「うさぎドロップ」の仕掛けと思惑が心地よいと感じるいくつかの理由

 今期のノイタミナ枠で放送されている「うさぎドロップ」が非常に面白いというか楽しいです。30歳独身男の主人公大吉と、祖父の隠し子だったりんとの二人三脚の生活ぶりは観ていてほっこりします。結構大変なシチュエーションなのにとにかく明るく前向きさを全面に押し出している感が今の世情から考えると良いのかもしれませんね。原作コミックスは今期アニメの中でも抜けて好調ですし、アニメBDもamazonではかなり上位をキープしていて本格的に人気になっているようです。
 このうさぎドロップのアニメは後に実写で劇場版の公開の予定もあってかなり大掛かりな企画のようにも思いますが、このアニメ単体でも随所にヒットするための仕掛けをいくつも見つけることができます。今回はそんなアニメうさぎドロップが仕掛けていると感じる部分をいくつか挙げていきたいと思います。

  • 淡い特殊な塗り方のアニメ

 OPからして人間が出てこないメルヘンな作りですし、EDはあの魔法少女まどか☆マギカでは恐怖のどん底に陥れた劇団イヌカレーによる演劇風のアニメで、非常に個性的というか二次元的な、絵本とか童話のような世界観を示していると思います。
 本編でもその辺がかなり徹底されているように思います。現在の深夜アニメの主流な絵柄ではなく、どこか懐かしさを感じられる淡い絵柄にも見えますし、あまり立体感を出さない背景や人物絵なんかも二次元であることを強調していると思いますし、人物を際立たせないことで背景と溶け合うような見た目にもなっているように感じています。
 会社とか保育園、居酒屋に地下鉄と非常に現実感のある舞台がメインになってますが、あくまでそれら日常的な風景もキャラも二次元化してデフォルメした形で描かれていることで、他の深夜アニメとの違いを出して唯一性を高めているようなそんな感じもしています。その辺も気持ち良く見せてもらってる要因になっている気がしています。

  • 辛さやしんどさを前面には出さない作り

 いきなり子どもを預からないといけなくなるあたりもそうですし、全く子どもと縁のない人生を送ってきた独身男性がいきなり子育てできるのかどうかという部分とか、仕事に生きてきた人間がいきなり大切なものを一変させるだなんてことも普通に考えるとなかなか難しいことだと思いますが、あまり大変だったり後ろ指さされたりという場面に多くのリソースを割かず、どちらかと言えばりんと大吉の心温まるエピソードを中心に描いているように感じますが、それがいい方向に働いているのではないでしょうか。
 また、りんがすごくいい子なのもありますよね。正直言ってこんなにすぐに知らない大人の男に心を開いたり、無理なことを駄々こねてみたりしない子どもとかなかなかいないだろ……とは思ってしまうのですが、そういうところも敢えてなのか描いていないあたりが、理想的な娘すぎるけど話を進める上でも、視聴者に楽しく感じさせるためにはいい設定なんじゃないかと思っています。
 悪く言えば現実感がなさすぎるような気もしますが、アニメを観ているときにまで現実の辛さや障害の多さを感じたいという人がどのくらいいるかとか考えると、むしろこの方向性こそが求められているものなのかな、と考えてしまいます。
 何せ、いきなり祖父の隠し子とはいえ自分が娘を育てるだなんていう出来事が僕らの前で起こるはずがありません。すごく低確率であるかもしれませんが、まあないでしょう。その時点で現実的じゃないんですから、そこから先が多少現実から離れていても、辛いより楽しいが上回るくらいの描き方のほうが多くの人が楽しいと感じるのではないでしょうか。もちろん、大吉は僕なんかでは考えられないくらいに頑張ってますし、だからこそりんが信頼を寄せることにも納得できることが大前提ですけどね。

  • ターゲットは30歳前後の独身男性?

 個人的にはここが大きいと観ています。アニメのうさぎドロップはおそらくりんの子供時代のみで完結すると思いますし、大吉もさほど加齢しないまま終わるはずです。とすれば、現年齢の30歳からそう変わらないでしょう。個人的には、大吉の設定である「30歳独身」がいきなり子育てを始めるという部分がキモなのかなあと考えています。
 原作がどういう描かれ方をされているのかがわからないのですが、少なくともアニメでは主人公は大吉で、大吉目線でほぼ話は進んでいきます。視聴者側からすれば、感情移入するのは仕草や動き、表情が可愛いりんか、主人公かつ物語の中心である大吉にでしょう。そして気になるのが「誰が観ているか?」です。
 個人的にはすごく「やられた!」感があります。狙い澄まされたというか、ピンポイントに落とされた感じです。そうです。就職している若い独身男性(しかも30歳に近ければ近いほど)が想定の視聴者なのではないかと感じたのです。今の独身男性に結婚願望がどのくらいあるのかはよくわかりませんが、娘を育てる願望となると結婚とは全く別のものと考える人がいるのではないかと。別にロリコンとかそういうのではなく、単純に結婚には興味がなくても子育て(しかも娘)であればしてみたい!と考える人は結構いるんじゃないかと思います。そういえばCLANNAD AFTER STORYでも少しありましたし、かつてプリンセスメーカーという娘育成ゲームなんかもありましたが、結婚してないとか妻がいない状態での娘育てシチュエーションというのはそれなりに需要があると思っています。そんな、結婚を希望しない独身男性の潜在的欲求を満たしているのが、このうさぎドロップではないかと観ています。
 PUFFYがストライクな世代とも重なっているような気がします。ちょうど彼女らもそういう世代でもありますしね。彼女らの明るい歌声とも作品がマッチしているように見えます。
 また、そんなそれなりの年齢である独身男性のアニメファンって、アニメBD/DVDを積極的に買う、あるいは買えるお金を持つ層ではないでしょうか? 結婚してても買うぜ!という男性ももちろんいるでしょうし、学生さんでバイト代をアニメBD/DVDに充てる人ももちろんいるでしょうが、やはり主要な購買層は独身男性アニメファンでしょう。amazonを観てるとその効果が如実に現れてますし、ショップやTwitterなんかでの反応も観ているとより強く男性にウケているんですよね。りんの美少女(幼女?)っぷりもあったんでしょうが、このシチュエーションがその層を刺激するという狙いは企画当初からあったんじゃないかと思いました。アニメBD/DVDがどのくらい売れるのかは10月の発売を待たなければなりませんが、現時点で既に成功じゃないかと思っています。

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 とまあ、いつものように作品内容そのものから売上関連まで色々と書いてしまいましたが、現時点での今期アニメではかなり上位の好感度を持たれていることは間違い無いですし、観てても納得の出来だと思っています。4話はアザゼルさんイカ娘でも好きだった満仲勧さんが絵コンテと演出をしていた関係もあってか素晴らしい出来だったと思ってますが、1話単位の、あるいは1〜4話の流れでの構成的な良さも光る作品だと思います。いずれ原作にも手を出すでしょうし、アニメBDも4巻でコンプリートできるのでやろうかなーと思ってます。いやあ、いい作品です。まだ観てない方はBSフジでそろそろ始まりますのでぜひ御覧ください。


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