SHIROBAKOに登場するアニメ制作スタッフの素人臭い演技の意味や意図を考えてみた〜ジブリ作品と比較して

 SHIROBAKOをここまで観ていて気になるところといえば、主に音響スタッフ役のキャラで見かける素人臭い演技でしょう。最初は「本当にスタッフが演技しているのかな?」と思っていたらちゃんとプロの声優さんがクレジットされていて、特によく知っている伊藤静さんとか、音響制作の中田恵理役として出てもいますが、とにかく普段のアニメでの演技とは全く異なる素人っぽい演技をしていました。この辺は音響監督も兼任する水島努監督の明確な狙いとして、わざとプロの声優さんに素人っぽい演技をさせてリアルなアニメスタッフっぽさを演出したかったのだろうと思いました。そして監督がそうした演技指導をさせたり、あるいはオーディションの時から素人っぽい演技が出来る声優さんを選んでわざわざ起用したりというあたりで、何となく思い当たるフシがありました。「侵略!イカ娘」や「よんでますよ、アザゼルさん。」など水島監督とよくコンビを組んでいた音響監督の若林和弘さんです。
 若林和弘さんといえばP.A.WORKS作品の「true tears」や「RDG」の音響監督でもあるのですが、もっと有名なのはスタジオジブリ作品である「もののけ姫」や「ハウルの動く城」、Production I.Gの劇場アニメだった「ももへの手紙」あたりでしょうか。さすがに最近ではセミリタイア気味のようではあるのですが、とにかく大型なアニメ映画の音響監督を任されていた印象が強い人でした。とにかく映画館で映える音にこだわり、特に「ももへの手紙」では台風が襲来したときの風雨の音の凄さが強く印象に残っています。そんな若林さんのもう一つの特徴といえば、声優さんじゃない人を声優として起用すること、だと思います。
 ジブリ作品や「ももへの手紙」などのオリジナル映画で本業が声優ではない俳優を起用するのは若林さんの一存では無いのですが、アニメ声優さん独特のアニメ声とか演技を極力出さないような演技を求めるケースが多いように感じます。個人的にジブリ映画のそういうところはあまり好きではないのですが、例えば「うさぎドロップ」でヒロイン(?)のりん役に起用した松浦愛弓さんは本業が子役で、当時10歳前後のリアル小学生でした。そういう子に演じさせることで、ロリキャラ役が上手い女性声優さんには出せない素朴さとかリアルさを醸し出していたように感じました。一方で、イカ娘に出ていたたける(相沢家の末っ子)なんかは、女性声優さんが演じていましたがどちらかと言えばリアルな男の子っぽい感じの演技でした。この辺がSHIROBAKOに通じるところがあるように感じました。
 つまるところ水島努監督が音響監督として目指したのは、プロの声優さんに一部のアニメ制作スタッフのキャラクターを素人っぽい演技をしてもらってリアリティを出したかった、というところです。若林さんがやっていたようなことを取り入れるのと、若林さんの作品なら声優さんじゃない人を持ってきそうなところに敢えてプロの声優さんを持ってきてそういう演技をしてもらう、ことなのではないかと考えました。
 個人的にはジブリ作品へのアンチテーゼというか皮肉にも聞こえるんですよね。ジブリ作品はアニメの声優さんのアニメ声的な演技が受け付けないとかでアニメ声優を起用してない、という話を聴いたことがあります(詳細はどうだったか不明)。そういえば「Gのレコンギスタ」で富野由悠季総監督も、起用した声優さんのアニメ声っぽい演技を抜くのがどうこうとインタビューで語ってましたね。水島監督が狙ったのは、そういうアニメキャラっぽくない演技が出来る声優さんをちゃんと起用して演技指導さえすれば、声優素人を起用するよりも間違いなく上手いし、かつリアリティも出せるものが出来るんじゃないか? ということなのではないかと感じています。あと、水島努監督は(たぶん)声優さんが大好きです(笑)。もちろんリスペクトを込めてですけど、そんな声優さん大好きな水島監督だからこそ、声優さんが軽んじられているように見えるのを見返す意味でやっているのかもしれません。
 そういえば菅野光明という庵野秀明さんっぽいキャラが出てましたね。このキャラもプロの声優さんが本人にそっくりだという演技もしていて話題になりました。そんな庵野さんは「風立ちぬ」でジブリアニメに主演で声優に挑戦していたんですよね。「風立ちぬ」の音響監督は若林さんではないようですが、そんなところにも登場させた意図があったのかもしれません。

 関係ないかもしれませんが、新人声優のずかちゃんこと坂木しずか役の千菅春香さんは「ソウルイーターノット!」で初主演だったわけですが、このアニメの音響監督が若林さんだったんですよね。かなり新人らしい演技だったのですが、SHIROBAKOでは全然上手くやれているあたりも、何か関連があるように思えてならないのでした。