ヒットに導けるか? 2014年のTOHO animation(東宝)テレビアニメ

 TOHO animationこと東宝がアニメ業界に本格参戦して2年目に入りました。ここまで「銀河機攻隊マジェスティックプリンス」「ファンタジスタドール」「メガネブ!」「弱虫ペダル」「未確認で進行形」がアニメ化されましたが、BD/DVDが発売された4作品はいずれも苦しい結果となってしまいました。3クール予定でまだまだ放送が続いている弱虫ペダルは、それなりの数字を出しましたし今後更に売上が伸びる可能性を残していますが、それ以外は1巻あたり5000本に届かない状況と、単純に考えても採算ラインには遠く及んでいないものと考えられます。
 東宝といえば日本最大の映画配給会社でもあり「おおかみこどもの雨と雪」やジブリ作品の配給でも知られたアニメにも精通した会社です。深夜アニメ界でも、これまでフジテレビやSME系と共同企画という形で参画していたノイタミナ枠など関わりはあったわけですが、これからは単独企画としてやっていこうというのが深夜アニメ界への参入の意味するところでした。そんな東宝がBD/DVDの売上を主な収益源とした深夜アニメを作り、そこから映画化までをパッケージビジネスとして新たな収益源になるようになるまでを目標としていたようですが、これまでのところテレビアニメの段階で収益となりそうなところまで行くほどヒットした作品が無く、映画化して集客が見込めるかどうかは難しそうな状況です。では、なぜ東宝のアニメはこれまでのところヒットしていないのでしょうか? おそらくは肝である「自社企画」というところに原因がありそうな気がしています。
 深夜アニメ界の各製作会社の肝とも言えるのが、プロデューサー陣の企画力にあると言い切っても間違いではないでしょう。出版社などからの持ち込み企画や企画立案専門の会社(「凪のあすから」などをプロデュースしているインフィニットのような)からの企画というパターンもあるようですが、基本的には製作会社のプロデューサー陣がアニメ化のアイデアを出して、そこから制作会社や監督などのスタッフィングを考え、固まれば放送まで走りだす、というところまではひとまずプロデューサーの仕事だとイメージできます。まずは「どういうアニメをやりたいか」から始まり、それに相応しいスタッフィングを考えて原作編集部やスタッフに提案し、面白そうだとなると音楽周りなどの手配をするなど仕事は多岐にわたります。例えば、この原作はアニメにしたら絶対に面白くなる、とプロデューサーが思いついたとしてもそこから理想的なスタッフィングが出来るのかどうかという部分はまた別の話になるわけで、プロデューサーの腕やツテの問題になってくるわけです。また、そもそもこの原作をアニメ化したい! となっても、そこの編集部なり出版社ともっと繋がりの深い製作会社から声がかかるのを待ってるケースなどでは簡単に首を縦に振ってくれないこともあり得るでしょう。既に実績のあるところならともかく、後発の製作会社がアニメに入ってくる際の参入障壁がこの辺にあるように感じます。
 そうしたことを考えた上で東宝のこれまでの作品を振り返ってみると、マジェプリとファンタジスタドールにメガネブはオリジナルアニメ、弱虫ペダル未確認で進行形秋田書店一迅社と原作出版社がありますが特定の製作会社との繋がりが薄かったりそれほど高頻度にアニメ化されていない出版社という共通項があり、やはり大手の製作会社が目を付けていないところと話をまとめているのが想像できます。ただ人気の脚本家である吉田玲子さんや、1年に2本以上アニメをやることもざらな人気監督の元永慶太郎さんと組んでいるなど行きあたりばったりではなくしっかりとアニメファンへのウケを狙ったスタッフィングを行っていることもわかりますし、コミカライズ展開やソシャゲとの並行展開などメディアミックスを含めた仕掛けも行うなど、ヒットさせるための土台作りにも余年がないように見えます。しかしながら……売れてないんですよね。要は、他所がやってるのと同じようにお膳立てを見よう見まねでやってはみたものの、それがその企画にとって最適なやり方ではなくてあまり効果が無かった、という見方も出来るかと思いますが、それ以前に企画そのものの問題とどう見せるのかの問題があるような気がします。
 メガネブは企画そのものの問題のような気がします。全話観たわけではないのであまり言及しないでおきますが、聖地アニメとして現地自治体の協力を受けて大々的に宣伝しておきながら、内容的には現地である必然性がかなり薄いものだったというところで、企画の方向性と進め方がアニメの内容とバラバラだったような印象を受けました。マジェプリは個人的にはキャラデザをもっと今風の絵で行っていたら……と思いながら観てましたが、企画そのものがまず平井氏のキャラデザが最初に決まっていたという経緯からして今ウケるアニメとしては少しズレているような印象でした(平井さん好きな方すいません)。ファンタジスタドールは土日朝の女児向けアニメみたいなものを深夜の枠で放送したことがイマイチだったのかそもそも女児向けアニメっぽいアニメをやろうとした方向性から間違っていたのかという印象がありました。弱虫ペダル原作力はありながらもテレ東のド深夜でしか放送できなかったのが個人的には痛いんじゃないかという印象があります。内容的には夕方にやれればもっと人気が出たんじゃないかと思うから余計にそう感じます。未確認はどうなるかわかりませんが、何となく1つか2つ、及ばない点があってヒットさせられなかったようなものばかりな気がしています。そしてこの辺を見通せないあたりが、東宝が単独で企画したアニメの弱さではないかとも感じています。この辺が既存の大手製作会社の優秀なプロデューサーであれば隙無く出来たのではないかとも思うわけです。
 とはいえ、東宝単独企画のアニメも徐々にノウハウが蓄積されていっているのではないかと感じる部分もあります。ノイタミナの「夏雪ランデブー」の頃から付き合いのある動画工房制作な未確認で進行形は、動画工房が絶対的に得意としている女の子の可愛らしさを表現する演出を、同じく動画工房制作で売上以上に評判の良かった「GJ部」と同じ藤原佳幸監督で描くなど目の付けどころとしては非常に良くなってきたのかなと感じます。どんな作品でもキャラ萌えを目指したらいい、というわけではありません。その作品に適した強調のさせ方をできているのかどうかがポイントなわけで、未確認はキャラソン主題歌も非常に良いので方向性としては非常にまとまっているように見えます。

 東宝製作のテレビアニメはノイタミナ時代から非常にコアなファンを獲得していたり、独特な発想から生まれたような企画だったりが好評だったと記憶していますが、東宝単独企画になった後もそこはあまり変わってないように感じます。もちろんノイタミナの頃にはフジテレビの山本PだったりSMEアニプレなども関連していたので企画の方向性としては変わったように感じますが、それでも独特の感性みたいなものも感じさせてくれるラインナップになってるかと思います。
 ややテレビアニメのBD/DVD売上が頭打ちとなり、大ヒットしたテレビアニメは劇場版も盛況かつBD/DVDも売れるという好循環となる一方で全く売れないアニメも頻出するなど勝ち組と負け組に分かれつつあります。また、テレビアニメに本格参入したワーナーやようやく軌道に乗り始めたavex、再び本格的にアニメの製作に乗り出したフライングドッグなど、既存の大手製作会社と加えて競争が激化しています。アニメの本数も高止まりするなど正直厳しい情勢ではありますが、そろそろ何か東宝単独企画のテレビアニメが当たるのではないかという予感がしています。テレビアニメではありませんが、映画を作るノウハウは豊富に持っている会社なだけに、時間の問題なのかなというところで、また次の展開を楽しみにしていたいと思います。