なぜ没キャラはメインキャラになれなかったのか〜アニメ・キルミーベイベーより

 キルミーベイベーが今さらながらに盛り上がっています。ベストアルバムにBD-BOXと出ましたが、どちらもテレビシリーズのBD/DVDの酷い売り上げからすると何故ここまで売れた的な数字が出てしまいました。単巻売りでは高いと感じた人がお値打ちなBOXに飛びついたとか、放送終了後にニコ生一挙放送などで新たに人気を獲得したとか色々と理由はあると思いますが、テレビシリーズよりはお値打ちとはいえ1万円以上するものが4000も売れた理由に直接つながるものではない気がします。
 それはそうとずっと気になっていたのが表題のキルミーベイベーには何故登場人物が少ないのか? ということです。キルミーにはソーニャとやすな、あぎりに没キャラ、そしてエトセトラボーイとエトセトラガールとたった6人のキャストしか登場しない異例のアニメです。しかも、エトセトラはただのモブというかその名の通り「その他の」キャラなわけですから特定の誰かを指すわけではありませんし、没キャラも何度か登場してはいますが、ソーニャややすなには存在を認識されているわけではなく他のモブとの差異はありません。何よりあくまで「没」になったキャラ、なので名前のあるキャラではありません。よってキルミーに登場するキャラは3人しかいないことになります。それでは何故ここまでキャラが少ないのでしょうか?
 これは、特にアニメでは主人公であるソーニャ視点で話が作られているからだと認識しています。基本的にキルミーベイベーという作品は、殺し屋であるソーニャと、それにつきまとうやすなのふざけた掛け合いのみが全てな作品です。掛け合いと言ってもソーニャの側からは仕掛けないのでほぼやすなの側から仕掛けていくパターンに特化されています。ここが愛すべきマンネリとも言えるところではありますが、これはソーニャが興味を持つ他人がごくごく限られているからこそ可能にしている話でもあります。
 ソーニャは殺し屋という設定でかつそれを殺すべき相手に悟られないようにしながら高校に通学しています。で、その素性からして他人との関わり合いを出来るだけ避け、唯一仕事仲間のあぎりとだけは面識があるようでしたがそれ以外の誰も相手にしなかったのかソーニャに積極的に関わり合いを持とうというキャラはやすな以外にはいませんでした。なので、ソーニャがやすなに煽られて騒いだりナイフ出したりしたとしても教師やクラスメイトは特に反応しませんが、居ないわけではなくそれまでのソーニャの言動や行動から無関心を装っているものだと思われますし、ソーニャに関心を向けても相手にされず次第に誰も関わろうとしなくなった、という感じなのだろうと想像しています。
 しかしその中でしつこくうざくかまってちゃんしてきたのがやすなになるのだろうと思います。やすなはモブキャラとほとんど変わらないような容貌ですし、考えることも非常に低スペックキャラらしく平凡です。アニメのJKキャラが凧揚げしたり福笑いとすごろくしたりとかそもそも普通ではない気もしますが、さほど発想が豊かとは思えない言動が目立つように感じています。しかしやすなには武器がありました。それは、ソーニャが自分に関心を持ってくれるまでしつこくつきまとう根気や、ソーニャが思わず反応してしまうようなうざい煽り方が出来たりすることです。これが武器というにはあまりにアレではあるんですけど、それでもここまでソーニャに絡みまくったキャラが他にいなかったからこそあの関係性が成り立っているわけでもあるので、武器なのは間違いないでしょう。そしてここでもう一つ思い出してみてください。メインキャラとモブキャラの関係についてです。
 このアニメはあくまでも主人公がソーニャです。なのでソーニャが関心のある相手しかそもそも名のあるキャラとして存在を許されない世界観でもあります。そんな世界観だからこそ、ソーニャに関心を持ってもらうことに関してのみ長けているやすなってこの作品世界の中での絶対的な武器を持っている、ということになると思いませんか? つまりは、ソーニャの関心を惹けるやすながこの作品における最強キャラとも言えるのだろうと思っています。もちろん最初から知り合いかつやすなとも仲良くなるあぎりというチートキャラも見逃せませんが。いずれにせよソーニャに関心を持ってもらえなければキルミーベイベーという作品世界の中ではモブキャラを脱出出来ないということにもなります。
 やすなの容姿を思い出してみましょう。茶色のショートかつ特に何も飾りなどはなく、この手のアニメの主人公的なキャラとしては著しく無個性です。そしてキャラの低スペックさからしてもモブキャラでも不思議ではない造形をしたキャラだとも思うわけです。そしてキルミーの作品世界における要素と絡めて考えると「やすなは元々はモブキャラの1人だったのが、ソーニャに関心を持ってもらえる個性の一点だけで主要キャラに上り詰めた」のではないかと考えています。そして声優はモブの女王との異名を持っていた(今はすっかり人気声優の)赤粼千夏さん。ここは考えていたのだろうと思っています。
 そして没キャラを思い出してみましょう。彼女は赤と黒のツートーンカラーのような髪の色でおさげもあり、やすなと比較しても相当容姿に特徴があると思います。屋上から飛び降りてみたり「ミルキーベイベー」ではボクシングが超強かったりとかなりのハイスペックかつあぎりと同等かそれ以上のおっぱいキャラでもあるんですが、そんな彼女が没キャラというモブからメインキャラに昇格出来ないのは……もちろんソーニャに関心を持ってもらえないからなんだろうと思います。要はやすなにはある「ソーニャに関心を持ってもらえるスキル」が没キャラには全くないことがよりモブからの脱出が出来ないことにつながっているのだろうと思います。そういえば「ミルキーベイベー」の時も没キャラが戦っていたのはソーニャではなくやすなでしたよね。
 やすなって友達がいない……わけではないと思うんですよね。ソーニャと関わっている時は、他のクラスメイトらがソーニャには近づけないからこそあぎりを加えた3人しかいないことがほとんどですが、ソーニャといないやすなは描かれてませんよね。やすながソーニャに絡んでいるところしか描いていないので仕方ない部分もありますが、そうした時間ばかりでは無いはずですし、もしかしたら他の友達とも交流してるのかもしれません。たまに誰かから聴いてきた的なところからソーニャに話を振ることもありましたから、ぼっちではないと思うんですよね。まあここは本当に想像の域を出ないのですけどね。なのでやすなに関心を持ってもらってもキルミーの作品世界ではモブからの脱却は出来ないと観ています。
 そういえば没キャラの声優は釘宮理恵さんです。釘宮さんといえば言わずと知れた超有名声優かつ、J.C.STAFFの輝かしい歴史の中でいくつもの作品のメインヒロインを務めるなどJ.C.STAFFを代表する声優さんです。そんな声優さんが演じるキャラが「没キャラ」で、「モブの女王」との異名を取ったような声優さんが演じるキャラが主人公の一人である……その辺がキルミーベイベーというアニメの面白さの一つではないかとも思っています。ので、また興味をもたれたらぜひ見返してみてください。

※なお、これらの見方はあくまでもアニメのキルミーベイベーの内容に沿うものであって、原作のキルミーベイベーでは必ずしもそう取れるようには描かれていないことを付け加えておきます。没キャラはもっと没キャラ然とした扱いだったような。。。