ガールズ&パンツァーなどに観る、アニメの聖地巡礼と、発生する様々な経済効果

 大洗で先日行われた、「大洗あんこう祭」の人出が11万人と過去最高を記録したそうです。その大洗といえば茨城県大洗町のことですが、もちろん11月末に劇場版が公開されたアニメ『ガールズ&パンツァー』(以下ガルパン)の部隊となった町です。このあんこう祭りそのものはガルパン以前から存在してたようなのですが、ガルパン放送以前から以後では人出が一説によると5倍以上になったという話もあります(ガルパン以前は2万人前後が、ガルパン放送と同時期には6万人、その次の年からは3年連続で10万人超え)。すさまじい聖地巡礼者の数がおわかりいただけるかと思いますが、その中から経済効果として表れそうな部分はどのあたりにあるのだろうか、と考えてしまいます。具体的な数字は出されていないと思いますし、それはこちらでもわかりようがないのですが、どういうところに経済効果が出そうなのかを観ていこうかと思います。
 

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  • 交通

 まずはガルパンのファンが大洗に何で来るか、という部分から経済効果が期待できそうです。自家用車で来た場合、駐車料金くらいしか効果は期待できませんが、基本的に無料のようなのであまり地元にとっては美味しい話では無さそうです。ただ、公共の交通機関で来場した場合、大洗への大動脈となる鹿島臨海鉄道の料金として地元にお金が落ちることになります。アニメの地元、と限定すればこんなところですが、自家用車で行く場合も鉄道やバスで行く場合でも、ガルパンがやってなければ動くはずのなかったお金がガソリン代や高速代、JRやバスのチケット代として落ちることになるわけですから、それも経済効果ということになります。まあ、本当なら別の場所に旅行していた人が、ガルパンを観てハマったがために大洗への旅行に切り替えた、なんてこともあるかもしれませんが。

  • お土産

 聖地巡礼と経済効果とで思いつく……と言うよりは、旅行でお金を落とすといえば真っ先に思いつくもの、お土産です。
 大洗では、「大洗まいわい市場」という地元で運営されている道の駅みたいな物産館があるのですが、そこで売られている特産品の種類がものすごいのです。しかも、茨城県内の他地域(水戸など)生産のものもまずまず多いのですが、地元の大洗で作られているものだけでも相当な数で、それらだけでもついつい買ってしまうのではないかと思います。
 しかも、ガルパン人気に便乗して、地元商店の方でも把握できないくらいに新商品が開発されていて、もう何でもあり状態になっています(すべてのガルパン関連商品は審査されていて、認可されたものだけが発売されているようですが)。出ているものを全部買ったら、間違いなく持って帰れません。というかお金も足りないと思います。そんなわけですから、大洗に来たガルパンファンは、あんこう祭りなどのイベント時だけでなく平時に来たとしても、それなりにお土産やグッズを買って帰るのではないかと思うわけです。

 ガルパン以外のアニメでも、舞台となった街や地域が特産品の多い観光地な場合は、聖地巡礼ついでにお土産も買って帰る人も出てくるのかなと思います。ですが、作中で地元の特産品が登場しなかったり、そもそも風景だけが使われたりしたような使われ方をした聖地となると、地元=聖地とはならなかったり、作品とお土産が結びつかずお土産需要が喚起されない場合もあります。そもそも舞台が観光地的な土地や地域でない場合はお土産らしいお土産すら無いケースもあるでしょう。そういう作品だと、大ヒットして聖地と呼べる場所があってファンが集ったとしても、お土産的なものによる経済効果が発生しないということにもなってしまいます。

