サブキャラクターを使ってメインキャラクター達の魅力を掘り下げる、甘酸っぱい青春コメディの「君と僕。」

 今期アニメも後半戦に入っていく中、あまり注目されてもおらず個人的な期待もさほどなかった「君と僕。」が面白くなって来ました。
 「脱力系」というキャッチコピーやメインキャラ5人が全員男であることなど、シリーズ構成が吉田玲子さんで脚本に花田十輝さんが関わっていることなどから、「男だけのけいおん!、あるいはAチャンネル」的なゆるい日常系作品だと思い込んでいました。実際に1話の地味さは異常で視聴を切ろうかとも思ってしまいましたが、ポツポツ聴こえる評判から考えなおして観続けているうちにハマってしまいました。制作がJ.C.STAFFでもあることから映像的に凄い!と思う部分はあまりないのですが(演出とは違います)、とにかくお話が丁寧と言うか、1話観終わっての読後感(観てもいますが)がもの凄く良い回が多いんですよね。そして表題にもあるように、恐らくは1話限定であろうと思われるサブキャラの使い方がとても上手い作品ではないかと思うわけですが、それについて描いていこうと思います。

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 日常系作品で、さきほども挙げたけいおん!Aチャンネル、あとゆるゆりもそうですが、基本的にはメインキャラクター達がやや閉鎖的なコミュニティの中で仲良くやっていく、という傾向が強いと思います。百合系のこれらの作品は、男性の存在を描きたがらず女の子同士でのキャッキャウフフというかゆるい友情な話を展開していくものが多いと思います。
 それに対して「君と僕。」では、あまりメインの5人と茉咲ちゃん以外のキャラとの接点は多くない……というのは、よく屋上であのメンバーだけで駄弁っていることを観てもわかるとおりですが、そこに異性である茉咲が加わっていたりする(いつもではないですが)ことが非常に面白いですよね。これを百合的な日常系アニメに置き換えたら……破綻してるんじゃないかとすら思います。異性がいても恋愛うんぬんにならなければいいんじゃ、とも思いましたが、茉咲→春ちゃんですし千鶴→茉咲という三角関係的な片想いの矢印が出来てしまってるんですよね。女性視聴者から観るとどう見えるのか気になりますが、異性との恋愛よりも同性との友情というのが百合系作品がウケている理由だとすると真逆の描き方だと思います。……が、個人的にはそこが面白いと思ってます。片想いされていることに気づかない春ちゃんは、最新話でもあったように周りから観るとあのグループのヒロインポジションなんですよね。そんな彼が異性にモテてるという絵がギャップもあって観てて凄く楽しいんですよね。もちろん双子もイケメンだしミステリアスでモテるわけではあるんですが、それはグループ外のことで彼らには関心がないことなので関係ないんです。むしろ、グループ内でそういう関係性があることを描いているあたりが面白いのだと思います。春ちゃんは片想いされていようがグループ内のヒロインポジションのままですし、接し方は変わらず優しいですからね。そういう部分を考えると、作品内での恋愛と友情は別物、という描き方をしているような気がしています。常に春ちゃんを意識している茉咲とは違い、メインメンバーである千鶴は茉咲がいなければ普通にグループ内のウザキャラというかムードメーカーやってますからね。
 恋愛要素を避けていないと言えば、やはり7話の高橋さんと悠太のエピソードでしょうか。最初は「付き合う? ああ、他のメンバーの勘違いネタなのか」と思っていたら実はちゃんとデートだったというのもビックリだったんですが、微妙に友人たちから浮いていて嫌われたくない一心から告ってみたらあっさりOKしてもらえたという話がわかるにつれて、どんどん話に入っていく感じと、悠太のキャラクターの良さも深く掘り下げることもしており、より一層作品の面白さを感じられる今期アニメでも最高の1話になっていました。この話や、その次の漫研話のBパートを観てもわかりますが、メインキャラクター達の誰かの視点よりも、サブキャラの視点からメインキャラの魅力を掘り下げるような描き方をしているのがわかると思います。特にこの話はこの回限定かもしれないくらいのキャラクター視点でしかも異性から観た悠太、ということもあり、ちゃんと異性から観ても魅力的な男の子として見せているような気がします。
 漫研話も面白かったですね。Aパートはあのメインキャラたちで漫画を考えるネタでしたが、それぞれの個性とオチの要くんという、グループ内でのほのぼの日常回でしたが、Bパートでは漫研の松下君から観た裕太と仲間たち、という妄想でしたよね。春ちゃんがほぼメインヒロインだったのが面白かったですが、祐希をヒーロー的に考えてるのに祐希の脱力さも同時に観ているからこその最後はグダグダになってしまう脳内妄想なんですよね。それでも憧れの人であることには変わりないという締めは凄く良かったです。ちょっとBL入ってる感じでもありますが、この回は前回から一変して男子から観ても魅力的な存在であることや、このグループが楽しそうだということを描いていたように思いました。
 要の周辺にやたら女性が多いってのも面白いですよね。ママは可愛いし、起こしに来てくれる幼なじみがいたり、逆に憧れてる女性がいたりなどこのリア充が! って感じなんですが、彼もまた性癖的にはノーマルであるという描き方でもありますし、友人たちの前では強がってみたりしているあたりも、逆に友人たちがいない時の顔はどんなだろう……と興味をそそる部分だったりします。案外ママンと一緒に買物行ってるかもしれませんよね。
 このように、1話限定っぽいサブキャラだとそのキャラクター視点での彼らだったり、ちょいちょい出てくるサブキャラだと視点は描かないものの登場させることで波紋を起こすような使い方をしていて、やや閉鎖的にもなりがちなところを上手く話を広げると同時に、それでいながら中心は彼らであることは全く揺らいでおらず、話としては軽い回だったとしても、どんどん深くメインキャラクター達にハマっていくような作りになっているように感じました。日常系なんだけども、周りの影響を受けつつ少しずつだけど変わっていくような、でも変わらない部分はあるという感じの話の進め方が面白いですね。

 お話の描き方もさることながら、OPの「バイバイ」とEDの「なきむし」がかなりの良曲ですし、アバンはOPのイントロへと繋がっていく仕掛けを、EDも曲調に合わせたちょい切なかったり甘酸っぱい感じのお話の締めから繋げていく感じや、EDの原作者によるイラストが毎話の内容に合ったものが入っているあたりの細かい仕様も素晴らしいですね。
 ただ問題は……あまり売れそうにもないという部分でしょうか。以前ベン・トーの記事を書いた時にも「売れそうにもない」としましたが、そのベン・トー以上に売れそうな気配がないのですよね。1話の作りがあまり良くなかったことでの1話切りが多かったような気がしますし、BL方面でも恋愛物でもないあたりがやや引っ掛かりとしては弱いような気がします。これ、分割2クールなんですよね。来期、引き続いてシャナと、キルミーベイベーミルキィホームズ2期、そして禁書劇場版が控えているJ.C.stuffの事情や、アニプレックス×テレ東作品として夏目友人帳の続編も控えていることもあるんでしょうけど、1期が売れないと期間空けての2期も成功しませんからね。現場のモチベーションなど心配ですし、それ以上に2期が短縮されてしまいやしないかが気になってます。アニプレックスで分割2クールといえば、みつどもえが2期は8話と短縮されてしまった前例がありますから……。とはいえ、僕もアニメの円盤を買うところまでは行ってないので(欲しくはありますが優先順位的に……)、もう少し後追いでもいいので観てみようという人が増えてくれることを願います。個人的に、今期泣けたアニメ第一号でもあるので。

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