ガルパンだけじゃない? バンダイビジュアルがアクタスを買収した理由

 ずいぶん前になりますが、バンダイビジュアルがアニメ制作会社のアクタスを買収したというニュースが流れました。アクタスに、バンダイビジュアルの湯川Pを非常勤の取締役として送り込んだあたり、間違いなくガルパンことガールズ&パンツァー絡みの案件だとは思います。他の製作からの仕事を受けさせず、稼げるガルパンに注力させるための方策の1つなのでしょう。あるいは、バンビジュの子会社となり、とりあえずアクタスが倒産するようなことがまずなくなったことで、働いている人たちの離脱を防いだり、新たな人材が入ってきやすくなったりすることもあるでしょう。それが、ガルパン最終章をスムーズに制作することにも繋がるのでしょうから。
 しかし、単純にそれだけの目的なのでしょうか? もちろん、スケジュールが崩壊するのが当たり前なアクタスの管理にバンビジュが乗り出したのだとか、バンビジュが自由に動かせる直属の制作会社が欲しかったのだとかも理由なのでしょうが、個人的にはもっと大きな可能性を買った買収劇だったのでは? と観ています。
 その狙いとは? 推察してみました。

ガルパンの製作するキッカケになったのは、何処かで読んだ記憶があるのですが、アクタスの社長であり、ガルパン等のプロデューサーでもある丸山俊平氏の「戦車と美少女が出てくるアニメがやりたい」という構想だったと記憶しています。もちろん、ただの思いつきレベルだったようで、バンビジュ側の、誰かその構想に賛同してくれるクリエイターを連れてきてくれたら話を進める、という条件に対し、丸山氏が島田フミカネ氏を連れてきて、バンビジュ側も水島努監督を連れてきたことで、本格的に企画がスタートしたという話だったかと思います。
ガルパンが面白くて大ヒットしたのは、もちろん島田フミカネ氏がキャラ原案やったり、水島努監督やシリーズ構成の吉田玲子さん、軍事考証の鈴木貴昭さんらの力が大きいのは間違いないと思いますが、それもこれも丸山氏の「戦車と美少女が出て来るアニメがやりたい」という構想というか発想が無ければ、そもそも産まれてさえいないわけです。その後に、バンビジュ側が丸山氏の構想に乗ってくれたのも大きいわけですが(普通は思いつかないか、面白くなら無さそうだと提案しないか、提案しても「無茶だ」と製作側に一蹴される)、大元の発想が無ければ実現しなかったわけです。
バンビジュの本当の狙いは、アクタスという制作会社ではなく、丸山氏個人の発想力の方なのではないか? と考えています。それなら何故、アクタスごと買収したのかについてですが、社長をヘッドハンティングするわけにもいかないでしょうし、ガルパン案件をコントロール出来るメリットもあったからだと観ていますが、丸山氏の発想力をより活かすための手段だという見方も出来るのではないでしょうか。
アクタスがバンビジュに買収されでもしなければ、丸山氏のアイデアは、アクタスが制作できるペースでしか実現できないことになってしまいます。ですが、2017年夏期アニメの『プリンセス・プリンシパル』は、アクタスの丸山氏がプロデューサーになっていますが、制作はStudio 3Hzとの共同になってます。監督やキャラデザはStudio 3Hzや、そのスタッフの出身スタジオであるキネマシトラスで見かけた人たちだということは、この作品から既に、丸山氏のアイデアを迅速に活かすために、バンビジュがアクタス以外の制作会社を工面して、放送までこぎつけた、という可能性も大いにあるでしょう。何せアクタスは、年末公開予定のガルパン最終章第一弾でてんてこ舞いで、他のアニメをやっている場合ではないはずです。個人的には既に、バンビジュがアクタスを買収した効果というか影響が出ているのではないかと観ています。
では何故、バンビジュが丸山氏の発想力を買っているのでしょうか。もちろん、ガルパンの生みの親というのもあるのでしょうが、その後の『レガリア』は色んな意味で大コケしたものの、前述のプリンセスプリンシパルはこのクールのアニメとしてはそこそこの売上になりそうな気配になってきました(2017年9月24日時点)。ガルパン以前には元請け作品が数年無かったことを考えると、ここ最近で企画したアニメの3分の2がヒットしているというのは、かなりの打率だと言えるかと思います。何せ、オリジナルアニメがことごとくコケる昨今ですから、その中で当てているというのは、それだけ発想力が凄いか、あるいは今アニメファンが求めているものの嗅覚がある、ということなのでしょう。
アニメの原作が枯渇してきている、というのは、ここ数年ずっと言われてきたことでした。アニメ化してヒットしそうな原作が無いのであれば、オリジナルでやるしかありません。ただ、ヒットするオリジナルアニメを企画できるプロデューサーなんて、アニメ業界にそうそういるものではありません。『魔法少女まどか☆マギカ』の生みの親はアニプレックスの岩上敦宏氏(当時はプロデューサー)でしたが、その功績が認められすぎて、今ではアニプレックスの社長かつ、親会社であるSME執行役員という、めちゃくちゃ偉いさんになってしまいました。最近は現場の仕事もやっているようなクレジットも見かけますが、とても1つのアニメに関われるような立場ではなくなったと思います。オリジナルアニメのヒット作が多いP.A.WORKS社長の堀川憲司氏なんかも、発想力に関しては業界随一のものがあるでしょう。ただ堀川氏も、最近では現場を離れ、部下のプロデューサーに企画も任せているような節があります(おかげでヒット作から遠ざかっているようにも……)。彼らを引き抜くことは、まあ無理な話ですよね。そう考えると、アクタスごと丸山氏を買収してモノにしてしまうというのは、戦略としてはアリなのだろうと思うわけです。

 「けものフレンズ」騒動でもありましたが、製作委員会の権利元と制作会社とのトラブルによって、プロジェクト全体の流れが滞ったり止まったりというケースが出てきました。あるいは、アニメ側の都合や方針ではなく、原作側の都合に振り回されて、アニメ側の展開に支障をきたすケースとも言えるのかもしれません。
 そうした事態を防ぐための、バンビジュによるアクタス買収なのかな、とも思いました。
 ガルパンは、製作委員会に出版社が入っていないアニメですし、極めて出版社の影響が及びにくい体制になっています。同じバンビジュのオリジナルアニメである『ラブライブ!』シリーズは、そもそも企画が、今はKADOKAWA傘下に入ったG'sマガジンですし、制作も、グループ会社でありながら、力関係的にはバンビジュがどうこう言いにくいサンライズですから、バンビジュの意向だけで作品の展開を進めていくことは難しいでしょう。そういった事情から、アクタス買収に至ったと考えるのは自然だろうと思います。そのくらい、バンビジュにとってガルパンというコンテンツが巨大化して、かつ優秀な収入源となっていることも伺えます。
 メディアファクトリー(MF)や、アスキー・メディアワークスあたりを買収してきたKADOKAWAからすれば、アクタスの買収くらいははした金だとも思うわけですし、傘下に収めたMFからコミカライズもしている関係から、バンビジュ側が先手を打ったようにも感じました。

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 先日、TBSがセブンアークスを買収したとかありましたし、こうした動きは加速するかと思います。
 ただ、京アニPAWHITE FOXみたいな、制作会社が主導的に作るアニメを決めたい的な制作会社は、まだまだ制作会社主導でやっていくのだろうと思います。
 こうした制作会社が、大手の何処かに買収されるようになるのなら、大きくアニメ業界の流れも変わっていきそうな気がしますが、どうなりますでしょうか。