  • 食事

 お土産に近いものになりますが、食事というのも重要な経済効果を生む要素の一つだと思います。宿泊が発生するような遠方が舞台の場合には間違いなく食事でお金を使うことになるわけですが、日帰りだったとしても昼食くらいは現地で済ませようとするものではないかと思います。
 その意味では、大洗は優秀です。元々海産物の直売所やあんこう汁が食べられるお店がありますし、ちょっとした立ち食い出来るものもあったりします。ガルパン聖地巡礼するファン向けに、作中で登場した串かつを販売したりもしていますし、アニメキャラと同じものが食べられるとあれば、より食事にも積極的に支出するのではないかとも思います。もちろん名物はあんこう鍋ですが、現地には1人前から出してくれるお店がありますので、1人で行っても堪能できると思います。ガルパンのように、アニメの作中で積極的に食事風景を描くような内容だと、それを食べられるお店も聖地にあれば、お土産と同じく手が出やすいのではないかとも思います。
 逆に、お土産やグッズ的なものが売っていない聖地というのは、それでお金が落ちる可能性がなくなってしまうことにもなりかねません。『けいおん!』で学校のモデルとして使われた滋賀県豊郷小学校旧校舎群は、聖地巡礼先としても非常に人気の高いスポットでした。ただ、けいおんの放送終了直後に来訪した時(2009年)には、日曜日だと近江鉄道豊郷駅から豊郷小までの道中にお店すら1軒もなく、お金を使おうにも自販機くらいしかありませんでした。その後、現地限定のグッズを売るところやカフェが開設されたという話はありましたが、けいおんの場合はあくまでも学校そのものがアニメで使われただけで、その地域がアニメのモデルになったわけでもなかったので、相乗効果みたいなものが生まれにくいという事情もあったように思いますし、現地に元々お店が少ないとなると出来ることも限られてくるというのもあったのではないかと考えています。
 『たまこまーけっと』だと舞台が現実に存在する商店街だったわけですが、主人公のたまこが買い食いしていたお店が相次いで閉店してしまうという世知辛い話もありました。たまこのお店のモデルである「出町ふたば」は、アニメのモデルとか関係なく常に行列が出来るような人気店でもあり、経済効果としてどのくらい寄与したのか……と考えてしまいます。
 また、あまりに都市圏から近い場所だとすると、必ずしも現地で食事を取る必要性もなくなってしまいます。そうなってしまうと、聖地巡礼での食事代という経済効果は発生しないということにもなってしまうのではないかと思います。

  • 宿泊

 最も大きな経済効果として期待されるのが宿泊です。宿泊の場合、宿泊費用のみならず晩御飯の費用も落ちることになり、経済効果としては絶大なものがあります。ガルパンの大洗だと、首都圏からであれば日帰りでも行ける距離ということで、宿泊してまで聖地巡礼する人は少数かなとも思いますが、ゆっくり回りたいと考えると宿泊するのではないでしょうか。例の旅館含め、大洗町内にも複数の宿泊施設がありますが、お隣の水戸市も含めると泊まるところには困らないかと思います。
 首都圏や関西圏など多くの人口を抱える都市圏から日帰りで行けないようなところに聖地がある場合だと、聖地巡礼するには宿泊がセットになります。例えば『氷菓』の飛騨高山だとか『花咲くいろは』の金沢だとかは、日帰りではなく宿泊することになるのかと思います。なので現地でお祭りやイベントなどをする場合に集まるファンは、皆が現地近くのどこかに泊まるわけです。そう考えると、大洗など首都圏から日帰りで行けるようなところの祭りでの一人あたりの支出額と、高山や金沢などでの支出額では桁が違うものになると推測されます。なので、純粋に祭り等での来場者数に差があったとしても、一人あたりの経済効果はかなり違ってくるのではないかと考えています。花咲くいろはの舞台である金沢・湯涌温泉で開催されている「湯涌ぼんぼり祭り」の2014年の来場者数は1万2000人だったそうです。大洗のあんこう祭りの11万人と比較すると10分の1くらいになってしまうわけですが、ぼんぼり祭りは首都圏など遠方からの来場者の多くが宿泊もセットだと考えると、大洗のあんこう祭りと比較して経済効果が来場者の差ほど小さくはない、のではないかと考えています。

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 色々と挙げてみましたが、まだ他にも何かありそうですかね。聖地関係以外にアニメで起こる経済効果……と考えるとまだ色々と思いつくものがあるわけですが、舞台となる地域などで起こる経済効果としたらこのくらいかなと思います。
 まあ、ガルパンがもたらした聖地への経済効果が凄い! っていう記事になってしまいましたけど、あれだけご当地を生かしつつもヒットしたアニメ、となるとなかなか無いのもあるんですよね。『ヤマノススメ』や『ろこどる』あたりも聖地巡礼で活況を呈したらしいのですけど、聖地が東京から近すぎるとかでなかなか思うような経済効果には繋がっていないように感じます。これだけ聖地への経済効果が上手く働いたアニメはガルパンが一番ではないかと思っています。
 もちろんガルパンは、アニメがヒットしたからこその聖地への経済効果なわけですから、聖地ありきではなくアニメの面白さを優先して作って欲しいと思います。ただ、あわよくば町おこし的な盛り上がり方もセットに出来たら最高だな……と思いますが、その辺のバランス感覚はなかなか難しそうですね。