けいおん!!の箱庭的世界観を際立たせている、登場するキャラクターたちの自作自演の演出

 けいおん!!も終わって久しい感じになってきました。まだ放送が終了していない地域もあるようですが、月末発売のアルバム「放課後ティータイム2」でとりあえずの〆となりそうな感じです。しかしながら、そのアルバムの中に収録される、アニメでは存在こそ伺わせたものの歌われることがなかった「Honey sweet tea time」が紬メインボーカルで歌われることが明らかになるなど、まだまだけいおん!!は楽しみが続いているような気がしています。
 さてそんなけいおん!!ですが、ずっと「この作品は結局どこに唯一性があるのだろう?」とか「この作品に惹かれた最大の特徴ってなんだろう?」ということをずっと考えてきましたが、ようやく見えてきたような気がしています。ずっと日常を淡々と描いていたり、事件的なイベントを発生させなかったり、大きな目標の設定やそこへ向かうがむしゃらさとは無縁だったり色々とあるんですが、それら全てを語れる言葉・表現が無いか?と探していました。
 それが、表題の「箱庭的世界観の自作自演」です。自作自演といえば、アニメ制作側のことなのか?と言われそうですが、そうではなく、劇中のキャラたちによる自作自演的演出が一番の特徴だったのかな?ということです。
 
 例えば音楽ですが、(BGMは違いますが)歌に関しては、全て彼女たち自身が作って歌って演奏していることになっています。その曲作りのエピソードも、劇中で描かれていたり示唆があったりしています。
 そこに、外部からの干渉が無いんですよね。もちろん、現実には誰かが作った曲を誰かが演奏して、声優さんが歌っているわけですが、ボーカルにギター、ベースにキーボード、ドラムと、音は全てキャラクターたちが奏でていることになっています。そして特筆すべきは、歌が流れる場面というのは、彼女たちが劇中で自発的に演奏しているシーンだけ、なんですよね。彼女たちが演奏しなければ歌は始まらない、という演出は徹底されていたように思います。
 ギャルゲーでもアニメでもよくある、クライマックスになると挿入歌が流れて……となりますが、けいおん!!においてはそれが、彼女たちがやらなければ流れない演出になっているのです。もっと踏み込んで言えば、彼女たち自身が歌おうと思ったり、演奏しようと思った場面でなければ歌う流れにはならない、歌が入らない、という演出ではないかとすら思います。一期はともかく、二期においては演奏するシーン自体の割合がかなり少なかったですが、三年生になってなかなか機会がなかったりしたのと、彼女たちが演奏しようと思わなかったため……とも考えられます。
 そもそも「けいおん!!」という作品自体が、制作者側の思い描くストーリーの枠にハメ込むような作りではなく、彼女たちがその場面でしたいこと、思うことを、キャラの動くままに表現したような作りになっているのは、以前の記事でも書いたとおりです。そこには、神たる第三者(制作者側)の意図や見えざる手みたいなものの干渉というものがありませんし、更に言えば、劇中に出てくる大人たちにも干渉されていません。彼女たちの両親がほとんど出てこないという特殊な設定から生まれるものではありますが。他の作品で言えば、例えば親だったり、教師たちの干渉を受けて進路を変更したりということが割とありがちなのに、けいおん!!においては、家庭の経済的事情は考慮しなかったり、教師にしても、さわ子先生以外に彼女たちに影響を及ぼしたキャラは皆無です。またさわ子先生にしても、彼女たちの進路希望提出を急かしたり、将来展望に今のさわ子先生を重ねて見たりして影響は与えているものの、進路そのものに口出しすることはせず、彼女たち自身の意思によって決めさせている、そんな描き方をしていました。この辺がすごく、彼女たちの自発的な意思に任せた、自作自演的な描き方に思ってしまいます。そしてそこに、この音楽の演出もあるわけです。
 例えば、ぴゅあぴゅあはーとにしても、軽音部メンバーたちが澪ファンクラブの会員たちに対して自発的に作ろうとした曲、という演出ですしね。無償で応援してくれる会員たちのために、自発的に恩返しをしようという流れの一環として描かれてましたから。U&Iや天使にふれたよ!はもちろんですが、ごはんはおかずなんかも、学校で徹夜?する流れから生まれた曲ですしね。劇中歌は全て、彼女たちの意思によって生まれたという描き方が徹底されていると思います。
 
 各話のタイトル画面やCM明けに出てきたカセットテープだったり、BD・DVDのジャケット絵などが作品内で出てきていることも、この作品の箱庭感の演出に一役買っていると思います。特にジャケットイラストが、軽音部への勧誘として作品内で撮られた写真だった、という演出は、外部に出ている商品でさえ作品内から生まれたものだという、全てが作品に内包されていて、彼女たちがそれらをプロモーションしたかのような仕組みになっているあたりが、より自作自演感を演出しているように思います。カセットテープもそうですよね。CDの初回特典として実際に付けてくるあたりが、作品内で生まれたものが、リアルに僕らの元にまで届けられるわけですから。
 そういった演出の全てが、この「けいおん!!」という作品の、唯一性や特殊性をより際立たせているように感じました。恐らく、こうした演出をしていた作品は他にもあったのかもしれませんが、それを視聴者側に悟られないように、しかし確実に意識は植えつけるように描いてきたことがこの作品のすごいところなのかな、と思いました。日常を淡々と描いているように見せかけておいて、それだけでも表面上は魅せられる内容になっていながら、裏ではこうした演出でどんどん視聴者を作品世界に引きずり込んでいったような……。
 

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 内容の受け取り方は個人によって異なるとは思いますが、こうやって見るとより「けいおん!!」というのがすごい作品だったんだな、と思ってしまいます。こんな作品、しばらくは現れないでしょうね。

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