ヤマノススメ・まんがーる!などショートアニメを送り出すアース・スターの描くアニメ製作の狙いとは?

 今期スタートのアニメで今のところ一番好きだなあと思っているのが「ヤマノススメ」だったりします。百合的な意味でもそうですが、絵柄は可愛いし結構しっかり描かれてますし、目的のあるAチャンネルって感じで楽しみにみております。
 さてそんなヤマノススメですがご存知のようにショートアニメとして数分しか放送がありません。そしてそういうアニメがここのところ増える傾向があります。その中でも昨期の「てーきゅう」に始まり今期は「ヤマノススメ」と「まんがーる」を製作しているのが、原作の出版社でもあるアース・スターエンターテイメントです。竹書房などのショートアニメに比べると、少しでもアニメのスタッフを知っているような有名なクリエイターに作ってもらっていたり、予算をかけているのか30分アニメとクオリティが変わらないような作品も存在しています(それでも安いのでしょうけど)。
 そんなアース・スターが何を狙ってショートアニメ製作に乗り出したのか、その先に見えるものなどを考えてみたいと思います。

ヤマノススメ [Blu-ray]

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  • 原作コミックスと雑誌の宣伝のため

 ごくごく普通の理由ですよね。竹書房のアニメもそうですが、出版社が直接アニメの製作に乗り出すってことは原作や原作が掲載されている雑誌の宣伝のため、というのが当たり前の狙いだと思います。ただ竹書房はたくさん雑誌を発行していてその中からピックアップしてアニメ化している感じなのとは違い、アース・スターのアニメは全て「コミックアース・スター」という同じ雑誌に連載している作品です。まあまだ他に雑誌を出しているわけではない、ということでもあるのですが。
 ただ、おかげで原作コミックスの宣伝のみならず雑誌そのものの宣伝の意味合いも大きくなっているような気もしています。原作の掲載雑誌を宣伝しているといえば他所の出版社でも観られるわけですが、アース・スターの場合は2クール連続で、しかもその間に3本もの作品をアニメ化しています。それらが同時に読める雑誌、という宣伝もしていますので、その宣伝効果は単発で飛び飛びにアニメ化されるケースよりもより大きく集中してやれているように感じます。
 雑誌が売れればもちろん出版社としては大成功ですし、そのための宣伝費でアニメを作っているということにもなります。もちろんアニメ化された作品はそれぞれ違うジャンルのように思いますので雑誌の売上には繋がらないかもしれませんが、単行本が売れればそれもそれで成功と言えるのだと思います。
 企画されて放送されるまでの時間もありますし、実際に放送してみてどのくらい売上増に繋がったり継続しての購読者が増えるのかどうかはわからないうちでの3本のアニメ化でもあるので本当にペイ出来ているのかどうか怪しい面はあると思います。が、今のところはそうした効果を期待しつつのアニメの放送なのだろうという感じではないでしょうか。OVAなどではなく波代(テレビ放送してもらうために製作側がテレビ局に払うお金)を出してまでテレビ放送にこだわっているのは宣伝効果のためなのは間違いないと思っています。

ヤマノススメ(1) (アース・スターコミックス)

ヤマノススメ(1) (アース・スターコミックス)

  • 自らの思惑とペースでのアニメ化サイクルを実現するため?

