まどか☆マギカよりも遥かにエグい設定に見えるアニメ「selector infected WIXOSS」

 selector infected WIXOSSことselector観てますが非常に面白いですね。最初はカードゲームアニメということで、何だかヴァンガードのちょっと暗い版みたいな感じでも観ていたんですが、話が進むにつれてTCGのルールやらバトルの詳細な内容についてはあまりアニメでは描かれなくなり、その分なのか少女たちの感情のぶつかり合いとかすれ違いみたいなものを掘り下げて描くようになり、販促にはならないような感じもしつつ良い具合に面白くなってきていると思います。そんな中、序盤からですがちらほらと聴こえてくるのが「まどか☆マギカっぽい」という声です。いいことばかり最初は言われてほいほいと戦いの世界に連れて来られ、後から重大なリスクや負の面を明かされてしまい、半ば騙されたような少女たちを描いているという点がそう言われているのでしょう。確かに、途中からは彼女らの笑顔はほとんど描かれてませんし、ずっと暗いどころかどんどん突き落としているあたりにはまどマギっぽさを感じるところもあるのですが、個人的にはそれ以上にエグいなあと思う点がいくつもあります。そう感じる点を挙げてみたいと思います。

  • セレクターを辞められない…勝たないと叶わない「願い」

 まどマギとselectorの大きな違いはここだろうと思います。まどマギの場合、魔法少女になる前に願いを叶えてしまうわけですが、selectorでは何らかの条件を満たした相手との戦いで3回勝てば無限少女になれて願いが叶う、とあります。まどマギの場合は魔法少女になってしまった時点で願いが叶ってしまってるわけですから、佐倉杏子の言ってた「釣り銭を取り戻す」ような意味合いを含みつつ生命維持のために戦い続けるという感じの、さほどモチベーションとしては高く保ちにくい戦いの日々が待っているようなイメージだと思います。
 selectorの場合は、セレクターになった時点では当然願いは叶ってませんから願いを叶えるために戦うしかありません。怖くなってドロップアウトしようと思えば出来るようですし、リスクも負かした相手が3回目の敗北の場合だとその末路を観ることで自分にも降り掛かってくるかもしれないと実感出来るはずですから逃げ出すことも考えそうですが……戦いの味をしめたり、あるいは負けるリスクよりも勝って得られるものの大きさが勝てば戦いを続けることを選んでしまうのではないかと考えています。これ、いわばギャンブラーの心境に近いのかもしれません。メインレースで負けて、帰りの電車賃や夕飯代くらいしか残ってないのに最終レースの大穴にそれを突っ込んでしまう心境。当然勝てば全てチャラな上に儲かるわけですけど、負けたら本当に何もかも終わりという状況という。それよりもselectorのリスクは大きいとは思いますが、そういう心境にさせてしまうようなシステムではないかと思います。カイジっぽいという話もありましたがそれのカードゲーム版という見方も出来ると思います。

  • セレクターとルリグの切れるのに切れない関係性

 セレクターとルリグの関係性についても結構面白いなあと思ってます。まどマギにおけるルリグ相当の存在はキュゥべえではないかと思いますが、まあでもあれとはかなり違いますよね。キュゥべえはただエネルギーを発生させるために少女たちを戦いや滅びの方向に誘っているような感じですが、ルリグはセレクターに戦いを強要しているわけではないですよね。あくまでもプレイヤーであるセレクターの指示に従い、時には戦いを放棄することを勧めたりもしていました。まどマギ魔法少女はなったら最後ですが、セレクターはルリグのカードを棄てれば3回負けた時のリスクからは逃れられるような描かれ方をされています。それなのに戦いを続ける選択肢を選ぶ少女が多いのではないかと観ています。それは何故か? 先ほどの項で挙げたギャンブラーの心境に近いということともう一つあると思います。
 それがルリグとの関係性だと思います。あきらっきーみたいなのはギャンブラー的な方ですが、遊月や一衣なんかはルリグとの関係性が深いほうだと思います。彼女らは例え戦いを続けることでリスクが大きいのだとわかっていたとしてもルリグを棄てたりしないでしょう。そう、情が移っているから棄てられない、という考え方です。ルリグが感情を持ち、使用者であるセレクターとコミュニケーションを取れるという設定が、ルリグがペットとか姉妹あたりに近い存在にまで関係性を深くしてしまうように感じています。そうなればルリグに「棄てろ」と言われても簡単には棄てられません。棄てない限りは他のセレクターに戦いを挑まれて負けてしまうかもしれない。けど棄てられない。何かこうこの年頃の女の子に対して一番棄てにくいようなシステムになってるあたり、人の悪いシステムだと思います。るう子のような戦いに魅せられてしまったタイプの子だと、リスクもあってビリビリするような戦いをさせてくれるルリグは妖刀とか麻薬に近い存在とも言えるかもしれません。

