まるで宝塚?! 水樹奈々座長公演の舞台として観る「クロスアンジュ」

 今期はSHIROBAKOに続いて面白いと思ってるのが「クロスアンジュ」です。ロボットアニメだしキングレコードスターチャイルド色満載で絶対好きにならないだろうなって放送前には思っていたのですが、非常に突き抜けた描き方をしているのと、案外キャラクター単体の掘り下げや関係性の深みがあって自分好みの内容になってました。クズみたいな根性と行動をしていた主人公のアンジュさんも非常に魅力的に思えてきて、制作陣の思惑通りになってきたように思います。部分部分を観ると非常に大味かつ適当な作りではあるのでそういうところを気にする人はキツいかもしれませんが、個人的には「戦姫絶唱シンフォギア」のようなノリで楽しませてもらってます。
 そして観ていて気になった点があって、それは水樹奈々さんが主人公役」という点と、その奈々さん演じるアンジュがどんなにクズな行動や言動をしても輝きを失わないような描かれ方をしてる点、そしてそんなアンジュが何処までもヒーローというか王子様的に描かれているところです。何処までもアンジュが中心に描かれているんですよね。その理由って何だろうな……と考えついた内容をつらつらと書いてみましたので、興味があれば読んでいただきたいと思います。

 観ていてすごく感じるのが、水樹奈々さんが座長公演している舞台」な感じだったりします。座長というものが本来どういうものなのかってのはよくわからないのですが、お客さんは間違いなく奈々さんを観に来てると想定していて、その目当ての奈々さんが何処までも堪能できるような作りをしているのがこのクロスアンジュなのではないかと感じています。と言うか周りの演者が全て奈々さん演じるアンジュの引き立て役として配置されているように見えるんですよね。アンジュのお付きの侍女であるモモカを演じているのはスタチャレーベルの若手である上坂すみれさんですし、アンジュは持ってて自分は持ってないというサリアを演じる喜多村英梨さんは何となくですが現状の奈々さんとの差を感じさせるようなキャラクターにもなっているようにも感じます。そして何よりもそう感じさせてくれるのが、田村ゆかりさん演じるヒルダがアンジュのライバル的なキャラからアンジュに落とされたキャラみたいに描かれている点でしょう。何となくですが、キングレコード的にはあくまでも大エースは奈々さんでゆかりんはエースではないという位置づけなのかなとも思いますし、ただ奈々さんキャラとライバルやパートナー的なポジションのキャラを演じるのに相応しい格や実績、実力がある声優と考えるとゆかりんしかいないのではないかと思うあたり、すごく奈々さんを引き立てるためのポジショニングとその演者とのバランスを考えたキャスティングになっているように感じるのですよね。そういう点で言えば、宝塚の男役スターとして観る水樹奈々さんとその他みたいな関係性で観れるのかなあとも感じるわけです。その関係性から言えば、まだほとんど出番のないキャラではありますが堀江由衣さんが演じるサラというキャラはほぼ間違いなくお姫様キャラで、宝塚的に言えば女役トップですよね。ほっちゃんといえば絶対的ヒロイン声優さんですし、ToHeartのマルチに萌えオタ化されてしまった身からしてもそこは間違いないところかと思います。回想シーン(?)でいずれの時代もライバルかカップルだったっぽい関係性からも、キングレコードの王子とスターチャイルドの姫的な関係のキャラなんだろうなあと思うわけです。
 ちなみに、ゆかりんほっちゃんはアーティストとしての参加ではなくあくまでもイチ声優としての参加なんだろうとも思ってます。だから彼女らが主題歌を歌うことはないのです。どちらもアーティストとして自身の世界を築いてる人たちなので当然だとは思いますが、声優とアーティストとを切り離して奈々さんの座長公演に演者として参加しているような印象も受けました。

