たまこラブストーリーに見る「変わらずにはいられない」山田尚子監督のテーマ性

　たまこラブストーリーを観てきましたが、あまり期待してなかったようなところもあったのですが（失礼！）観終わった後にめちゃくちゃ満足感がありました。個人的に感じていたたまこまーけっとという作品の欠点や弱点みたいなところをキッチリとカットされてあったり、あるいはどういう作品なのかという物語の主題みたいなものをはっきりと描いていたりと、ここのところのテレビアニメから映画になった作品の中でも非常に完成度も高かったように思いました。
　さて今回は何について書こうかと色々と考えた結果、根底にありそうなテーマについて考えてみることにしました。それがお題にある「変わらずにはいられない」というものです。このセリフはKey原作で京都アニメーションこと京アニがアニメ化したCLANNADのメインヒロインである古河渚が作品冒頭につぶやくセリフとして記憶されている方もいるかと思います。CLANNADは山田尚子監督の作品ではありませんけど演出では参加していて、絵コンテなどを任されるようになったまさに出世作といえる作品でしょうが、その影響を端々に受けているのではないかということです。その辺が山田尚子さんが初監督を務めたけいおん！シリーズでも垣間見えるような気がしています。
　けいおん！は1期では基本的には原作に忠実な路線で描かれていましたが、2期ではオリジナル色を濃い目にして、かつ主には主人公である平沢唯の変わってい無さそうで、でもそのままではなく、ゆっくりと変わっていく様をじっくり描いてました。けいおんについては1期である程度唯がしっかりしたところまで描いてしまったので2期の最初は退行したかのようにも見えてしまいましたが、どちらかと言えば2期は冒頭から若干リセット気味にスタートして、2期の中で成長というか変わっていく様を描いていたようにも思いました。唯の名セリフである「大人になったら大人になるのかな」というのが物語っているように「変わらずにはいられない」ことを示唆するかのようなセリフや内容になっていたと思います。
　そして表題のたまこラブストーリーに入ります。まさしく「変わらずにはいられない」でしたよね。テレビ版のたまこまーけっとでは主人公のたまこが恋愛とかってあり得るのか？　ってくらいに不変なキャラクターでしたが、たまラブでは本当にもち蔵に告白されてから揺れに揺れて、そして最後には少し変わったという感じでした。ただ個人的には、もち蔵やたまこの変化というよりは、それを取り巻く周りの人間なんかの変化とか示唆も含めての「変わらずにはいられない」なのかなとも思いました。それは、例えばもち蔵が東京に行く（予定）とのことでもち蔵の実家の跡取りの問題があったり、みどりが家を継ぐ意思がないことでおもちゃ屋の先行きが見通せないことになっていたり、銭湯とかその他のお店、もちろんたまやそのものの未来もどうなるかわからないわけですが、その辺の示唆はかなり入っていたように感じました。
　たまこまーけっとからたまこラブストーリーでは、時間経過的には数ヶ月程度のものだろうという観てはいますが、その短い時間の中での変化をたまラブでは描いていたように感じています。比較すると、けいおん!!ではそれが1年間なわけで、CLANNADになると年単位になるわけです。さすがに変化する部分も多いはずですが、その変化を意識して描いていたのが、けいおん!!とたまラブなんだろうと思っています。
　それからすると、けいおん！（1期）とたまこまーけっとはある意味似ているかもしれません。共に変化することはあまり意識されていないように見えます。けいおん！のほうはさすがに1クールで2年も経過していて駆け足気味なだけだったのかもしれませんが、たまこまーけっとは色んな要素を詰め込み過ぎたためか変化することを描けていなかったように感じてます。その辺を顧みてのけいおん!!とたまラブだったのかなあと思うわけです。なので、そんな詰め込みすぎや駆け足気味な前作を踏まえ、描けなかった要素をメインに据えて構成を作りなおしたような印象を受けました。
　こういう続編の作り方は京アニだからこそ出来るのかと思うのですが、それをやって新たな面白さをプラスし作品世界を広げられるのは山田尚子監督だけなような気もしてるのです。けいおんも2期で新たなファンを獲得しましたが、たまこも映画の評判を聴いてたまラブから入ってくる人がいないとも限りません。そういう新規層にもちゃんと観れるような作りになっているという点では、テレビシリーズを観たファン向けアニメになっていた他の映画化作品とは一線を画していると思います。
　山田監督の新作が何になるかはわかりませんが、これからも「変わること」「変わらないこと」を意識しながら次回作を楽しみにしたいと思います。