アニメBDの廉価版を出すことに対する製作側のメリットとデメリットとは?
最近「GJ部 りぴーと!でぃすく」というBDが発売されて話題になりました。1クール分のアニメをやや品質は落ちるもののBD1枚に収録し、ディスクの入れ替えなしに全話通して観れるというものでした。まったり系な内容の作品にもマッチしたのかセールス的にも非常に好調で、テレビシリーズの売上よりも1巻あたりの売上が上回るなどしました。値段的にも定価で1万円ちょっとという安さということも好評を博した要因ともなりました。また、「キルミーベイベー」のBD-BOXも先日発売されてテレビ版の売上を遥かに上回る売上を叩き出してニュースにもなったのは記憶に新しいかとも思いますが、あれも通常のBOXよりはかなり安い16800円という価格設定が良かったといえるかと思います。主にこの2作品の売り方からこれに追随する作品がもっと出てきて欲しいという声が多く上がりました。
GJ部の場合は価格設定もそうですがどちらかと言うと商品形態(1枚で全話観れる。特典なし)について、キルミーベイベーに関しては恐らくは価格的なところで追随して欲しいとの声が出ているのだろうと思います。GJ部の場合には編集や収録の手間が、キルミーの場合はBOX用のケースが新たに必要となりますが、それほど新規にお金がかかる展開ではないと観ています。
これらの動きは僕ら視聴者にとっては選択の余地が出てきたり費用を抑えられてまた別のアニメに手を出すことが出来るなど大きなメリットにもなりそうなのですが、製作側にとってはどうなのでしょうか。今回は製作側のメリットとデメリットについて見て行きたいと思います。
- 廉価版BDを出す製作側のメリット
まず、売上が上がる(であろう)ことが出てきます。前述のGJ部だとテレビシリーズのBDは4巻構成だったのですが3000枚前後の売上で推移しました。が、りぴーと!ディスクの売上は4500枚とテレビシリーズの売上を上回りました。キルミーベイベーだともっと凄くて、テレビシリーズでは1巻の初動が686枚というかなり酷い数字が出てしまったのですが、BOXは初動4000超えの累計で5000に近いところまで売れました。これは、どちらも普通にテレビシリーズのBDを1巻ずつ買うよりも大幅に安い価格設定が寄与したところが大きいと観て間違いないと思います。テレビアニメのBDを買う時に何よりも負担に感じるのがその価格でしょう。それが大幅にお求めやすい価格になっていることは、財布の紐を緩める人も多くなるのではないでしょうか。
この2作品に言えることは、ファンが根強いということもあります。テレビシリーズのBDを買うまでには至らないけど好きなのは好き、というBD購入者になる一歩手前くらいのファンが多く、それらの層が放送終了後もずっと好きで居続けていたわけです。そこに廉価版BDを提示することで一気に購入者が押し寄せたのではないでしょうか。これを観ると、2,3万円もするテレビシリーズのBDは高くとも、1万円台くらいであれば潜在的なファンを多く掘り起こせるということが製作側にも見えてきたのではないかと思います。普段はテレビシリーズのBDを買わないようなアニメ視聴者もBD購入者として加わってもらえるかもしれず、アニメBD市場の拡大にも繋がる可能性も出てくるかもしれません。
既存のコンテンツでもう一度商売のチャンスが出るというのもメリットでしょう。通常BD-BOXは放送終了から数年経ったようなタイミングで出ることが多いのですが、GJ部もキルミーベイベーも2年経たないうちに発売されています。GJ部の場合は特典を付けないことでテレビシリーズ購入者との差を出していますし、キルミーベイベーの場合はそもそも全然売れていないことで許される感じの早期のBOX発売でもあったように思いますが(?)、まだ熱が残っているうちに発売することで販売機会損失をも減らせることも大きいかと思います。BOX発売の際には更に特典を付けて既存の購入者にも売るやり方を取るところもありますが、廉価版でもあるこれら2作品は敢えてそれをせず安くすることを最大の魅力として成功したわけです。新たに発生する費用も出来るだけ抑えてやるのもコスト削減にもなるはずです。スピーディーな展開が出来たことも大きかったような気がしています。
良い事ばかり並べましたし、これだけだと視聴者も製作側もWin-Winの関係になれる……と錯覚しがちですが、もちろん製作側のデメリットも大きいと思います。
- 廉価版BDを出す製作側のデメリット
一番怖いのは買い控えが起きる危険性があるということでしょうか。早期の廉価版BD発売は、正規のテレビシリーズBDの発売の際に廉価版が出るかもしれないからとテレビシリーズBDを買わない選択をする視聴者が出てくることです。製作側としてはもちろんテレビシリーズのBDがあの価格で一定以上売れてこそ元が取れたり利益が出るようになっているはずで、そこが減ってしまえばそもそも大打撃なわけです。現にBOX化が早いケースが多い某製作会社のテレビシリーズBDは若干その買い控え傾向が観られます。製作会社は特にテレビシリーズの1巻の販売本数でそのアニメの成否をある程度観ているでしょうし、その後の展開をどうするかについてもそこから考えているでしょう。それが買い控えられて出すかどうかもわからない廉価版BDを待たれてしまっては損失しかありません。
