『あの花』から『君の名は。』へ、田中将賀さんキャラデザの変遷に観る「キャラデザの一般性」

 『君の名は。』の快進撃が止まりません。さすがに超えることはないだろうと思っていた『シン・ゴジラ』をも上回る勢いでお客さんが入っているようです。僕が観た郊外の映画館でも土日はほぼ全回満席というとんでもないことになっています。
 そんな『君の名は。』で注目していたのが、田中将賀さんがキャラデザを手がける、という部分でした。新海誠監督と田中将賀キャラデザだと、Z会のCMで一度タッグを組んだことはあったわけですが、本格的に、しかも東宝が全面的にバックアップして売り出す映画のキャラデザとして起用された、というのは、ある意味ではものすごい抜擢起用だったようにも思えるからです。というのも、これまでの新海誠監督の映画であれば、興行収入は行って1億ちょっとという小規模でしたし、BD/DVDの売上も累計で2万本ちょっとという感じでした。深夜アニメの円盤売上をご存知ならおわかりでしょうが、突出して売れたとも言い難い数字でした。なので、企画発足当初には、ここまでの大作になる展望があったかどうかわかりませんし、これだけの興行収入になるのも夢くらいにしか思ってなかったのではないかと考えています。というのも、田中将賀さんの知名度が、あくまでもアニオタ層、とりわけ深夜アニメ視聴者を中心としたものでしか無かったからです。キャラデザの知名度を他と比較対象として考えてみるとわかりますが、例えば『おおかみこどもの雨と雪』では『サマーウォーズ』や『エヴァンゲリオン』で知られる貞本義行さん、と考えると、田中将賀さんは強くないと思います。
 ではなぜ、それでもこれだけの好評を得られたのか? これは『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』(あの花)や『心が叫びたがっているんだ』(ここさけ)と、主に深夜アニメファンから好評を博し、そこからの流れで『君の名は。』へと繋がっているのだろうと考えられます。そして、『あの花』や『ここさけ』で良かった部分を取り入れ、逆に一般ウケしなさそうな部分は採用しない、ような取捨選択の上に作られたのが『君の名は。』のキャラデザだったように思います。
 そんな、田中将賀キャラデザ(原案なし)のアニメ3本を観ていきましょう。

  • カラフルな髪色とポップな髪型と、あなるのおっぱいが特徴的な『あの花』

 『あの花』でまずパッと思いつくのが、姿形からして特徴的かつ対照的な3人のヒロインキャラでしょう。つるこはまあ普通ですが、めんまは銀髪ロリっ子でかつ、あの浮世離れしたかのような白いドレス。あなるはおっぱいを強調させた服装になっていますし、髪の色も明るく、髪型もポップでいかにもアニメキャラ的です。個人的には、あまりアニメキャラっぽいデザインにしすぎると、いわゆる「聖地もの」と呼ばれるアニメとの相性は非常に悪くなると思っていますが、秩父を舞台にした『あの花』に関しては、ちょうどいいデザインになっていたと思います。それは、枠がノイタミナであっても、媒体があくまでも「深夜アニメ」だからです。
 深夜アニメ視聴者、中でも「萌えヲタ」と呼ばれる層は、まず地味なキャラデザのアニメは敬遠しています。最初から選択肢に入らないこともしばしばあるのではないでしょうか。なので、視覚的に訴えかける萌え要素みたいなものが無ければ、深夜アニメとしてはスタートラインにすら立てないわけです。
 その意味において、『あの花』は非常に優秀だったと思います。特にあなるに関しては、どこかのゲームに出ていたかな? と思うくらいには二次元的なキャラデザでしたが、キャラ設定とか言動や性格が良く、非常に高い人気を獲得しました。めんまに関しても良かったですね。薄幸のロリキャラというのは人気が出やすいと思うのですが、それに加えて、あのキャラデザですからね。浮世離れした見た目が設定とも相まって効果的だったと思うわけです。つるこに関しては、外見的に特筆すべき点はありませんでしたが、特徴的な2人と相対することで見た目も際立ちましたし、バランスが取れていたように思います。
 女性に向けてはわかりませんが、少なくとも男性ヲタに関しては訴求力の高いキャラデザだったように思います。

