大沖マンガの面白さの真髄とは?〜「ひらめきはつめちゃん」と「はるみねーしょん」より

 最近になって、大沖さんの「はるみねーしょん」と「ひらめきはつめちゃん」を読みましたが、ハマりました。正直、はるみねーしょんを読み始めたときは「あれ? これは地雷だったかな……」って思っていたんですが、いつの間にかネタがどんどんツボに入ってしまい、そしてはつめちゃんのほうも間隔をあまり開けずに読みましたが、やはり爆笑でした。
 そこで、何でこんなに面白いのかということを考えてしまいました。最近は4コマ漫画を割と読んでいるほうなんですが、その中でも異色の面白さがあると思うんですよね。それについて書きたいと思います。

  • 最先端の漫才的な「ズレ」が生む笑い

 読んでいて思うのが、主人公(はるみ・はつめ)の天然っぷりと、「はつめちゃん」ではお父さんやいとこのケイちゃん、「はるみねーしょん」ではゆきと香樹が、巻き込まれてツッコミを入れるというスタイルです。しかしこれって、漫才に通じるものがあるんですよね。例えば、主人公のセリフの天然っぷりは、実は計算されているんでしょうね……とかです。あと感じたのが以下のパターンです。

 最初に言っていたことと違うズレのパターン。
 漢字の読み方を変えるパターン。
 嘘や妄想が暴走して、最後に自分で落とすパターン。
 脇キャラがツッコミじゃなくボケるパターン。
 寒すぎるギャグ。

 ……あたりかなあ? これって、今の若手の漫才などでもずいぶんと見られる手法なんですよね。ただ漫才師たちはこのうち2つくらいしか同時にやりませんけども、大沖マンガではそれらをほぼ全て、1話の中に取り入れています。序盤はフォローされているパターンが少ないのですが、後半に行けば行くほど複数のパターンを連続で入れてくることがあるので、笑いの方向性に飽きが来ないんですよね。
 もちろん、「はるみねーしょん」では、主人公のはるみとメインツッコミのユキが、「ひらめきはつめちゃん」では、主人公のはつめとメインツッコミの父が、ネタのほぼ半分以上を占めているわけですが、そこに脇キャラが絡むパターンも随所に入れられていることで、笑いの方向性がより増しているような印象を受けました。
 その意味では、お笑いのウケる方程式を頭に入れつつも、アドリブやライブっぽい発生の仕方をした笑いも織り交ぜつつ、最後は落語のような、よく練られた漫才のネタのような綺麗な終わり方でオチる。そんな風に感じてしまうのです。

  • 極限まで単純化された絵

 個人的には、読んでいて一番気になったところです。「ひらめきはつめちゃん」を読めばわかるように、トーンの削りもほとんどありませんし、目はほぼ糸目です。動きが多いわけでもなくむしろ少なすぎる。例えば、「はつめ」では箱が何でもやりますし、「はるみ」は飛ぶことで歩くなどの動作を省略しています。登場するキャラクターも相当絞り込んでる印象があります。
 何と対照的かと思ったんですが、これって、4コマ漫画界の重鎮である、あずまきよひこさんの「よつばと!」と対照的では無いでしょうか?
 最近になって「よつばと」を読んだので比較しやすいのだと思うんですが、向こうは徹底的に細かい描写にこだわっていると思うんですよね。背景はどこか実際の風景をモデルにしてるようですし、小物一つ一つのディテールも緻密の一言です。キャラクター描写も細かいですしね。
 それに比べると、大沖さんのマンガにはその部分が全く当てはまらないどころか、真逆じゃないかと思うんですよね。背景なんて素人が描けるレベルですし、背景以外の部分でも「緻密」からは程遠いような
 「ひらめきはつめちゃん」は最初からですが、「はるみねーしょん」は序盤は目が糸目じゃなかったりするのに、後半になるにつれて糸目率が高くなり、また線も粗さが目立ってきています。時間的制約かとは思うんですが、ただネタとしては後半の方が確実に爆発力がありますね。

  • キャラクターの記号化

 「はるみねーしょん」も「ひらめきはつめちゃん」もそうですが、キャラクターたちはどちらも共通してますよね。主人公はほぼ同じ(高校生?と小学生の差はありますが)ですよね? 共に非現実的な存在であったり非現実的なことを起こしたりします。それに、寒いギャグやズレ、読み方違い、妄想が暴走するなど、ほぼ同じと見て良いでしょう。
 そしてツッコミ役も近いものがあります。「はるみ」のユキは正統派ツッコミで、「はつめ」の父はツッコミ役だけど天然過ぎる違いはありますが。
 更にその脇キャラとして、「はるみ」では香樹は天然かつ若干のツッコミ、「はつめ」ではケイは天然でほとんど賛同、たくが父のいないときor父が天然なときのツッコミという感じで、それぞれ笑いのパターンに当てはまるようにキャラの役回りも決まっているんですよね。なので大体、ポジションを当てはめた形のネタが多く、逆に言えばキャラたちの方向性にブレがほとんど無いのです。これは読んでいて凄く安心感がありますね。
 もちろん、予期してない動きをキャラが見せるようなマンガがダメだと言うわけではありません。ただここいらは、例えば「よつばと!」のような、登場するキャラクターたちがすべて生きているような動きをしたりするのとは全く意味合いが違うと思うんですよね。
 まだ大沖さんのマンガはどちらも1巻が出ただけなので、これから方向性が変わる可能性もあるにはありますが、今のところはぶれない、記号の集合体としてキャラを動かしているのが面白さを生んでいると思うので、ネタが尽きるまではやって欲しいですね。

  • 宇宙人・箱とネジ、というセンスと発想力

 「はるみねーしょん」は宇宙人設定、「ひらめきはつめちゃん」は箱設定が、大沖作品のシュールな笑いを生んでいることは間違いないところでしょう。考えようによってはムチャクチャですが、逆にこの発想力こそが大沖作品のキモでもあると思います。
 宇宙人も箱とネジの設定も、共に何でもアリのはずなのに、もの凄いことをやってることもあるにはありますが、大半が思ったよりもスケールの小さなことしかやってません。この拍子抜け感や透かし具合が、大沖さんのセンスと発想力だと思うのです。まともに考えていたら、この空気感は出せないと思うんですよね……。なのでこの部分で強烈な唯一性を生んでいると思います。

 色々と書いてしまいましたが、一言で言えば「大沖マンガおもすれー」ですw 4コマ好きでもし持っていないのであれば、ぜひ読まれることをオススメしますw 「けいおん!」などの萌え4コマとは明らかに異なる笑いが待ってます。



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