そもそも安くして、買う人が増えて売上が上がれば問題ない……という見方もあるでしょうが、安易な値下げ効果を狙うやり方もかなりのリスクを伴います。要は安くした分だけ売上が上がる……わけではないのですよね。マクドナルドとか牛丼チェーン店などでよくやる値下げキャンペーンと売上アップを狙う戦略がありますが、あれは来店客数を増やすことで値下げしたメインメニュー以外の利益率の高いサイドメニューも頼んでくれることを期待しての戦略という側面もあるでしょうから、単なる値下げだけではないんですよね。アニメBDの場合は例え値下げしても値下げだけでそれに伴うサイドメニューがあるわけではありません。製作会社としたら、値下げで浮いた分を別のアニメBDの購入に当ててくれたら良いんじゃないのとなりますが、それだったら値下げしないでその作品単体で儲かったほうが良いですよね。
また、値下げして値下げ分以上に売上が上がるものなのかどうかがかなり疑問でもあります。例えば、映画を編集版として捉えるなら「魔法少女まどか☆マギカ」が参考になるかと思いますが、テレビシリーズBDが1巻あたり7万前後売れていたのが、映画版はテレビシリーズの1.5巻分の値段でしたが10万をちょっと超えるくらいの売上でした。興収と合わせると十二分に売れていてめちゃくちゃ儲かっているのですが、潜在的な需要を掘り起こしたにしてはそれほど驚く数字にはなっていないように感じます。つまりは、別に安くしなくても売れるアニメは売れる、ということです。
特にキルミーベイベーは廉価版にすることでかなりの需要を掘り起こしたことにはなりましたが、それでもテレビシリーズのBD2巻分ちょっとくらいの価格のものが5000弱売れたに過ぎません。単純な売上総額で観ると、テレビシリーズのBD1巻あたり2000くらい売れた作品よりもまだ低いくらいです。GJ部にしても同様で、あくまでも廉価版BDはテレビシリーズの売上に若干色が付く程度のものでしかないのだろうと観ています。そうなると、元から廉価版でBDを発売してしまうと数万くらいのとんでもない数を売らねばならなくなり、現状では到底成り立ちそうにもありません。現状でテレビシリーズのBDが1巻あたり3000を超える売上を出すのは決して難しいことでもありませんが、廉価版のBDをいきなり出して2万くらい売ろうと思うと並大抵のことでは実現しなさそうな気がします。もちろん、製作会社は同時に走らせている企画のどれかが当たればその売上で他の売れなかった作品の補填を行うので特定の作品だけ廉価版BDを出して試してみるということは不可能では無いかもしれませんが、廉価版にしなかった他のアニメに割高感が出て売れなくなったり、全体的に安くしないと売れない風潮になるとアニメ市場がデフレ状態になり業界全体がジリ貧になることも考えられます。
また、廉価版BDを出した2作品の特殊性についても触れておかなければなりません。GJ部はそもそもあまり売上がどうこうでその後の展開が変わることがない日本テレビとバップが製作のアニメです。宣伝費を抑えていたり、放送する局を自局のみとか系列局でも1クール遅れにして安売りにしたりしてU局ネットのアニメに比べると波代が安かったりなどの理由でコストが他のアニメに比べると格段に低い事情もあります。なのでそもそもテレビシリーズのBDからして安いのですが、GJ部のように3000前後も売れれば十分に採算が取れていることも考えられます。なので、どちらかと言えば2期に向けての予習用だとかファンアイテム的な要素が大きかったのではないかと考えています。キルミーベイベーに関しては、これは壊滅的に売れなかったアニメでその後の展開は考えられなかったのですが、ネット上での謎の流行にキルコフなるTwitter公式アカウントの地道な活動により放送終了後にむしろ人気が出たらしく、そういう動きを観た製作のポニーキャニオンがもしかしたら少しでも損失を取り返せるチャンスではないか、と観て廉価版BOXを出してみようと考えた……のかなあと考えています。とまあ2作ともにそれなりの事情がありどのアニメにも当てはまるわけではないので、他の製作や作品が追随する理由にはなり得ないとも考えています。
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以上のような理由から、廉価版BDが主流になることも無いだろうと思ってます。視聴者やユーザーに対しての気持ちは無いのか!と思われるかもしれませんが、こればっかりは現在のアニメの本数やクオリティを維持していくためには致し方ないことだろうと思いますし、既存の製作会社が劇的に姿勢を変えることは出来ないだろうとも思います。新規参入する製作ならわかりませんが、体力のないところがやろうとして出来ることでも無いですし、単発で終わるのではないでしょうか。
ただGJ部みたいにテレビシリーズを出した後に本編を鑑賞することに特化したアイテムを出すという方針は良いですし、ちゃんとテレビシリーズとの差も出しているということなので、こういうことが出来る作品があれば是非やってもらいたいとも思います。が、どの作品でもそれを求めるというのは難しいのではないでしょうか。
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