『聲の形』に繋がる、京都アニメーションの原作もの「一本釣り」アニメ化路線

 京アニこと京都アニメーション制作の映画『聲の形』がヒットしているようです。公開9日間の数字でいえば、あの『けいおん!』や『魔法少女まどか☆マギカ』を上回る数字で推移しているようです、12日目にして10億を突破したという情報も入ってきました。内容としては文句なしではあるのですが、それほどキャッチーさは無いと思っていただけに驚いています。
 しかしながら、書店に行っても原作コミックスはほとんど置いておらず、今月27日頃からようやく重版分が出回りだしたというくらいには動きが遅かったです。映画公開に合わせてファンブックは用意していたようですが、原作元の講談社は全く予想していなかったように見えます。原作は既に完結していたこともありますが、京アニと組むのは初めての講談社というのもあったのかもしれません。
 京アニには、角川とポニーキャニオンの、2つの製作と組んでアニメを作っていますが、角川ルートでは、角川が京アニにアニメを作ってもらっている感じがありました。が、ポニーキャニオンルートでは、京アニがやりたい企画をポニーキャニオンがサポートしている、ような感じに見えています。
 そしてポニーキャニオン製作でも、オリジナルや、京アニ自社出版の、KAエスマ文庫原作アニメはともかく、それ以外の原作もののアニメ化は非常に特徴的なものがあります。それは、パイプの無かった原作元と組んでいたこと(その橋渡し役をポニーキャニオンがしていた?)と、原作側がアニメに積極的ではないようなスタンスに見えたことです。どういうことなのか、ちょっと観ていきたいと思います。

 ご存知(ですよね?)Key原作の、美少女ゲーム界でもレジェンド級の作品です。東映アニメーションからもアニメ映画化されましたが、ほぼ同時期に京アニがテレビアニメ化したものです。
 当時の話はちょっと覚えていないのですが、Key三部作のテレビアニメ化については、TBSが積極的だったという話もあり、ポニーキャニオンはそのおまけだったのかもしれませんが、角川ルートしかなかった京アニにとってはこれも転機だったといえると思います。
 原作が発売してから5年近く経っていたこともあったのか、あるいはゲーム屋がアニメに積極的に関わるのは良くないと考えたのか、製作委員会にはKeyが所属しているゲーム会社、ビジュアルアーツは参画しておらず、TBSとポニーキャニオン京アニが出資していました。
 結果は言わずもがな。続いて『Kanon』、そして山田尚子監督が演出デビューした『CLANNAD』も、同じ体制で作られました。

 社会現象とも言われた、日常系アニメの金字塔です。『聲の形』の山田尚子監督が監督デビューした作品でもあります。
 芳文社とのパイプもあったわけではないですし、どういう経緯で京アニがアニメ化することになったのかよくわからないのですが、製作委員会に原作元の芳文社は関わらず、Key三部作と同じような製作委員会の組み方をしています。
 結果はご存知のとおりです。芳文社は、原作コミックスや関連書籍などで恩恵は受けましたが、アニメの大ヒットで得た恩恵はごく一部にとどまったように思います。『けいおん!』以後、芳文社は、自社原作のほとんどのアニメの製作委員会に参画しています。

 宝島社文庫という、ラノベレーベルとしてはマイナーな出版社の原作です。当然ここの作品をアニメで取り扱ったことなどありません。宝島社がどのくらいの規模の出版社なのかわかりませんが、アニメ化作業に関わったことも無かったでしょうし、製作委員会には参加していません。これも、Key三部作などに近い形の製作委員会になっています(テレビ局はTBSではなく、大阪のテレ朝系である朝日放送)。

 あの講談社です。京アニと仕事したことは無かったかと思います。試写会に 先生が招待されてコメントも出していたように、『進撃の巨人』などで講談社とパイプのあるポニーキャニオンが仲介して実現した企画なのだろうと思います。
 製作委員会には講談社が入っています。なので上記した作品とは違う形です。ただ、原作が既に完結していたことや、アニメ化にあたって主導的に動いたのは京アニだったこともあって、製作委員会では6番目のポジションでした。
 前述のとおり、映画化効果が大きいと思っていなかったのか、原作をほとんど準備しておらず、映画のヒットで慌てて重版をかけたようにも感じました(まず1〜3巻から重版分が出まわるというあたりにそれが伺えます)。

