「侵略!イカ娘」ヒットの理由は、徹底的な「ゆるさ」を描いたからじゃなイカ?

 侵略!イカ娘の原作コミックスの最新刊が12月8日あたりに出るそうで。ネット流行語大賞で銅賞を取ったイカ娘の勢いが、商業的なレベルにまで波及していくのかどうか、これで判明するものと思われます。アニメが始まるまでは1万部行くか行かないかで推移していたわけですが、まあそれは超えるとしてもどこまで、という感じでしょうかね。
 さて、そんなイカ娘の人気の秘訣をまだまだ考えていきたいのですが、表題のとおり「ゆるい」んですよね、イカ娘って。そんなのわかってるわ!とか言われそうなのですが、とにかくゆるい。
 どのくらいゆるいかと言えば、比較してばかりで申し訳ないのですが(Web拍手コメ用)、「けいおん!」とを考えてみても断然イカ娘のほうが「ゆるい」ですよね。
 「けいおん!」は確かにゆるかったと思います。細かい設定なんかも適当に決めちゃった感がある点では、当時としては「どこまでゆるいんだ……」と思いながら見ていたものですが、二期「けいおん!!」になると、そうしたゆるい雰囲気は残しつつも、アニメの構造としては非常に凝ったものへと変貌していました。例えば、1話と24話、2話と23話がシンメトリー(だけど成長した姿を描いている)的な描き方をしていたり、序盤の何気ない場面が後半への伏線になっていたりと、ゆるい日常は描きつつも、全て終わりに向かっての逆算で描くというスタイルでした。表面上のゆるさで誤魔化していますが、中身は考察好きな視聴者も楽しめる懐の深い作品だったのだと考えています。
 しかし逆を言えば、「けいおん!!」では「けいおん!」の時のようなゆるゆるさではなく、何かに向かって進んでいくというのが途中からはハッキリと見えたわけで、一期の頃の「ゆるさ」全開の展開が好きだったという人にとっては、恐らくは違和感を感じたんじゃないかと思います。

 そうした流れを見ていると、「侵略!イカ娘」のゆるさというのは非常に徹底されているのではなイカ?と思うわけです。
 イカ娘は、もちろん原作の設定からして非常にゆるいですよね。語尾の「ゲソ」はイカであることを示すため、「イカ」は原作者さんが「正直、誰でも思いつくような、どうしようもなくくだらないだじゃれです」と言っているようにダジャレから来ているようですが、ダジャレであったことも忘れるくらいに普通に使われているように思います。何が言いたいのかと言えば、つまりはこの2つの語尾についてはさほど意味のない、何かの伏線にはなっていないのではないか?と思うわけです。
 そもそもイカ娘が何者であるか? という点は、栄子がたまに思い出したかのように考えたりしますが、毎回結論を出すまでに至らずうやむやなままです。そして登場しているキャラクターたちのほとんどは、その問題については無関心ですよね。作者さんの中には何かあるような感じですが(実年齢は秘密とか書いていたので)、何故イカなのか、何故女の子なのか、全てに置いてうやむやです。
 イカ娘の能力も、触手が自由に動くあたりは既に通常のイカの次元を超えていますし、破壊力が高いのも「侵略者」らしいといえばらしいですが、それを利用して何か危害を加えようとはしません。数学が得意なことの理由もよくわかりませんし、そのくせ地上の常識には疎かったりします。イカ娘の知識や常識も、いきなり日本語が話せたりとかその辺の設定についてきっちりとしたものは感じることが出来ませんよね。あるのかもしれませんけど!
 その辺の設定のゆるさもありますし、あの家は夏が終わったらどうなるのかとか、そもそもイカ娘は夏が終わったらどうなってしまうのか、とか考えてしまうのですが、その辺についても、原作・アニメともに触れないでいます。原作では、番外編みたいな感じで冬の話を描いていたりはするんですけども。いつまであの夏の話が続くのか、などきっちりとした設定はなさそうな雰囲気です。

 disってるようにも見えますが、この辺の設定を固めていない感じ、固まった設定を感じさせない点が、実はイカ娘を楽しむ上でのポイントになっているのではないか? と思うのです。設定がしっかりしている作品は、考察をする上では非常に楽しいですし世界観としてもより深みを増すわけですが、表面上の楽しさを追求するには障害が多いですし、何もそればかりが正解ではないと思います。
 このゆるい設定こそが、設定うんぬんについて深く考える必要を取り除き、イカちゃんの可愛さやのんびりとした日常を楽しむことに集中させてくれているような気がしています。例えば、イカちゃんには忘れ難い憎しみを植えつけた人間がいて、しかし記憶が消されてて……みたいな話になってくるとシリアス一直線ですし、イカちゃんがたったひとりで侵略しようとしている理由とか、たったひとりになってしまった理由とかの示唆があったりすると、見るたびに泣きそうになってしまって笑えなくなったりしますが、とりあえずそういうところは無視してますよね。笑えたりほのぼのするための要素や設定には触れていても、現実に戻されたり説明すると長くなりそうな部分には触れていないこのバランスが、イカ娘のいいところなんじゃないかと思っています。
 アニメがどう終わるのかとか、原作はどうなっていくのか、と考えると、あまり描かれていない部分を描いていかないといけなくなりそうな気がしますが、とりあえずここまでのイカ娘に関しては、このゆるさこそが楽しいんじゃなイカ?と思っています。

Web拍手送信