冬コミ新刊 春原兄妹本サンプルSS公開

 完成のめどが立ったので公開します。リトバス沙耶SSのほうは…無理でしたorz 相方のペラい沙耶本はありますよ!
 ふく彦は、3日目(30日)東2【Z−01a】にてお待ちしてます。

芽衣アフター? 真のおにいちゃん決定戦?!』


 −前略 岡崎さん
 −あれからお変わりありませんか?
 −こちらは、ようやく期末テストも終わって、今は夏休みの計画を練っている最中です!
 −今年の夏休みは、いつもとは違った特別なものにしたいと思ってます。
 
 
 俺は手紙を読んでいた。
 何故か文通が成り行きで始まっていたのだったが、それが楽しみになっていた。
 
 文面からは、近くに夏休みが迫っていることが読み取れる。
 それは、この手紙を書いた本人も、俺も同じことだった。
 もうすぐ夏休みだ。
 俺は特別なことするわけではなかったが、長い休みというのは楽しみだった。
 単に、学校へ行くという行為をしなくて良い期間が、マジメに学校に行く習慣の無い俺にとってもワクワクする。
 しかし、それまでの夏休みは…ひたすら春原をいじっていただけだった気がするので、
この夏はもう少し実りあるものにしたいとは思っていた。

 …手紙の続きを読むことにする。
 
 
 −夏休みに入ったら、そちらに行こうと思ってます。
 −岡崎さん。その時はまたよろしくお願いしますね(はぁと)
 
 
 なぬーっ!?
 思わず、口に含んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
 こっちに来る、と言うことは、また俺の部屋に泊まるってことだろうか?
 最後にハートマークまで書いてあったし…。
 
 そもそも、俺たちの関係って、何て言えばよいのだろう?
 と、自問自答したくなるくらいに、微妙な関係だった。
 
 
 文通の相手は、友人ということになっている、春原陽平の妹、芽衣ちゃんだ。
 4月の終わり頃に、兄である春原の様子を見にきた芽衣ちゃんと仲良くなり、
帰った後も定期的に手紙をやり取りしているわけだ。
 どちらかと言えばマメとは言えない俺が、相手の手紙が到着して3日以内くらいには、
返事を書いているというのには、自分自身が驚いている。
 結局、週一のペースで手紙を読んで書く、という生活が続いていた。
 
 文通の内容は、お互いの学校生活のことだったり、友達関係の悩み(俺にはあまり無かったが)、
春原レポート(義務)…など、それほど変わった内容ではなかった。
 ちなみに「春原レポート」は、今週の春原がどんなだったかを報告するものだ。
 もっとも、毎週春原の良いニュースがあるわけでもなく、ほぼヘタレっぷりを紹介しているだけになっていたが、
芽衣ちゃんはそれでも、俺から近況を聞きたがっているようだった。
 どうやら、春原本人から電話で聞くことは、どれも虚勢ばかりで真実で無いことがわかったらしい。
 俺からの報告も、もちろん逆の意味で誇張していたが、芽衣ちゃんはいつも「しょーがないですね、お兄ちゃんは」
と書いていた。
 
 ただ、そんな芽衣ちゃんが夏休みに来るというのだ。
 
 文面は、次のように続いて終わっていた。
 
 
 −P.S.おにいちゃんには内緒にしておいてください。
 −芽衣より
 
 
 つまりは…またウチに泊まろうということらしい。
 この前の件では、春原にはどのように俺たちの関係が映ったのかよくわからないが、
芽衣ちゃんが来るとわかれば、全力で阻止しようとするだろう。
 
 しかも、春原にはちゃんとは言っていなかった。
 芽衣ちゃんがこの町に来た時に、ずっと俺の家(しかも俺の部屋)に泊めていたことなど。
 そもそも俺と芽衣ちゃんの関係は、春原の中では「恋人ごっこ」止まりで終わっていることかもしれなかった。
 ただ、当の芽衣ちゃんはどういう風に考えていたのか、イマイチ掴めていなかったが。
 ごっこ遊びを楽しんでいただけなのか、少しは本気な気持ちもあったのか…。
 
 当の俺はと言うと、芽衣ちゃんには良いイメージしかなかった。
 もちろん可愛いと思っていたし、恋人ごっこの最中は楽しかったものだ。
 100円ショップをデートしていただけなのに、あんなに喜んでくれるなんて、こっちまで幸せな気分になれた。
 それに、あんな妹がいると言うことには、春原に対して嫉妬すら感じていた。
 だから夏休みを前に、不安よりも、心躍る自分がいることも確かなのだった。
 何よりも、あの春原の妹…が、と言うギャップからして心を鷲掴みにされた気分だし、
 