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 という感じですが、あまりにも「製作委員会に原作元が参画していない」とか「原作本を準備してない」ケースばかりです。AIRの当時であれば、まあ仕方ない面もあったかと思いますが、けいおんの頃には既に京アニブランドが確立されていましたし、聲の形にしてもまだまだ京アニという看板は通用するところだったかと思います。しかしながら繰り返されてしまったような気がします。
 なぜこのようなケースが増えるのかと考えると、いくつか思い当たることがあります。

  • 京アニがやりたくてアニメ化企画を進めたケース

 Key三部作はTBS主導のアニメ化という話がありましたが、鍵っ子を自認していた石原立也監督以下、京アニとしてやりたい企画だったのだろうと思っています。恐らくはAIRがヒットすれば、KanonCLANNADも自動的にアニメ化するつもりだったのだろうとも思います。
 けいおんに関してがよくわからないのですが(アニメ化の企画が動いたのは原作の連載開始後すぐ〜単行本が出たかどうかくらいのタイミングだったはずなので)、ユーフォニアム聲の形も、京アニが原作に惚れ込んで、かつ作風が合う(のと売れる算段もついていたのでしょう)ことで、自らが売り込んでアニメ化にこぎつけたのだろうと考えられます。けいおんについては、京アニによるスーパー青田買いだったという見方もできるかと思います。芳文社も、あそこまでの人気が出る原作だとは感じていなかったくらいには。

  • 原作元は映像化に積極的ではない/今推したい作品ではない作品だった

 逆に言えば、原作側はあまり積極的に売り込もうとしていなかったとか、アニメ化に乗り気ではなかった、あるいは売れるとは思ってなかったなど、原作側のその作品についてのスタンスの問題にもあるように思います。
 出版社にとってアニメ化は、原作が掲載されている雑誌の販促を第一の目的にしているので、聲の形のように原作が完結している場合、それが出来ないためあまり積極的になれないのが一番だと思います。
 もう一つ考えられるのは、アニメ化したいタイミングで話が来なかった(実現しなかった)ような作品のケースです。特に聲の形の場合は、原作も色々な意味で評判となり、原作もかなり売れていましたから、アニメ化など映像化の話も来ていたはずなのですが、話がまとまらなかったのか、あるいは扱いの難しい内容に尻込みしたのか、そうはならないまま原作が完結してしまったようです。京アニによるアニメ化は、原作が完結する頃に固まったようなので、他からの話を断っていた可能性も無くはないですが、雑誌の販促としてのアニメ化は実現しなかったのでしょう。もし、連載中にアニメ化が実現していれば、言うまでもないことですが、京アニによる映画『聲の形』は実現していなかったということにもなります。

 つまり京アニは、他社が積極的に手を出さない、あるいは原作元がアニメ側に積極的にアニメ化を売り込んでいないような作品に目をつけ、アニメ化させているということになります。しかもこの路線でアニメ化されたKey三部作にその後の3作品は、いずれもヒットしていますし、この作品をうちでアニメ化すれば面白いものができるだろうし、ヒットにも結び付けられる、というところまで見えているのではないか、というところまで考えられると思います。
 考えてみたら、AIRの時はまだまだエロゲ原作アニメを丁寧に作ったら売れるなんて考えられなかった時代ですし、けいおんは超のつく青田買いなのと、まだまだまんがタイムきらら系原作アニメのヒット作が少なかった頃ですし、ユーフォニアムはよく原作見つけてきたな、という具合のマイナーっぷりでしたしね。
 京アニと言えば美少女キャラだと思いますし、丁寧な作風の美少女アニメで今の地位を築いたと思っています。その作風と長所が活かせた上で、アニメとしてもヒットが見込める作品を見つけてこられる優秀なプロデューサー(もしかすると監督本人?)が京アニにはいる、ということにもなると思います。そしてそれは、他社にはない、非常に大きな強みにもなっているわけです。

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 色々と書いていきましたが、『聲の形』の映画のヒットは、偶然の産物ではないってことを、声を大にして言いたいです。今まで京アニのメインターゲットであったオタク層よりも、それ以外の層にもウケたのは、原作ファン層の強さなのだろうと思いますが、そうした作品を一本釣りしてしまえる京アニの眼力とか嗅覚とアレンジ力には、今後も驚かされるのだろうな、とも思っています。

小説 映画 聲の形(上) (KCデラックス)

小説 映画 聲の形(上) (KCデラックス)