躍進する「動画工房」はポスト「京アニ」となれるのか?

 月刊少女野崎くん観てますけど面白いですよね。千代ちゃんだけ目が大きくてでかいリボンも付けていて他のキャラと比較しても違和感ある存在として描かれているのですが、CVも他のキャラが実績ある声優さんで固められている中でひとり新人の小澤亜李さんを起用するなど徹底した作られ方をしてるのも印象的です。作品内での違和感、とは書きましたが、野崎くんに出てくるキャラクターたちが基本的にマンガの世界の住人みたく見えるという千代というポジションが、一歩離れたようなところに立っているような感じに見受けられたから違和感という風に感じられたわけですが、千代ちゃん自身も少女マンガのキャラっぽい造形になっていて何処か不思議な感じにさせてくれるのもこの作品の面白さの1つなのではないかと思うわけです。
 さてそんな野崎くんを作ってるのが動画工房です。動画工房といえば「恋姫無双」……というよりは「ゆるゆり」でしょうか。丁寧な作画と動きあるアニメでキャラの可愛さが引き立つ内容で一気にアニメ視聴者への知名度アップと動画工房という制作会社の安心感みたいなものが出てきて、マニアックながら一定以上の人気を獲得した「GJ部」やラブコメでも売れると証明した「未確認で進行形」などを送り出し、今日までその評判は高いままというか上がる一方のような気がします。
 そんな動画工房ですが、一部のアニメファンから「京アニ京都アニメーション)に並んだ」だとか「京アニ超えてるんじゃね?」という声も上がるようになってきました。これはまあ、京アニが自社原作路線に舵を切って、さらには「Free!」のような女性向けっぽいアニメに力を入れはじめたんじゃないかという懸念から起こった一時的なものなのかなあという気がしてますが、支持してくれるファンあっての制作会社と考えると、望まれる方向でのアニメをコンスタントに送り出してくれるところを応援したくなるものだろうと思います。ただ次のアニメが「曇天に笑う」という男性キャラ中心のマンガ原作アニメっぽいので、キャラ萌えアニメばかりを作り続けるわけではない、ということも方針として明確にあるようです。
 動画工房京アニを超えたかどうかと言われたら、まだまだ京アニの域には達してないと思います。というか、動画工房京アニではアニメの作り方が違うからです。京アニは監督からキャラクターデザイン、演出のスタッフほぼ全員が自社の社員なのに対し、動画工房のアニメは基本的に監督は外部の演出家を起用していて、キャラデザも作品によっては外部のスタッフを使っているようです。野崎くんのキャラデザも担当していてまどマギ総作画監督もやっている谷口淳一郎さんなんかは動画工房に所属しているようですが、自社のスタッフでまかなっている部分は京アニよりも狭いと観ていいでしょう。
感覚的には動画工房の体制は、京アニよりもPAに近いと言えるような気がします。
 更に言えば、京アニはオリジナルアニメや自社レーベルから出しているラノベを原案としたアニメが中心になってきていますが、動画工房のオリジナルアニメと言えばマジェプリくらいしかまだ作られていない現状です。
 ただ京アニの自社原作やオリジナルアニメの路線が必ずしもアニメ視聴者には受け入れられているわけではない、という状況も前述の通りです。これは京アニ作品に限ったことではなく、例えばPA作品でもここのところヒットが止まって久しい状況を見るとわかりますが、アニメ制作会社発のオリジナルアニメがあまり上手くいってないようにも感じます。制作会社が考える面白いアニメ、というのと、アニメ視聴者が思い浮かべる観たいアニメ、というものとの解離が進んでいるような感覚でいます。そこからすると、動画工房のアニメは面白そうな原作を見つけてきて良質なアニメにしてくれているということで、今の京アニ作品より受け入れられやすい形のアニメが相対的に多くなっているような状況なのかな、と見ています。
