OneRoom(ジミーサムP)「Toy Box」に見えた、「バーチャルアイドル」としての初音ミクからの脱却

 OneRoomことジミーサムPの初アルバム「Toy Box」が、オリコン調べで初動5904枚だったそうです。インディーズレーベルだったことや、オリコンでは調べていないルート(書店・CD販売店扱いされていない同人ショップなど)でも出ているのなら、実数は更に多いってことにもなります。まあ、もっと著名なボカロPのCD売り上げからすれば決して多い数字ではありませんが、デビューして1年足らず…かつ、ニコ動での再生数は、最高でも40万を超えていないという超大ヒットの無いPながらのこの数字ですから、むしろ凄い数字ではないかとも。
 そしてこの「Toy Box」ですが、ジャケット絵を見てわかると思いますが、初音ミクに見えなくないですか? 緑色の髪ではありますが、ダンゴにしててツインテールには見えませんし、ミクが身に着けてるアクセサリーやパーツなども見当たりませんし、「02」などの文字が腕にあるわけでもありません。
 つまりは、「初音ミク」の容姿を利用することなく、自身の音楽だけで勝負しようとしてるってことでは無いでしょうか? それは、氏のニコ動でのサムネにも現れてますよね。ミクやルカがサムネに登場したことは一度もありません。
 これまでのボカロ系のニコ動は、主に初音ミクなどボーカロイドの絵を前面に出すケースが多かったのですが、その意味でジミーサムPはそれを打ち破ったと言えるでしょう。ニコ動の再生数としては、「YtoY」で壁を打ち破った感じでしたし、そして続くCDの売り上げでも見せ付けたわけですからね。
 何が言いたいのかと言えば、OneRoom氏は全く、初音ミク巡音ルカの容姿には依存していないんですよね。今までのボカロ音楽って、多かれ少なかれミクたちの容姿やキャラクター性に依存していた部分があったと思うんです。だからこそ、ニコニコのサムネ絵は、ぱっと見てミクやルカとわかるものがほとんどですよね。それが、OneRoom氏の場合は全曲でミクやルカの容姿が登場しません。それどころかすべて静止画でキャラクターは登場していないんで、完全に音楽だけで勝負した数少ないボカロPでもあると言えるでしょう。
 それがOneRoom氏の場合は、ミクやルカのキャラクター自体を歌った曲は…ほとんど無いに等しいです。ルカ発売直後に出した「Dark to Light」や「Faker Love」くらいでしょうか。ただこの2曲にしても、これまでニコ動や「初音みっくす」などで形作られてきたミクたちの設定とかキャラクター性は全く踏襲していませんし。投稿者コメント欄のミクとルカの寸劇を見ても、特に設定とかは意識はしてませんしね。
 もうひとつ言えることは、ミクやルカのボーカルを完全に自分の世界観に落としつつも、そこに個性を求めているという点でしょうか。他のボカロPたちのボーカロイドたちは、初音ミクだったらミク自身の個性や設定を歌ったものや、あるいはミクに演じさせてるケースが多いように思います。が、氏のミクとルカは、完全に自分の率いる個人バンドの一員として、無理に自分の作った曲を歌わせてるでもなく、ミクやルカに合った曲調の歌を歌ってもらってる、という感じがするんですよね。その辺も、ミクやルカの容姿を意識せず、あくまで声のみを生かした楽曲作りをしているからこそ、と言う気がするんです。
 
 今後は、少しずつこういう路線でのボカロ曲が増えていくのでは無いかと思ってます。ミクやルカの容姿というのはあくまでイメージ画であって、ボーカロイドのコンセプトからすれば、その容姿に囚われる必然性は無いでしょう。むしろ、cosMoさん(暴走P)の「Θ」みたいな、初音ミクから離れ、全くのオリジナルキャラを歌った曲というのが主流になっていく…。そうなっていけば、もっともっとボーカロイドたちを使った楽曲に奥行きやバリエーションが増えると思うんですよね。
 なので、このOneRoom氏がメジャーになることが、ボーカロイド曲の新たな可能性や世界観の広がりを生んでくれるんじゃないかと期待しています。
 
〜ちょっと話題が逸れます〜
 追記ですが、何より、表に出て1年足らずのアマチュアの個人が、1枚2000円のCDを6000枚売ったという現実のほうが物凄いですよね。同人誌とかでいきなり6000冊とかってあるんでしょうか? ま、同人誌をいきなり6000冊刷るような無謀なサークルもいないでしょうがw まあ僕としては、Appleにお金を落としたくも無かったですし、ようやく振り込めたよ!って感じなんですが、そういう人も多かったってことでしょうね。
 彼の場合、驚異的な作曲スピードで次々と曲を量産していったという特殊事情もありますし、それでいて曲のクオリティが落ちることが無いというのもありましたが、再生数が30万超えの曲が1曲だけのボカロPでも、これだけのセールスがあるわけです。インディーズレーベルでの採算ラインがどのくらいかは知りませんが、5000枚超は確実に採算ラインを超えているでしょう。メジャーレーベルからでもなかなかいきなりは難しい数字でもありますからね。
 これを呼び水に、もう少し再生数の少ないボカロPたちも、アルバム化の声がかかるようになるかもしれませんね。やはり同人流通だけでは限界がありますし、Amazonあたりで取り扱ってくれるような版元が手がければ、それだけ買う人も増えますしね。ミクたちの容姿にこだわりの無い分、あまりメジャーではないPたちが日の目を見る切っ掛けにもなるんじゃないか、そんな期待をこの「Toy Box」で持ちましたがどうでしょうか?