SHIROBAKO作中の多重なメタ構造が面白い場面を紹介する

 SHIROBAKOを観ていて凄く感じるのが、そもそもがアニメ制作についてをアニメでやってしまっているメタ構造なところでしょう。マンガだと「バクマン。」とか「月刊少女野崎くん」などマンガ制作を題材にした作品が数多くありますが、アニメとなると「アニメーション制作進行くろみちゃん」くらいしかないんじゃないかという話を聴いたことがあります。くろみちゃんに関してもOVAということですし、本格的なアニメ制作についてのテレビアニメということになると初めてなのかもしれません。アニメがアニメ作りを描くことで起きるメタフィクション的なもので溢れた作品がこのSHIROBAKOですが、その中でもとりわけ面白く、そして複雑なメタ構造を描いていた箇所を2つ挙げたいと思います。

 ムサニこと武蔵野アニメーションが宮森をデスクに立てて制作している「第三飛行少女隊(以下三女)」ですが、最初のアフレコを行った回(18話)での、三女主人公のありあ役の鈴木京子と宮森が会話するシーンです。


宮森が落ち込む鈴木京子を励ます場面

 そのアニメのデスクが新人声優を励ますシーンです。それをアニメで描いているあたりで既にメタなんですけど、中でも年齢の近い同性から声かけてあげたら少し緊張もほぐれるんじゃないかというナベPの提案でもあるわけですが、この鈴木京子というキャラクターのモデルがどうも宮森を演じている木村珠理さんらしい、というところが凄くメタメタしいわけです。

【SHIROBAKO】第三飛行少女隊の主人公役に決定した『鈴木京子』がおいちゃん声優と同一人物な件wwwww
(「アニメモリー」さんより)

 このプロフィール記事の時点ではキャストは決まっておらず、伊藤静さんや中原麻衣さん、茅野愛衣さんらが「えくそだすっ!」で本人役を演じていたように、この鈴木京子も木村珠理さん本人が演じることになるのでは……なんて憶測も流れたわけですが、OAで聴いてみると金元寿子さんが演じてました。これだったら本人で良かったんじゃ、という声もありましたが、わざと堅い(上手くない)演技をするってのはかなりの技量が伴ってないと難しいことや、木村珠理さんはただでさえミムジーとロロ、そして「アンデスチャッキー」のベソベソ役と4役も演じていることから負担も大きかったことなどを考えると理解できる気がします。しかも金元寿子さんが演じることにも意味があって、例えば彼女が初めて主演を務めたアニメが同じミリタリ系の「ソ・ラ・ノ・ヲ・ト」で同じようにほぼ何も演じたことがない状況が同じだったことや、水島努監督が初めて萌えアニメというジャンルに手応えを感じた(はずの)「侵略!イカ娘」で多大な貢献をしてくれた声優さんという意味もあったのではないかとも思います。金元寿子さんと水島努監督いえば「じょしらく」や「ガールズ&パンツァー」もあってお気に入りなのだろうと思いますが、そうした経験からも難しい演技を任せられると判断したのだろうと思います。
 話を戻すとこの場面は、

木村珠理さんが演じる宮森が、
自分自身がモデルの鈴木京子を演じている金元寿子さんを、
励ましている。

 ということになります。
 更にいうとこのエピソード自体が、SHIROBAKOのアフレコで実際に起きたもの……であれば更にメタメタしい場面になるわけですが、そちらはちゃんと話を聴いたことがないのでわかりません。ですが、木村珠理さんからすれば凄く不思議なシーンになっていたのではないかと考えてしまいます。

稲浪「来週もこの感じで……」

宮森「はいっ」
ナベP「お前じゃねえよ」

 そしてアフレコシーンの最後、鈴木京子の演技にOKが出た後のここのセリフ、ナベPのツッコミまで含めてめちゃくちゃメタなところですよね。ナベPのツッコミは宮森に対しては合ってるし木村珠理さんが言うところでもないからそちらも合ってる、というところまで含めてメタネタが多重的で面白い場面なんだろうと思います。

