め手となる部分はまだ見当たりません。ある種の省力化を目指した中での企画という風にも見えますし、逆に今まで学生縛りで出来なかった設定が色々と可能になっているとも言えると思ってます。お仕事アニメになってしまうと世知辛い面が色々と出てきてしまうのでアレですが、それが結果として面白さに繋がれば、面白いアニメになれば良いと思うのでどんどん出てきて欲しいですね。「じょしらく」も「人類は衰退しました」もまだまだ折り返しくらいですし今後が楽しみです。

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<追記>
 夏雪ランデブーをなぜ加えないかとかブックマークコメントで書かれてますが、あくまでも見た目は未成年でも通るキャラなのに成人設定な作品に絞って書いたつもりです。夏雪ランデブーは六花ちゃんが30歳というのが鍵なので今回は言及しませんでした。