 「おにいちゃん」
 
 と呼んでくれたことも、弟妹のいない俺にとっては衝撃的なことだった。
 兄とは違い、頭が良くて世渡り上手なところがあるのだが、
年相応の可愛らしさも備わっていたりする…。
 俺自身、決して年下好き…と言うわけでは無かったと思うが、
今では完全に芽衣ちゃんにハマっていた。
 
 俺は、手紙を何度も読み返しながら、どう迎えようかと思案していた。




 そして、待ちに待った当日。
 家まで来ると言った芽衣ちゃんを待っていられず、駅まで出迎えることにしていた俺は、
予定よりもずいぶん早くに家を出て駅に向かうことにした。
 寝坊するどころか、前日からよく眠れなかっただけなのだが。


 駅前のロータリーの真ん中にある時計を見た。
 一時間前だった。
 
 やりすぎたと自分に苦笑しつつ、愛しい人を待つことにした。



「えっ?! もう来てたんですかっ」
芽衣ちゃんっ?!」

 声のしたほうを向くと…待ちわびた女の子の姿が。
 そして時計を見やると…まだ30分前だった。

「あれぇ〜? 岡崎さんより早く来て、驚かせるつもりだったのに〜」
「驚いたのは芽衣ちゃんのほうだったなっ」

 してやったり、とはこのことだろう。
 これだけで、一時間も早く来たことが吹っ飛んでしまうくらいだ。




 駅前の商店街を並んで歩く。
 大きくなった? いや、あんまり変わってないか。
 肩の位置はあんまり変わっていないようだし。

「元気でしたか? 岡崎さん」
芽衣ちゃんこそ、元気そうで良かったよ」

 何だろう?
 俺のことを知ってるやつが聞いたら、気持ち悪いって言われるかもしれない。
 特に杏あたりが聞いたらさぶいぼだわ、とか言うんだろう。
 そんなセリフが自分の口から出てくることに違和感を感じるのだが、
違和感を越えた喜びと言うか期待感がそれをかき消してしまう。
 恋愛って盲目だな…。
 
 
「じゃあ、さっそく行こうか」
「うんっ」


 肩を抱くようにして、こちらも嬉しそうに見える芽衣ちゃんをエスコートする。
 しかし、楽しみにはしていたんだが、何処へ行ってどうしたい、とかっていう具体的な計画は考えていなかった。
 でも、そんな小さな悩みも、今は楽しくてしようがない。
 あー俺ってこんなキャラだっけ?
 それも…今は思い出せな……。


「ちょっと待ったぁ〜〜〜〜っっ!!」
「誰だっっ!!」
「おにいちゃんっ?!」

 俺の「誰だっ」はすぐにかき消されてしまった。
 まあ、声の主は芽衣ちゃんの声が無くとも見当がつくのだが…。

「はぁ…はぁはぁ…。
 岡崎。芽衣は…渡さないぜ」
「春原…おまえ」
「おにいちゃん…」

 俺と芽衣ちゃんの声が重なった。
 二人とも、その声の主をすぐに認識したからだろうが。

「岡崎…勝負だ!!」
「何がだよっ!!」

 ワケがわからない。

芽衣は…お前には渡さない…」

 俺には見せたことの無いような、シリアスモードの顔をしている。

「ぷぷっ」
「笑うなよっ。何がおかしいんだよっ」
「いやなあ。お前のそんな顔を見てると」
「どんな顔してるんスか!!」
「あ、この顔のほうが自然だぜ」
「ちっともうれしくないよっ!!!」

 ようやくいつものヘタレ顔に戻った。
 そうじゃないと調子が狂うんだよな。

「そんなっ…。わたしのために争うのはやめてっ」
「悲劇のヒロイン気取りっすかっ??」

 しかも間がおかしい件。
 かなりツッコミたかったが、どっちの発言にツッコんで良いかがわからなかったので、
ツッコミたい気持ちを抑えることにした。

「ふふん。じゃあ岡崎、芽衣をかけて勝負しようじゃないか」
「勝負?」

 芽衣ちゃんをかけて勝負?
 …。
 
 仕方が無い。
 俺がこのヘタレに負けるとは思えないし、この際、白黒はっきりつけても良いだろう。
 何か、芽衣ちゃんを彼女にするのに、このヘタレ兄の了承が必要を得ないといけないってのが気に食わないが…。

「受けて立とうじゃないか、春原」
「ふふん。どんな勝算があるのか知らないけど、僕が負けるわけがないからね」

 むしろ、コイツのその自信の根拠が聞きたい。

「その気になりましたねっ。それじゃあ…、
春原芽衣争奪 真のお兄ちゃん決定戦!』スタートぉっ!!」
「「うおーっ!!」」

 声がヘタレと被ったのが気に障るが…いいだろう。
 勝つのは俺なんだから。
 悪いが、芽衣ちゃんは俺がいただく。




「じゃあ最初のバトルは…ゲームセンターでクレーンゲーム対決〜っ」

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 ここまでです。以下は新刊をお待ちください。