  • 絵麻が酸っぱい顔を作画するシーン

 続いては19話より、安原絵麻が酸っぱい顔の作画に悪戦苦闘(?)するシーンです。


エロい ※あまり関係ないところです。




絵麻ちゃんの酸っぱい顔

 絵麻が自分自身で酸っぱい顔を梅干し食べて作って、それを鏡に写して自身でスケッチすることで作画の参考にしようという場面です。アニメーターがこういうことをするのはたぶんあることなのだろうとは思うのですが、絵麻自身もアニメキャラなわけで(自覚があるわけではないでしょうけど)、そんな自分自身の顔を参考にアニメキャラの作画をするという非常にメタメタしい場面でもあるわけです。
 更に、絵コンテ(のト書きか演出さんの指示)でこんなことも描いてあります。


絵コンテでの指示:とっても酸っぱ〜い顔。
赤ペンでの指示というかお願い:すっぱい顔 少しリアルを誇張してコミカルに でも美しさを崩さずカワイサもありで

 無茶言うなって感じですよね。絵麻がこの赤ペン指示を忠実に守ろうとして、コミカルでも美しさを崩さず可愛さもあるような酸っぱい顔を自身の表情を参考にするっていう非常にメタなことをしてる気がしてしまいます。


これでは絵麻ちゃん的には納得出来ない酸っぱい顔作画なんでしょうね。

親友たちをも巻き込みます。

そうした犠牲を払って描かれた酸っぱい顔スケッチ。右端のはおいちゃんの表情その1なんでしょうかね。。

 あおいやみどりの酸っぱい顔をスケッチしたものを観たみゃーもりが「……ベソベソ?」と言うところのその理由が実はよくわからないのですが、名前から想像するにべそべそと泣くキャラだからアンデスチャッキー観てきたみゃーもりやりーちゃんが思い出せるような表情が想起できるようなスケッチだった、ということなのでしょうか。それはともかくとして「でも美しさを崩さずカワイサもありで」という指示の参考に親友2人を連れてくる(連行する)あたりが、彼女らへの信頼度の厚さというべきか、内弁慶で親友には遠慮がない絵麻らしいと観るべきかはわかりませんが、なかなかに味わい深い場面だと思います。
 さて肝心の多重なメタ構造についてですが、「とっても酸っぱ〜い顔。」というコンテでの指示通りに作画してる絵麻の描いている原画を、実際のアニメーターさんが描いている、というところですよね。しかも画面に登場したのは絵麻が納得していない作画のものでしたが、敢えて不完全な作画も指示して描いてもらっているあたりが凄く面白いと思います。それだけだったら1クール目でも描かれていたことなんですけど、それに加えてこの場面では、

とっても酸っぱ〜い顔。(少しリアルを誇張してコミカルに でも美しさを崩さずカワイサもありで)」の作画の参考にするために、
絵麻自身(あるいはあおいやみどり)の酸っぱい顔を、
アニメ作中で出てきた絵コンテの指示通りに、
アニメーターさんが作画をする。

 というメタ構造になっているのだろうと思います。絵麻たちの酸っぱい顔がこのコンテの指示通りのものなのかどうかはわかりません。が、コミカルに崩した感じにはなっているもののギャグ顔ではありませんし、美しいとまでは言い切れないまでも可愛さは十二分に残した「酸っぱい顔」だったように感じます。
 先ほどの場面では声優さんをアニメの中に巻き込んだ形でしたが、こちらの場面ではアニメーターさんを複雑に巻き込んだ形で進められた場面なのかな、と考えています。

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 いかがでしたでしょうか。水島努監督作品はそもそもメタ構造だったりメタファーが効いていたりというアニメが多いのですが、常にそういうのをやっているからこそこのような作り方が出来るしそこが面白い、ということなんじゃないかと思います。下手なメタ構造を用いたりしてひとりよがりになっているアニメも結構ありますからね。ちなみに、水島努監督のアニメでメタ構造が頻繁に登場してくるという点に置いて面白い作品として、登場キャラたちがアニメになっていることまで自覚がある「じょしらく」をオススメしておきます。
 あともう一つ重要なこととして、こういうメタ構造が例え理解できなかったとしてもその場面の意味が通り面白い、ということも言えると思います。1つ目であれば、新人デスクの宮森が新人声優さんの気持ちとシンクロしてついつい出てしまった言葉にナベPがツッコミを入れるというものですし、2つ目は変な踊りをするなど最近ユニークさを前面に出している絵麻の、生真面目さゆえのコミカルな行動と表情が出たということですしね。普通に観てても面白い場面が、実はメタ構造としても描かれているのでそれを踏まえると2度3度と美味しくなる、そういう楽しみ方が出来るのが、このSHIROBAKOというアニメだと思います。

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