 ヤマノススメの主題歌がアース・スターレコードという自前の音楽制作会社から発売されることが決まったようで、ほとんどのことをアース・スターエンターテイメントが単独で手がけているようなのです。竹書房アニメの場合、例えばちとせげっちゅ!!では主題歌を日本クラウンのレーベルから出しているようなのでそういうことではないようなのですよね。OVAなどでも普通は何処かの音楽レーベルが主題歌を提供したりとか主題歌の発売自体が無かったりとかなのですが、アース・スターはどうも主題歌CDまで自分のところからの発売にしてしまったようなのです。
 もちろんBDの発売元はアース・スターエンターテイメントですし、音楽もそうなので、かなりの本気度が伺えると思います。それらから鑑みるに、単純に雑誌や原作コミックスの宣伝に留まらず、アニメの製作を収益構造に入れたいのではないかという風にも考えてしまいます。
 テレビアニメの製作はほとんどがアニプレックスポニーキャニオンなどの製作会社が行います。企画したり原作元へ打診してみたり、あるいはどういうスタッフで作るのかを決めたりどこの音楽制作会社と組むかなど、様々なことを取り決めるのが製作の仕事なのでしょう。原作の出版社でアニメを作る場合は多くがOVA止まりなのですが、テレビアニメともなると自ら動くわけではなく製作会社から声がかかるのをひたすら待つ(ツテがあれば製作会社のプロデューサーに出版社の編集者などが声をかけたりはするんでしょうけど決めるのは製作会社だと思うので)しかありません。
 アース・スターのやっていることは、出版社が自らアニメ化したい、あるいは原作を売り込みたい作品を自分たちの思惑でアニメ化する、ということになります。原作が本当に面白い作品だとしても、例えばアニメ映えしない、あるいはアニメ向きでない作品であればアニメ化しても失敗するでしょう。そういう作品ではなくアニメに向いた作品からアニメ化していくことが可能となります。もちろん、自分たちがアニメをやりたい時期に放送することも自らの頑張り次第ということにもなると思います。
 また、スタッフや制作会社の問題もあります。製作会社に任せた場合、思惑通りの作品をアニメ化してくれることもあるのでしょうが、制作費やその他の事情などで思惑通りのスタッフでアニメ化してくれるのかどうかはわかりませんし決定権もありません。ただ自らが製作をするのであれば、費用やパイプなどの問題もあるのでしょうが自分たちの思惑でスタッフも決められると思います。てーきゅうであればアニメのアクション部分での作画や演出で定評のある板垣伸さんが半数の話数を演出や原画まで1人でやってしまったという、実験的でしたが有名クリエーターによる仕事ぶりも観られた作品となりました。ヤマノススメアクエリオンEVOLを作った山本裕介監督×制作会社エイトビットという布陣、まんがーるはゆるゆりなどを作った動画工房のメインスタッフが集結している……など、各作品とも非常にスタッフや制作会社などにこだわっているというか本気度が伺えます。このあたりにも、お金の問題よりも自分たちの思惑通りのアニメを作りたいという原作側からのこだわりの姿勢が感じられると思います。
 そして、もしアニメのBDなどが売れるとなると、製作会社や音楽制作会社が間にいないので丸儲けということにもなると思います。多くのアニメの場合、アニメがヒットしてもさほど原作側には利益として落ちてこないと言われています。もちろんアニメの製作委員会にある程度出資をしていれば違ってくるのでしょうが、製作会社のマージンみたいなものは相当な割合という話なので、製作から自分でやってしまえるのであればそうした部分で差し引かれるものも自分たちのものになる、ということもありそうです。そして大きなお金が入れば、雑誌にも作家を集めやすくなるでしょうし、またアニメ化も出来るでしょうし、その先には30分のテレビアニメシリーズがある……のかもしれません。そうやって原作もアニメも自給自足のようなサイクルをアース・スターは目指しているようにも感じます。
 ところで、どうしてアース・スターは有名クリエイターにアニメ制作を依頼できたのでしょうかね? もちろん制作会社やスタッフさんに関しては、スケジュールの都合と、あとは然るべきお金を支払っていれば作ってくれるわけですし、それだけのお金をアース・スター側が支払っているということなのでしょう(製作委員会に制作会社が出資していなければ、基本的に制作会社はアニメを作っていればお金が入ってくる仕組み)。それはともかくとして、原作出版社と制作側の間に製作が入るのはそうした橋渡し役的なところとかもあったはずなんですが直なんですよね。アニメ製作に関するノウハウなどちょっと若い出版社&雑誌の編集者でやれるとは思えないので……。太いパイプや人脈を持った人間がいるのだろうとは思いますが。

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 良いことばかりを敢えて書きましたが、当然成功するかどうかはわからないです。何せ5分アニメとはいえかなりのクオリティで作られてますし、名のあるスタッフや制作会社を起用していることもあって安い仕掛けとは思えません。テレビアニメとして放送していることも含めてかなりのお金がかかっているはずです。アース・スターエンターテイメントはTSUTAYAで知られるカルチュア・コンビニエンス・クラブのグループ会社ですのでそちらからお金が出ているのかもしれません。またある程度雑誌の名前を売って認知されてしまうまでの先行投資的な意味合いも強いのかもしれません。が、もしテレビアニメを売って利益を得るサイクルを確立しようとしているのであっても、売れるアニメはほんの一握りなわけですし、ショートアニメはヒットしにくいのが現状でもあります。そんな中でのアニメ製作なのではっきり言ってハイリスクな賭けみたいなものでしょう。また、立て続けに3本もアニメ化してしまったことで、自分たちが持っている原作が既に枯渇しかかっているようにも思います。さすがに全部が全部アニメに向いているわけでもないでしょうし、ずっとアニメを作り続ける体制にはなっていませんよね。恐らくはこの3本(あるいは次のクールでもやる?)で様子を見て本格的にアニメをやるのかどうかを見極めるのでしょうが、この先はどう見据えているのかがわかりません。
 ところで、このアース・スターの出版社主導のアニメ化の路線って以前に書いた『京アニはどうして自社レーベル原作「中二病でも恋がしたい!」をアニメ化したのか?』で、出版社を除外したアニメ製作のやり方と真逆なんですよね。どちらが成功するのか、どちらも成功するのか失敗するのかわかりませんが、両方とも非常に興味深い感じになっていると思います。
 まんがーるに関しては、原作コミックスも原作が掲載されている雑誌も、更には原作出版社にとっても知名度を上げた結果となった「ゆるゆり」をヒットさせた動画工房が制作しているあたりが面白いですね。マンガ雑誌を作るというアニメという媒体を使ってやるような作品では無さそうなものをアニメ化しているのがゆるゆりスタッフだというのも明確な狙いがあったようにも見えますよね。
 個人的にヤマノススメは凄く面白いし癒される数分間になっていますので、BD買って2期を待ちたいと思ってますし、アース・スターのこの路線を応援したいとも思ってます。