 でもこれって、Key原作アニメや角川原作アニメをやっていた頃の京アニみたいなポジションなんですよね。京アニも元々は原作のある作品を良質なアニメとして世に送り出してきたことで頭角を表してきた制作会社ですし、それがあまり原作ものをやらなくなってきたことで今の状況があるのだとも思います。原作もののアニメ化で頭角を表してきたといえば「シュタインズ・ゲート」やら「はたらく魔王さま!」「ご注文はうさぎですか?」などのヒット作で知られるWHITE FOXなんかもそうですが、どちらかといえばコメディ系に強い動画工房のほうがかつての京アニに近いように感じています。
 つまり動画工房の軌跡は、京アニの足跡を辿っているような印象を持ってしまいます。あるいは、京アニがやらなくなったような原作モノの良質なアニメ化をやっているというかそういう作品が回ってきているようなイメージです。実際にはそうではないようにも感じますが、結果的にそういう立ち位置になっているように思います。
 そういえば動画工房が版権事業に乗り出したというニュースもありました。今のところは原作もある「未確認で進行形」のグッズが主のようですが、他の原作ものに関しては無いのかな、とも考えてしまいます。
 しかしながらこの動画工房が版権事業に乗り出したのは、これからオリジナルをやっていくことの意思表示に他なかったですね。藤真拓哉さんを招聘して魔法少女ものっぽいオリジナルアニメの企画を発表しました(動画工房HPより)。 恐らくこれからは、オリジナルもやっていくのか京アニと同じようにオリジナル路線にシフトしていくのかはわからないのですが、オリジナルアニメを作ってそれの版権を取ってグッズなどの副収入も含めて企画を動かしていくのだろうと思います。ただこれも京アニの後追いなんですよね。京アニ京アニショップを経営しグッズ製造とかラノベなどの書籍刊行も既に進めていますが、ここに動画工房が追いついていくのかどうかというところでしょうか。また、京アニショップでグッズ化されている作品は原作が角川書店のも含めほとんどの作品ですし非常にラインナップが豊富です。動画工房のほうはグッズ展開はこれからというところでしょうが、今のところは立ち遅れているようにも感じてしまいますし、オリジナル路線が成功しないと版権を自由に出来る作品が増えてこないのでグッズ方面での収入は増えてこないでしょう。
 京アニのオリジナル路線ですが、ヒットすれば丸儲け状態ですが、当たらなければ出資額もかさむでしょうから丸々損を被らないといけないという非常にハイリスクなやり方だと考えています。企画から立ち上げての労力やそこでヒットの匂いを嗅ぎ分けるアイデアも必要になってきますし、そういうところからして真似しようとしてもなかなか出来るものではないと思ってます。そこへ来ての動画工房の動きです。観た感じでは京アニがやっていることを後追いしようとしていると思いますが、製作元をポニーキャニオン角川書店の2つに絞っている京アニに対し、動画工房東宝(未確認・マジェプリなど)にメディアファクトリー(野崎くん)、ポニーキャニオンゆるゆり・魔界王子)、日テレ・バップ(GJ部曇天に笑う)、アニプレックス恋愛ラボ)、アース・スター(まんがーる)などこの2年だけでも製作元が多岐に渡っています。メインの取引先は東宝になるんだろうと思いますが、あまり企画元としては頼りにならなさそうなところ(良いアイデアを出せるかどうかという意味で)でやや不安にはなります。動画工房そのものが急に事業を拡大しているというのも気になるところで、全てが上手くいくのかどうかとなると微妙な感じもします。というのも、京アニはヒットしたアニメの儲けを資金源にコツコツと準備してきていたんですよね。動画工房にはそこまでの大ヒット作はありませんし、オリジナルのノウハウも少ないのですぐに軌道に乗せるのは難しそうにも思えます。また、京アニには山田尚子監督みたいな才能を持った若い演出家がいますが、動画工房にそうしたカリスマ性を持った人材がいるのかどうかというところも、今後オリジナル路線をやるにしても気になるところではあります。
 長々と書きましたが、結論としては現状の動画工房はまだまだ京アニにはなれないというかその域には遠く及んでいない、と思います。もちろん将来的には京アニに取って代わる存在になっているかもしれませんが、現時点では色んなモノが不足していると思います。とは言え魅力があるのも事実ですし、藤真拓哉さんの作品になるのかどうかわかりませんが、動画工房の次のオリジナルアニメを期待して待ちたいと思います。