無個性プレイヤーキャラが個性派主人公へ。逆転の個性付けが面白いアニメ「P4」

 既に今期アニメでもトップの売り上げが確定した感のあるのが「P4(ペルソナ4)」ですが、最初はあまりにも脈絡の薄い展開の連続でついていけない感が凄かったのですが、キャラが出揃ってきて日常回みたいな話数を重ねていくうちにものすごく面白くなってきています。りせはいきなり正ヒロインのポジションを強奪するし、千枝ちゃんは可愛いし、花村は良い感じのチャラ男なのとツッコミ要員ですし、雪子は天然っぽいのとドSっぽいのが素晴らしいですし、完二は最高過ぎますし……。そんな中でも、個人的に気になってしようがないのが主人公の鳴上悠です。彼は1話でいきなり授かったペルソナで戦いだしたり割と意味不明でポカーンとさせてくれたりしましたが、回が進んでいくにつれてだんだん面白いキャラになってきて、今では彼の言動が気になってしようが無くなって来ました。
 アニメを観ている時に、どうしても注目してしまうのが主人公のキャラ付けや個性についてです。個人的には、アニメの主人公に感情移入できたり、魅力を感じたり好感持てたりしない限りはその作品を「大好き」とは言い切れなくなってしまいます。しかしながら、P4の主人公は基本的にはプレイヤーキャラということで、彼の過去や引っ越して来た詳しい経緯、彼の能力や素質についてなどほとんど描かれることなくここまで描かれてきてるわけですが、それでも何故か彼に魅力を感じたりしてしまうわけです。それは一体なぜでしょうか? ちょっとそこのところを考えてみたいと思います。

  • パラメータとキャラクターの連動性

 CM前後のアイキャッチであるように、鳴上君にはパラメータのようなものが存在しています。これはゲーム由来の要素だと思いますが、だいたいこの通りの性格と言うかキャラなんですよね。開始当時は平凡なステータス通り平凡と言うか特徴のない感じが前面に出ていたように感じてましたが、ここ最近だとパラメータ上昇に合わせたのか元々そうだったのかはわかりませんがチートな感じがありますよね。最初は、このパラメータに何か意味でもあるのか……と思っていましたが、ちゃんと現在の鳴上君がどういうキャラなのかを明示しているのだと考えると、割と親切な演出なのかな、とも思います。電波女と青春男みたいに、番組終わりでポイントの変化を明示するような演出があってもハマったかなーと思いましたが。

  • あまり喋らないことで増すキャラクター性と風格

 鳴上君の特徴としては、非常にセリフが淡々としてるというか、多くは語らないところにあるとも思います。ラノベ原作アニメだと、主人公視点で進むものだとどうしても主人公のモノローグは主人公が語らないといけないわけで、気づくと喋ってばかりだったということもあったりもしますが、P4ではそういうことは一切無いですよね。もちろんおいしい場面では喋りますが、基本的には何かを受けて返すパターンが多いように思います。
 考えてみると、彼は男主人公にしてはツッコミが弱いような気がします。というかどちらかと言うとキャラ的にはボケキャラですよね。ツッコミ要員は花村や千枝ちゃんで、鳴上君は突拍子も無いようなズレたこと言ってみたりしてますし、ツッコミ入れてもあの口調なので強いツッコミにならないんですよね。「先生」「番長」と呼ばれる鳴上君ですが、あまりべらべら喋らないことで軽薄さを感じなくなり風格を感じるからハマる、と言えるのかもしれませんね。
 これらの特徴は、ゲームのプレイヤーキャラだからこその要素なんですよね。ドラクエシリーズなんかに代表されますが、主人公=プレイヤーとすることで、プレイヤー自身がその世界で冒険したりするスタイルですし、あまり主人公の出自を詳しく描かないようにしているあたりは、アイマスなどヒロインたちとの恋愛や交流を描く系のギャルゲーに近いタイプとも言えるのかもしれません。なので、相手の話に応えたり、選択肢を選んだだけのようなセリフが多かったりするのでしょうが、それがキャラ立てにも使われているんですよね。

  • かっこ良くてチートでドヤ顔までするのに何故か親しみやすいキャラ付け

 鳴上君といえば、1話でいきなりテレビの中に入って敵と戦うわけですが、その際の順応力が尋常じゃなかったですよね。巻き込まれたり敵と戦わなければならなくなったあたりで動じてないのも凄いですが、いきなりペルソナ授かってそれ使って普通に戦ってましたし。更に言えば、いきなりぼそぼそと喋るだけのキャラだったのが声張り上げるようになっていて、自信満々に戦いドヤ顔で決めてみたりとキャラが豹変したかのようでした。あれは、初めて観たときには「こいつ……何だ?」となってしまいましたが、クマーが彼のことを「先生」と慕ったり、完二やりせが「先輩」と呼んだりしてるあたりに繋がってきますよね。そういう、戦いになると頼りがいのある人間だというこれもキャラ付けに使われているように感じました。カリスマ性みたいなものも演出できているのかもしれませんね。
 とはいえ、1話の戦闘での豹変っぷりって、原作やってないからわからないんですが、恐らくは原作のメタ的なネタですよね。ゲーム始めてみたら転校してきてて、誘導されるがままに話が進み、テレビに放り込まれて敵と戦わなければならなくなり、そしたらペルソナもらって主人公が戦闘に入って「カッ」してみたり戦いで勝った後の決めポーズしてみたり……と。ゲームの経験者からしても「ちょっwww」となってしまった一連の流れをアニメでも再現してみせた、ということなんでしょうけどね。鳴上君のキャラ付けが出来てきた今だと、振り返ると本当に面白いですよね。普通のアニメの手順で言えば考えられないようなやり方ですが、それが普通のアニメではなかなか出せない面白さに繋がっているように思いますし、敢えてやった岸監督(かシリーズ構成の柿原優子さん)の手腕はなかなか凄いなあと思ってます。
 最新回では、りせのマヨナカテレビでのストリップショーを観て録画ボタンを連打していたり、花村からの電話が終わるやいなや巻き戻して再生しようとして「ですよねー」と言ってみたりと、プレイヤーキャラとしてプレイヤーの気持ちを代弁する役割も担えてますし、同時に鳴上君自身の欲望に素直な部分が描かれていることで、草食系主人公とは一線を画していることを描いているあたりが非常に意味がありますよね。

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 P4主人公の鳴上君は、世間的にもかなり親しまれているような気がしています。こういうプレイヤーキャラを特徴を付けずに描くタイプのアニメだと、例えばアイマスみたいにさほど主人公キャラへの好感度が増さないのが普通ですが(最近はちゃんとプロデュースしてるのでそうでもない?)、P4では不思議なことにそこも上手く描いているように思うんですよね。
 このP4では「自分が何者なのか」というのが序盤のテーマになっているようですが、一番自分がわからないのは主人公の鳴上君ですよね。それを画面を通してプレイヤー自身にも投影されるようにと作られているような気がしますが、アニメになって「鳴上悠」というキャラクターとして個性を描いてきてるわけで、彼自身にも何か結末が待っているような気がしててとても楽しみだったりします。


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