  • 黒主体の髪色とありそうな髪型、そしておっぱい非強調型の『ここさけ』

 『ここさけ』のキービジュアルを観た時にまず思ったのが「黒いなあ……」と「おっぱいがわからない!!!」でした。
 「黒い」のほうは言わずもがな髪の色のことです。メインの4人ともに黒(1人だけ灰色がいますが、坊主なので……)で、『あの花』と比較するとかなり地味というか、黒い印象が強いと思います。男子の制服も学ランということで、そこから女子の制服は白ってことになったのかもしれません。そこはともかく、『あの花』とはずいぶんと印象が異なります。
 意図としては、『あの花』では、例えばあなるはチャラチャラした友達と一緒にいたいから髪を染めているだとか、おっぱいを強調する服を着せている、というキャラ設定的ものが汲み取れると思いますし、めんまめんまで半幽霊みたいなキャラで、つるこは真面目設定(だから黒髪)という設定由来だったことがわかります。
 それに対して『ここさけ』は、あまり髪を染めていそうな設定のキャラがいないんですよね。唯一、菜月はチアリーダー部ですし、黒髪にこだわる必要は無かったかとは思いますが。クラスメイトを含めても茶髪のキャラが数名いるだけでほとんどが染めていないので、そういう校風というよりは、敢えて髪の色を黒ベースに統一しているのだろうと考えています。
 黒髪のアイドルが多い乃木坂46が主題歌を歌う関係でそうなっただけなのかもしれませんが、個人的には髪の色を染めてないキャラを前面に押し出すことで、一般人向けを意識したプロモーションをやりたかったのではないか? と観ています。髪の色を染めていないというか、いわゆるアニメキャラ的じゃないアニメっていうのを前面に押し出すような感じのプロモを、という感じです。
 ここからは推測なのですが、カラフルな髪の色はいわゆるアニメアニメしすぎていて、普段あまりアニメを観ない層には敷居となってしまうのではないかというところです。実写には、ピンク髪や銀髪どころか、日本人では金髪もほぼあり得ません。だからこそ、黒髪キャラをメインに据えた、のかなと思ったわけです。ただ『ここさけ』は、あまりにも黒髪ばかりにしすぎていて、逆に違和感を感じる部分もあったような気がします。それほど偏差値も高そうな高校でも無かったですし、リアリティは感じられませんでした。
 ただ、髪型については常識的な範囲での髪型にこだわったのだろうと思っています。アホ毛も過剰にはなっていません。この辺は、リアル寄りの意識が強く働いたものにしたかった意図が強く現れていると思います。
 あと、特筆すべきなのはおっぱい表現でしょうか。ヒロインの順はぺたんこなので構わないのですが、チアリーダー部のマドンナ設定の菜月のおっぱいの大小が目立たなかったことも気になりました。個人的に田中将賀キャラデザで注目なのはおっぱいで、キャラ原案ありでしたけど『あの夏で待ってる』なんかは、巨乳ヒロイン2人に貧乳キャラのおっぱいまでこだわりを持って描いていたので、『ここさけ』でも期待していたのが肩透かし食らった記憶が強く残っています。
 ですが、キービジュアルの菜月をよく観てみましょう。かなり胸部が張っているのがわかると思います。そうです。敢えておっぱいの形が見えにくくなるようなキャラデザにしていた、というのがどうも真相のようです(勝手に言ってます)。
 一般人向けでヒットしたアニメ映画を考えるとよくわかりますが、ワンピースのような長期シリーズものを除けば、いわゆる「乳袋」みたいなものを持ったヒロインキャラがメインのアニメ映画って、たぶん思いつかないと思います。これは実写の邦画でもそうでしょうけど、おっぱいが目立つようなヒロインキャラってそんなに思いつかないと思うんですよね。なので『ここさけ』で、敢えておっぱいを目立たないようにしたのは間違いないと思っています。

