なぜ、日本の夜行列車は絶滅するのか?

 夜行列車の文化が日本から消えようとしています。
 今年3月で、金沢〜上野を結んでいた寝台特急の北陸と、夜行急行の能登が廃止予定となっています。定期運行がなくなるのであって、その後も臨時列車として運行されるとの話もありますが、定期→臨時と辿った列車の行く末は「廃止」しか無いのはご存知の通りですよね。しかも「能登」の場合は、国鉄時代からの名列車が老巧化していることも廃止の一因になっているわけで……。
 しかし、この勢いでは夜行列車が日本からすべてなくなってしまう可能性すらあります。大阪発の夜行列車だけでも、銀河・だいせん・ちくま・なは・あかつき・彗星など、数々の夜行列車が既に、臨時列車としても運行されないような状況に陥ってしまってます。北海道内では、道内各地を結ぶ夜行列車はすべて廃止されていて、辛うじて北斗星カシオペアトワイライトエクスプレスに、青森〜札幌のはまなすが残っている程度。九州では「ドリームにちりん」がありますが、本州〜九州の夜行列車は絶滅。東海道線を走る夜行列車は、定期便は「サンライズ出雲・瀬戸」だけと言う状況ですから。もはや時間の問題でしょう。
 ではどうして日本から夜行列車が消えてしまうんでしょうか? 当たり前とわかるような理由と、こうじゃないのかな?と言う理由とありますので色々と書いていきます。
 もちろん、1000円高速はかなりの痛手になってはいると思いますが、それ以前に相当減ってしまってますからね。主因とはなり得ないでしょう。

1.寝台列車の料金の高さ
 夜行列車の中でも寝台特急は、特にお金がかかります。普通乗車券+特急料金+寝台料金。寝台料金は最も安い「客車三段式・電車三段式の上・中段」で5250円。通常のB寝台なら6300円です。新幹線料金と言うのが、だいたい普通乗車券+特急料金(+指定席・のぞみ割増料金)なので、のぞみ指定席よりも割高なんですよね。わざわざ新幹線よりも遅い乗り物に、高い料金を払って乗る人がいなくなってしまったと言うことなんでしょう。
 かつてなら、移動しながら宿泊できることも一つの優位さだったんでしょうし、寝台特急ならシャワールームがついてるものもあったかと思うのですが、そうしたサービスも、そもそもが狭い寝台列車のスペースと、最近はかなり安くなった印象のあるビジネスホテルと比較しても割高にも感じてしまいます。

2.高速バスに敗北
 高速バスに対抗して、例えばムーンライトシリーズなど、快速の夜行列車を多数運行していた時期がありましたが、規制緩和による高速バスの価格破壊と競争激化で、夜行快速列車でさえ優位性は全くありません。青春18きっぷが発売されている時期であれば、夜行快速であればほぼ同じ値段で行けるわけですが、特急や急行では単に割高なだけになってしまいます。しかも18きっぷが使えない時期であれば、例えば京都〜東京だと乗車券だけで7000円くらいかかってしまうんで、それと指定席料金とを合算すると7500円以上に。
 そして高速バスは3席独立シートや、一部では液晶テレビやLANが使えるものもあるらしいですが、夜行列車にそのような設備がついたとは聞いたことがありません。要は遅れてるんですよね。価格優位性もない、時間的にはやや夜行列車のほうが早いくらいでそれほど時間的な優位性も無い。そして設備面や快適さでも今やバスのほうが優っている部分もある。これでは勝てませんよね。定時性は優位ですが……。
 また、高速バスだと、JRよりも小回りがききますし、より多くの地点を結ぶこともできます。かつては高速道路網も限定されてましたが、今やJRの路線網をはるかに上回る充実ぶりですから。あえて、鉄道を選択しなくてはならない事情など無いのです。