  • セレクター同士で友人関係が続かない仕組み

 まどマギの場合、魔法少女同士があまりつるまないのは生命維持装置であるグリーフシードの取り合いになるから、とありましたがアレは魔法少女同士がつるみにくくするシステムとしてはやや弱いですよね。上手くやれば共闘することで効率よく魔女を倒せるわけですし、巴マミなんかは割といつも誰かと一緒に戦ってましたしね。selectorの場合、セレクターが願いを叶えるためには他のセレクターを倒さなければならないわけですが、要はすべてのセレクターが標的となるわけです。どうもセレクター探しはそれなりに骨が折れるようで、あきらっきーのようにちょろそうな標的を見つけたら即バトルを申し込むような感じで、手近にいるセレクターが相手になることはザラのようです。
 るう子と遊月と一衣は仲が良かったですが、セレクター同士だと仲間内でもルリグを使って戦えば1勝も1敗も一応同じ価値が生まれるわけで、3敗した仲間が出てしまうとその原因の1つを仲間内で背負うことにもなってしまいます。また、仲間内で願いを叶えたい思いの強さが違ってたりとかそもそもカードゲームの強さが違っていたりすればすれ違いも起きるはずです。るう子と遊月も以前ほど仲良くはいられないでしょうし、どう進んで行ったとしても友達関係崩壊のゲームになってしまうのが、セレクターになることなのではないかと思います。ちょっと桃鉄とかドカポンとか、そういう1人しか勝ち抜けないかつ、妨害もじゃんじゃん出来るようなゲームをやっているような感じにも見えます。

  • 死ぬよりもキツいかもしれない代償

 セレクター同士のバトルで3敗してしまうと、その願いとは真逆のリスクが生じるとありました。まどマギの場合は願いを叶えて魔法少女になった時点で人間じゃなくなるというリスクを背負ってしまうわけですけど、ある意味最初にもう終わってしまっているので、突き落とす意味ではヌルいとも思えてしまいます。それと比べるとselectorでのこのリスクは死ぬより恐いと思ってしまいます。
 と言うのは、死ぬのであればそこで終わりなのですが、このリスクが一生続くのだとすると願った方向性と真逆のシチュエーションのまま一生を送らないといけなくなるわけです。それって恐くないですか? 一衣はこのままずっと対人恐怖症的な状況のまま生きていかねばならないということになります。あきらっきーや遊月はどうなるのか……というのもまたありますが、願ってしまったが故に何故か罪を背負わせられてしまった、というのが個人的にはキツいなあと思ってしまいます。

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 こうしてみると、全ての仕組みを岡田麿里さんが作ったわけではないかもしれませんが、まどマギ虚淵さんがいかに蒼樹うめ先生が生み出した女子中学生たちに対して紳士的だったかというか、同性の岡田麿里さんがいかに女子中学生たちが一番キツい展開やシチュエーションはこうだろうと描いていることが突き刺さってる感じが凄くエグいと思いますし同性ならではの視点なのではないかとも思ったりします。
 そういう点に注目しながら今後の彼女たちの行く末を観て行きたいと思います。

■ニコ生で一挙放送やります。
http://live.nicovideo.jp/watch/lv177935579