 クロスアンジュでの水樹奈々さんの主人公性の強さは何だろう……と考えていたのですが、そもそも奈々さんがアニメの主人公を演じているのが結構レアなことなのかなとも思いました。と言うのも、彼女が主役だったアニメって最近だと「BLOOD-C」と「ハートキャッチプリキュア」くらいしかないんですよね。そのうちBLOOD-Cってテレビ版はアレな出来で逆に話題になりましたけど、劇場版のBLOOD-Cは色々と欠落してはいるもののヒーロー性がある小夜を奈々さんが演じていたように思いますし、そういう点ではクロスアンジュと重なる点があると思います。が、本当の意味ではハートキャッチプリキュアこそ声優水樹奈々の主人公オーラを存分に活かしたキャスティングだったのではないかと考えるようになりました。
 ハトプリはプリキュアシリーズの中でもダントツの人気を誇り、映画の興収やグッズ売上でも頂点を極めたシリーズでした。もちろん、キャラデザや作画に演出、シナリオそのものもすごく面白かったですし、ハトプリ映画も素晴らしい出来ではあったのですが、その人気を下支えしたというか基礎みたいになってたのが奈々さんの存在やヒーロー的なオーラだったのではないかと思うわけです。
 ハトプリ主人公のめぐみ@キュアブロッサムは最弱のプリキュアと当初は言われていたのですが、シリーズが進むにつれて成長していき、映画をやる頃や終盤のクライマックスの頃には非常に頼もしくなっていて、「ヒーロー」に相応しい存在になっていました。奈々さんの出演してるアニメをちゃんと観たのはこのハトプリが初めてだったくらいのにわかアニメファンなのですけど、非常に収まりの良さを感じました。キュアマリンキュアサンシャインキュアムーンライトというシリーズ屈指の人気を誇るキャラクターたちももちろん凄かったわけですが、その中心というか大黒柱になっていたのが「水樹奈々」というスターが演じるキュアブロッサムだったのではないか? と思うわけです。
 プリキュアシリーズはセンターを務める声優さんの座長公演だということを、福圓美里さんや生天目仁美さんがインタビューで語っていましたが、その座長たる存在というのを示したのが奈々さんが主役を演じるハトプリだったわけです。ハトプリは久川綾さんや桑島法子さん、ダークプリキュア役の高山みなみさんなどかなり重厚な布陣だったわけですが、それらをしっかりまとめ上げつつも自身が主役であることを示し続けたシリーズだったように思ってます。
 このハトプリで感じたことがそのまま活かされているように思うのが、このクロスアンジュだと思うのですよね。あくまでも主人公は奈々さんで、彼女のキャラクターを盛り上げるためのサブキャラクターたちの配置とストーリー展開。ゆかりんキャラのヒルダがアンジュと対立しつつも和解しいい感じのパートナーになっていく展開とか、泥臭いですけどキュアブロッサムキュアムーンライトのような関係性にも映ります。奈々さんとゆかりんのコンビは「リリカルなのは」なのでしょうけど、田村ゆかりさんをあくまでサブ的なところに置く感じからすると、対等なキャラ関係だったなのはではなく、センターがハッキリとしてたハトプリ的な感じのキャストの配置なのではないかとも思うわけです。BLOOD-Cがあまりに孤高の存在だったこともあって主人公像がイメージしにくかったわけですが、ハトプリで発揮した主人公オーラを大人向けに変換して出力したのがクロスアンジュのアンジュという感じで観ています。BLOOD-Cにはいなかった奈々さん演じる主人公と対等ではないにせよ対になる存在を、ゆかりんほっちゃんに演じさせることでよりアンジュの存在を際だたせるように作られているように見えました。

  • 細かいストーリー展開を観るのではなく、演者の演技と関係性を楽しむアニメ

 クロスアンジュのストーリーとかって正直粗いし適当だし、大味な展開だと思ってます。「何だこれwwwww」って感じになることがとても多いのは間違いないところでしょう。ただ、水樹奈々さんや田村ゆかりさん、堀江由衣さんやその他の演者の演技を堪能するためのアニメなんだと考えれば、ストーリーすらそれを楽しむための添え物のようにも感じますし、そこを邪魔しないようなストーリーに徹しているようにも感じるわけです。

 ゆいかおりの2人も、案外目立たない小倉唯さん演じるクリスと小物感が凄い石原夏織さん演じるロザリーという感じで脇に徹している感じですし、キタエリ演じるサリアと渕上舞さん演じるメイだとガルパンの関係性を思い出しますよね。東山奈央さん演じるアンジュの妹の姫様とかも、あわよくばその座を奪おうという野心を持ちつつもカリスマ性にも惹かれているようなポジションのキャラとして描かれていますしね。何処までも現実の声優さんとの立場や関係性を意識したかのようなキャスティングをされているように感じます。

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 百合ネタも豊富で、奈々さん×ゆかりんっていうある意味では夢のカップリングで妄想できるとかちょっとたまらない展開もあったりするのがクロスアンジュの面白いところかもしれません。ほっちゃん姫様もどのくらいヒロイン力を発揮するのかわかりませんが、間違いなくメインヒロインのような存在となるでしょう。堀江由衣さんといえば生まれながらのヒロイン声優さんですしね。アンジュやヒルダが泥臭い展開になっているのは、奈々さんやゆかりんが下積みが長かったってことも描いているのではないかと思うのです。そうして観ていけばこのアニメはやはり演者そのものの演技を観るべきアニメなんだろうと思うわけです。
 なので、大げさな演技や大味な展開も彼女らの演技を堪能するためと思えば、悪くないな、と思えるアニメになっているのかなって思うわけですがどうでしょうか。