3.車両の老巧化+客車列車の衰退
 欧州など外国の鉄道は、長距離列車になればなるほど「客車列車」の傾向が強いようです。客車列車とは、機関車で牽引される列車のことで、車両自体には駆動部が無いもののことを言うわけですが……これだけ書いても何のことかさっぱり、と言う人も一般の人には多いんじゃないでしょうか? かつては夜行列車を中心に多く使われていましたが、ほとんどが廃止になってきています。
 東海道線で走る唯一の「寝台特急」である「サンライズ出雲・瀬戸」は、実は電車なんですよね。瀬戸大橋開通後に走り始めた列車なので比較的新しいとも言えます。また、ムーンライトながらなどの現存してる快速夜行ですとか、急行きたぐになども電車なんですよね。ムーンライトながらの場合は、今はどうか知りませんけど、前は「ワイドビュー伊那路」として運転していた普通の特急車両を充当してたり、臨時のほうは昔の雷鳥とかしらさぎに使っていたような車両だったりしていたので、ながら専用で使われてるような車両ではありません。
 しかしながら、ムーンライト高知ムーンライト九州などは、特殊な客車列車だったんですよね。他では通期では走らないような。快速用としてなので、新たに新造するほどのコストは掛けられない事情もあるようです。寝台特急用の車両も、乗車率との兼ね合いから新造できないとなると、廃止の道しか残されていないのかもしれません。量産するような車両と違い、数両しか作らないでしょうから余計にコストが高いのかもしれませんしね。
 ただ、急行能登は電車ですが、車両老巧化も廃止の理由として挙がってます。この線区を走るのに適した特殊な車両だからという話もありますね。同じように特殊さを考えると、きたぐにあたりも怪しいように思いますが……。
 こうした夜行列車の、車両自体の特殊性と衰退ぶりが、余計に夜行列車そのものの衰退を推し進めているのは間違いないところでしょう。

4.夜走らせることによるコストの問題
 夜行列車は、重要な駅であれば例え深夜でも停車します。停車しなくても、ポイントや信号の切替やなどの作業が発生するかと思います。また長距離運転の場合だと、途中で運転士交代も必要になってきます。当然車掌も必要でしょう。深夜でも、停車する駅には駅員の配置も必要かもしれません。
 かつての、夜行列車がたくさん走っていた時代であれば良かったのかもしれませんが、今や1日に1,2本しか深夜に夜行列車が走らないわけです。そのために人員を配置するのは、乗車率がよほど高ければ何の問題も無いんでしょうが、乗車率が下がってる今ではあまりにコストが高いですよね。

5.分社化の影響?
 国鉄が民営化されて分社化されました。さらには新幹線延伸のために、東北本線は一部が第3セクター化されてしまいました。そうなると、例えばJR東日本〜東海〜西日本と渡るたびに運転士など乗務員が交代したり、時には機関車を交換したりもしなければなりません(機関車は気候的地形的な要素が強いかもしれませんが)。やはり引継ぎが多い列車は面倒ですよね。何かトラブルが起こった時の問題もありますし、遅延などが発生した場合に自社だけの問題では終わらない、と言う問題も起こってしまいます。故に台風などの場合には、被害が出る出ないに関わらず運休というケースが多いですしね。


 以上、色々と挙げてみましたが、おそらくは「全部」なんじゃないかと思います。あまり乗ったことは無いのですが、合理化の名の下に無くなっていくのを見ているのは寂しい気がしますが、時代の流れなんでしょうね。そんなことを言うのなら乗れよ、ってことですね。少しでも機会を増やしつつ、現役で残っているうちに焼き付けておくしか無いのかもしれません。

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<追記>

 ちなみに僕が乗ったことのある夜行列車は、ムーンライトながら(定期便・臨時)、大垣夜行、魚釣り列車(紀勢本線の、新大阪→新宮の夜行列車)、急行くろよん(大阪→南小谷。臨時列車)くらいとかなり少ないですね……。もう少し乗っておけばと後悔してます……。


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