 そして『君の名は。』です。『あの花』『ここさけ』とは監督が異なる(あの花とここさけは長井龍雪監督)し、製作もアニプレックス東宝、アニメ制作もA-1とコスミック・エースと、まるっきり変わっているので、田中将賀キャラデザだけで語れるような話ではないのかもしれませんが。
 田中将賀さんをキャラデザに起用した意図が『ここさけ』がヒットしたから、というには近すぎますので、Z会のCM『クロスロード』からの流れで決まったものなんだろうと思います。もちろん『あの花』のことは念頭にあり、『あの夏で待ってる』や『じょしらく』など、田中将賀キャラデザが聖地や実在する舞台との相性が良いことも決め手だったのではないかと思っています。300スクリーンという巨大な規模での公開を決めたのは、それこそ『ここさけ』のヒットも関わっているのだろうと観ています。
 先程から触れていた髪の色や髪型については、『ここさけ』から更に一般性を出すような試みが加えられていると思います。『ここさけ』では、メイン4人がみな黒髪でしたが、『君の名は。』では黒髪も茶髪もいますが、微妙に髪色を変えていたり、黒〜茶の間で細かく色指定されているような印象がありました。茶髪だからって染めているわけでもなさそうです。そして、これは『ここさけ』と同じですが、赤とか金髪みたいな、極端な髪色のキャラは登場しません。やはり、作品の性質的なものもあるのでしょうし、聖地というか実在する舞台にキャラクターを立たせる作品ということとも繋がりがあるのだろうと思います。
 髪型については、より一般性を持たせたというか、田中将賀さんがこれまでのアニメで描いてきた特徴的な毛先表現を極力抑えたような髪型になっていたように思います。まだ『ここさけ』は田中将賀さんっぽいというか、いかにもアニメ的な髪型のキャラもいたと思うんですよ。それが『君の名は。』では、脇キャラやモブに至るまで、いわゆる萌えアニメ的なキャラに観られる髪型のキャラはいないと思うんですよね。田中将賀さんの生み出すキャラの造形を、第三者が一般向けフィルターに入れて創りだしたようなデザインになっているのではないかと観ています。A-1PicturesやJ.C.STAFF長井龍雪監督など、田中将賀さんとよく組んでいるスタジオや監督だと、どうしても氏の作風を確実に残しつつのデザインになると思うわけです。が、『君の名は。』に関してはそういう遠慮があまり感じられず、より一般向けに田中将賀デザインをアレンジしたのではないかと思うわけですが、それが一番よく出ているのが髪型のように感じています。
 「ジブリっぽさ」については、個人的にはよくわかっていません。ただ、作画監督ジブリ作品でもお馴染みの安藤雅司さんが入っていることから、そうしたフィルターを通した絵柄にもなっているのではないかと考えています。具体的には何とも言えないのですが、このデザインのキャラの動かし方とかになるような気がします。たぶん、これまでの田中将賀キャラデザのアニメとは全く違う動きをしているのではないでしょうか。この辺は詳しい方にお任せしますが。

 田中将賀さんキャラデザで注目してしまうのがおっぱいですが、『ここさけ』では目立たないようにしつつもやはり主張させていたような感じでしたが、『君の名は。』では完全に封印した形となりました。
 とは言え、ご覧になった方はご存知だと思いますが、代わりに(?)三葉のセルフパイもみという手でおっぱい表現を出してきました。しかも、中身は入れ替わった瀧なので、まさに田中将賀キャラデザの男が女の子のおっぱいをもむ(感触を確かめる)ということをやってのけたと言えます。
 これはただの妄想ですが、新海誠監督としては田中将賀さんにキャラデザをやってもらうなら、ぜひおっぱい表現も入れてみたい。でも、あまりおっぱいを主張させてしまうと一般向けのアニメにはならないし、嫌がる人も出てくる。そうなると、おっぱいをキャラデザ段階で主張させるわけではなく、作中のどこか何らかの形で入れるしか無い。でもどうせなら男キャラに女の子のおっぱいをもませてみたい! でもそんな展開を普通に入れられるわけもない。ならどうしたら……で思いついたのが、この入れ替わりネタだったりして。……という妄想です。
 結果的には、深夜アニメでもそれほど観られるわけでもない、ましてや『あの花』や『ここさけ』ではなかったパイもみを渾身の作画で実現できたのですから、田中将賀さんをキャラデザにと熱望した新海誠監督は本懐を遂げたと言えるのかもしれません(何だこれ。

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 最後がひどい内容になってしまいましたが、だいたい言いたいことは書けたように思います。
 古くからの新海誠監督作品好きには『君の名は。』は物足りなかったかもしれませんが、それは田中将賀キャラデザ作品好きにも言えることなのかな、とも考えています。ただ、その最大公約数的なものが出たのが、この『君の名は。』のキャラデザだったのかなとも思いますがどうでしょうか。