何故「魔法少女まどか★マギカ」が大きなうねりを生んでいるのか?

 amazonのブルーレイランキングで、受付が始まった2巻(3,4話収録)がいきなり1巻を上回る順位を獲得したり、コミックランキングでもワンピースに続いての2位となるなど、現時点で既に商業的な成功が約束されている気がするまどか★マギカですが、この勢いならOP/EDのCDも売り上げも期待できそうな感じになってきました。こうなると、わずか3局ネットかつBSでの放送が無いのが非常にもったいない気がしますが(ニコニコ公式配信があるとはいえ)、放送局の少なさもあまりハンデになっていない、という意味でもあると思います。
 そんなまどマギですが、何故ここまでのうねりになっているのでしょう? 正直言って、日常が描かれているのは1話のほむらが出てくるまで(自己紹介するところ)ですし、あとは完全にシリアス一辺倒です。しかも殺伐とした掛け合いに、先輩魔法少女の惨殺シーンもあり、親友の狂った顔まで見せられ、更には魔法少女どうしで潰しあう展開まで示唆しているわけです。どう考えてもここから、誰もが救われるハッピーエンドになど辿りつけるわけがないですし、むしろ誰か1人でも救われる展開になるのかどうかすら怪しい鬱展開まっしぐらなわけですが、それでもなお視聴者の関心を引き、更に噂を呼んで視聴者が増えるというサイクルになっているように感じます。何故なんでしょう?
 ここのところの流行するアニメと言えば、「けいおん!!」や「侵略!イカ娘」に代表される日常系というか毒も悪役もいないほのぼの系作品が主流でしたし、蒼樹うめ×新房監督+シャフトという組み合わせで作られた「ひだまりスケッチ」は「けいおん!」が生まれてくるキッカケのような作品でもあります。もちろん、バトル物やカオス系、エロメインの作品にも一定の需要はあったわけですが、ここまで暗い展開ばかりの作品がそもそもありませんでしたし、それがそのクールを代表する作品になることもまずありませんでした。なので、個人的には「何故ここまで人気になってしまったのか?」が非常に疑問に感じています。ので、自分の中で整理する意味でその人気の理由みたいなものを挙げていきたいと思います。

  • だからこそ毒が欲しかった

 「けいおん!!」で確立した感のある日常系の作品に飽きてきた、あるいはそういう系統の作品があまり好きじゃない人が飛びついた感はありますよね。たまには毒が欲しいというか、殺伐とした作品があってもいいじゃない、という人には受け入れられるような気がします。

  • 新感覚に目覚めた

 このまどか★マギカを「ひだまりスタッフだから」で見始めた人たちもいると思いますが、そういう人たちもある程度見続けてこそのこの人気だと思います。
 個人的に「ひだまりスケッチ」のノリで見始めた人たちには、うめてんてーのキャラがあり得ない表情をしたり、他者を挑発したりと、その辺からしてあり得ない光景を目にしているのだと思うんですけど、そういうのに耐えられた人たちは恐らく、日常系以外の毒ばかりの作風に魅了されてきたんじゃないかな? と思ってます。どのくらいいるのかわかりませんけどもw

  • 魔法少女モノ」であることは揺らいでいない?

 新房監督がmegamiマガジンのインタビューで言ってましたが、「魔法少女」というタイトルにこだわったのは監督だそうで。そこからは外れないようにしているのだそうですが、上手く行ってると思います。
 今期は「フラクタル」というオリジナルタイトルの注目作がありましたが、あちらが究極的に間口や取っ付きやすさが無いのとは対照的に、まどマギは「魔法少女モノ」であることから来る、例えオリジナルでも入りやすさがあったと思います。ここはライトユーザーにとっては非常にポイントになってると思います。
 内容的にも、定番の「変身」シーンや「戦闘」シーンもありますし、ちゃんと魅せてくれますしね。「なのは」や「プリキュア」なイメージで見始めた人たちにも期待通りの部分はあるでしょうし、逆に主人公のまどかは、魔法少女になるかならないかで苦悩するあたりは、これまでの「なって当たり前」な魔法少女モノとは一線を画すも、やはり魔法少女が中心となった描き方にもなっていると思います。

