ポストけいおん!!として観る「まどか☆マギカ」と「フラクタル」

 2010年というか、ここ最近では空前のブームとなった「けいおん!!」ですが、その後その影響を受けたのか、日常系の作品がクローズアップされるようになりました。昨期であれば「侵略!イカ娘」や「それでも町は廻っている」あたりがこの流れを汲んだように思いました。イカ娘はインパクトもあったのかそれなりのブームにもなりましたよね。
 ただ一方で、刺激の少ない、あまり毒のない作品が目立つようになり、けいおん!!ブームの弊害と嘆く人も出てきてはいました。そんな中で、今期は「魔法少女まどか☆マギカ」と「フラクタル」というオリジナルのインパクトのある作品が出てきて、良くも悪くも話題になっているように思います。
 この2作品で面白いのは、両者が「アニメオリジナル作品」であること以外の共通点がまるで無いことだと思いますし、「けいおん!!」という作品の影響を別方向に反映させていることでも比較しやすいし、比較していて凄く面白いのです。
 以下は僕の妄想なので、製作者さんたちが本当にこう考えていた、というわけではないことだけ頭に置いてお読みください。

 まどマギは非常に「けいおん!!」に近い作品だと思います。と書くと冗談みたいに聴こえますが、外枠や仕組みはかなり近いんじゃないかなと思っています。
 例えば、わかりやすさはありますよね。けいおん!!は女子高生が部活で軽音楽をやる、という作品で、それはタイトルに既にあります。まどマギ魔法少女モノであることをタイトルからして明記してありますよね。
 主人公が女の子で、メインキャラが女の子ばかりというところも似ていると思います。まどマギでは上條君という存在がいますけど、まどかに直接深く関わるわけではないので、基本まどかの周りにも男はいないあたりは、唯に男の気配が全くしないのとも共通していると思います。個人的にけいおん!!キャラには魅力はあっても「俺の嫁にしたい!」というものがあまり無かったように思いますが、まどマギにもそれはあって、どちらも男性目線が主体的に存在しないからなのだろうなあ、と考えています。
 色々な要素を取り込んでいない、ある程度あって当たり前の要素を切り捨てて描かれているところも近いのかなと。けいおん!!では、恋愛要素や悲しくなるようなこと、アクシデント的なイベントなど様々な「あって当たり前」なものがありませんでした。まどマギもここまで、まどかの恋愛の話が出てくる気配はありませんし、笑いや萌える展開、メインは女の子同士なのに百合などの要素がありません。どちらも、描きたいテーマに邪魔になるような要素を描いていないように感じます。
 作品世界が限定されている「箱庭感」も共通していると思います。けいおん!!は桜高や桜高がある町と、更に小さい範囲では軽音部の部室や軽音部そのもの、という単位で世界があります。まどマギでも、見滝原市とか中学校、そして魔女の結界内という単位で世界が存在します。まどマギの魔女の結界内の描写が特異に為されていますが、あれは「現実と非現実」「日常と非日常」という世界の違いを表現する上で極端にやったのだと思います。あとは、けいおん!!の軽音部とそれ以外の生徒という対比が、まどマギ魔法少女(候補者含む)と一般人の違いみたいなものと少し似ているな、とも感じています。
 あとは、隙のない描かれ方でしょうか。けいおん!!は一見意味を見出すのが難しいような部分を、伏線として後半の回で回収する場面が非常に多くありました。まどマギでも、意味ありげな演出が数多くありますが、先の展開を予想するための材料になるものが多いので、恐らく同じようにことごとく回収していくような気がしています。キャラクターたちも、それぞれが影響しあってますし、主人公以外のキャラたちの心の動きまで全て細やかにフォローされてるような気がしますが、どちらにも言えるような気がしています。

 このくらいの共通点なら他の作品でもありそうなんですが、まどマギの殺伐とした雰囲気やストーリー性を除けば、けいおん!!とはそれなりに近い存在なんだろうと思います。

 これはとにかく真逆ですね。割と何もかも違う感じがします。1,2話の空気感は近いものがあったようにも感じましたが、3話で1,2話であったものがほとんど伏線でかなり薄気味悪い世界に見えましたしね。
 まず、主人公が男の子という時点から全然違います。そして対女の子という構図も。フラクタルは、主人公であるクレインとフリュネが出会い、クレインが一目惚れ(してるのか?)するところから物語が動くので、割に恋愛が中心にあるのかなと。もちろんクレインの成長がメインなのでしょうが、そこにフリュネは大きく影響していくでしょうからね。主人公が男の子ということで、男性目線を主体的に持って来やすいので、「俺の嫁」的な見方をしやすくなってるとも思います。
 割と色々な要素を描こうとしている感じはありますよね。僕が聞いていたのは、フラクタルは冒険ものだという話でしたが、クレインの成長だったり、恋愛だったりも描かれるような感じです。総管理社会についてだとか、各人がコピーみたいな考え方をしているところなんかは、現代社会への問いかけにも見えました。戦いや死の描写、ナノマシンが入っている人と入っていない人、僧院の人間と3極ありそうなところとか、思いつくだけで盛り沢山です。その弊害が、助走に3話必要だったことに繋がるわけですが……。
 作品世界が今のところ限定されていない点も違うと思います。フラクタルには箱庭感がありません。もちろん、僧院に管理された世界は全て箱庭化されているようなもの、なのかもしれませんが。何処が世界の果てなのかがとかもわからないような作りをされているようにも感じます。
 日常が日常でなくなっていくあたりも正反対なのかもしれません。フリュネと出会った時点からクレインの日常はなくなっていくわけですが、彼女が置いていったネッサに振り回され、挙げ句にエンリたちに捕まって3話へと繋がっていくあたり、今のところはクレインは極めて受動的ですよね。それに対してけいおん!!は、あれでいて非常に能動的な描かれ方をしていると思います。唯は自主的に、自らの意思で軽音部に入部しているわけですし、そこに強要とか無理やりというものは存在しませんので。
 あくまで主人公であるクレインだけを掘り下げた描き方でもありますよね。この辺は極めてギャルゲーの主人公的な感じがします。おかげで他のキャラたちが何を考えているのかがさっぱりわかりませんが、そこはあくまで主人公目線で見てくれって意図だと思いますし、他のキャラの心情はあまり明かすと、視聴者とクレインの感情に差が出来てしまうので敢えてやってないんでしょうね。
 ストーリーがあるのか無いのかという部分は基本ですが。

 こう挙げていくと、フラクタルってけいおん!!を全面否定しているような気がしてます。アンチけいおん!!とでも言えるような。けいおん!!のようなノリの作品が増えることを予想して、敢えて全く違う方向に、そして原点に立ち返ったような作品を提示してきたんじゃないだろうか? と考えています。

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 ギャルゲー畑の虚淵さんが女の子ばかりな、恋愛関係をメインにしない感じで作品を作っていて、アニメ畑のヤマカンさんが逆にギャルゲー(というかゲーム的?)的な人間関係で描いているあたりも、何か対比すると面白いなあと思ったりしています。
 今のところ、まどか★マギカの描き方が正解という感じになっていますが、あくまでそれは、入り口の描き方の問題だけで、物語が深化していけばどうなるかはわからないと思います。フラクタルの描き方がけいおん!!から遠いところにあるのも、もしかしたら影響があるのかもしれませんね。個人的にはどちらの方向性も面白いと思うので、このままこの2作品の結末までじっくり追っていこうと思っています。

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