  • わかりやすさとわかりにくさのバランスが良い

 ここはポイントだと思います。アニメを観るときに、毎回考察が必要な作品もそれなりに需要がありますが、何も考えずに視覚と聴覚から感じ取れる情報を受け入れてるだけで楽しめる作品にも需要があり、特にオリジナルタイトルの場合はそのバランスが難しい気がします。
 その意味では、まどか☆マギカのわかりやすさとわかりにくさのバランスは素晴らしいんじゃないかと思います。
 わかりやすさの部分では、前述の「魔法少女モノ」であることが大きいでしょうし、魔法少女に明確な敵がいてそれと戦う、惨殺される、あるいはまどかが魔法少女になるかならないかで苦悩したりする、殺されるシーンを見たり思い出したりして泣く……など、この辺は凄く観ていても素直にわかりやすいですよね。戦闘シーンもそれだけ観ていても、トリッキーで格好いいなって思いますし。あまり難しいことを考えなくてもわかりやすい部分が多い気がします。
 その一方で、わかりにくい部分を敢えて散りばめた構成でもあると思います。ほむらやキュゥべえは未だに真意を描いていませんし、4話最後に出てきた杏子も物騒な発言をしてましたがどこまで本気かわかりませんし、登場人物だけでも敢えて描いていない部分はかなりあるのだと思います。未だ直接は描かれていませんが、魔女の成り立ちや増殖方法、対人間、対魔法少女の関係性についても謎なままですよね。ここは、敢えて主人公であるまどかの視点や知っている情報だけを視聴者にも見せていき、まどかの感情と同調させたりする効果があるように思います。これって凄くギャルゲー的な描き方なんですけどね。同じくギャルゲー的だったAngel Beats!ほどには徹底されていない気がしますが、情報の出し入れの仕方としてはむしろ上手くやれているように思います。
 この「わかりにくい部分」は、2chや僕らブロガーたちにとっては美味しい考察ネタになるわけです。色々とあーでもないこーでもないって考えながら「実はこことここは繋がってるんじゃないか?」とか、何回も見返していても「あれ? ここのところ何か映ってないか?」とか新たな発見があったりしますので、まだ4話しか観てないのに、もう1クール分くらいには余裕で感じられるほどに堪能させてもらっているわけです。
 あまりわかりにくい部分ばかりだと、ライトユーザーは離れていきますし、僕ら考察好きとしても、必要な情報量が無ければ考察のしようもないので、本当にその辺のバランスが良いと感じています。なかなか無いと思います、これは。

  • 少ない要素で描かれている(手を広げてない)

 ずっと追っかけていたAngel Beats!との比較ですごく感じる部分なのですが、とにかくこのまどか☆マギカって作品は含まれている要素が限られているように思います。何せ、笑いはありませんし、萌え要素も衣装など見た目に限られますし、日常描写や空気感を楽しめるようなものもありません。本当に描きたいものだけを描いていて、そこに必ずしも必要でない要素は削ぎ落としているような、そんな風に見えます。ほぼ女の子しか出てこないので百合要素があるのかと、1話のさやかの「まどかはあたしの嫁」発言から想像したりもしましたが、上條君の存在でそんな部分もブチ壊すなど、本筋のストーリーに関係ない要素はなるべく入れないようにしているようにも見えます。前述のAngel Beats!がとにかく色んな要素を入れ込もうとして、バラエティ豊かにはなりましたが、本筋のストーリーに集中させてくれなかったり、消化不良だったり回収されない伏線が増えてしまったのとは対照的ですよね。
 要素を色々と含まないことで、描きたい本筋のストーリーで興味を惹きつけられなければ即失敗になるところなんですが、その本筋のストーリーが魅力的だったことで、横道にそれることなく集中することが出来るようにもなっていると思います。そして、それが前述したようなわかりやすさにも繋がっていますし、演出もかなりの部分が意味のあるものになっているので、少ない要素で描くという方針(?)は成功しているように感じています。

  • 背景や武器デザインの格好良さ

 劇団イヌカレーによる魔女のデザインや魔女による結界内の不気味さや異空間も話題になっているまどマギですが、気持ち悪さもありますが、とてもスタイリッシュで格好良く、この作品の奥深さを演出しているように感じています。シャフトの立体表現の演出と、音楽の壮大さとも相まって相乗効果を生んでいるように思います。
 同人的にも、描きやすいほうが二次創作的には人気……とも考えていましたが、どうもそればかりではないようです。巴マミが最期を遂げて以降、pixivでの投稿数や閲覧数が圧倒的に増加しているようです。そしてその絵柄で割と人気になっているのが、マミの変身後かつ、武器や魔女の結界のような背景も描かれている絵だったりします。特に銃は描くのが難しいと思うのですが、それでも「挑んでいる」絵師さんが多いような気がしています。
 この「格好いい」のが絵師さんにウケているのって、前期で言えば「パンティandストッキングwithガーターベルト」だと思うんですよね。あちらは、等身の変わるキャラでそれほど直線的に萌える絵柄ではないけどスタイリッシュで格好良かったと思うんですが、まどマギはうめ先生の絵柄で萌える上に格好いい演出も加わりますから割と最強なのかな、と思っています。
 ストーリー的には二次創作しづらい気がしないでもないですが、二次創作が盛り上がるジャンルというのは底堅いとも思いますので、そこに繋げた意味でも、格好いいデザインや演出は成功していると思っています。

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 色々と挙げて長々しくなりましたが、これら色々な要素が噛み合った結果、大きなうねりになっているような気がします。この中で2つ3つくらいがハマった人と、ほぼ全てが心地良く感じている人と。でもなければ、こういう最期がどうなるかわからないストーリー物のアニメの序盤からこうなることは考えられませんよね。
 これからどう転ぶのかはわかりませんが、盛り上がりの真ん中で見ていきたいと思います。

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