結局どの層に見せたかったのかが不明だった「おとめ妖怪ざくろ」の戦略

 おとめ妖怪ざくろのアニメが終わりました。2010年秋アニメとしては、ビジュアル的に惹かれて期待していたんですが、最後までだれることもなく毎回楽しんで見れましたし、原作の漫画も素晴らしかったので、本当に出会えてよかったと心から思える良作だったと思います。まあ、終盤に駆け足気味の展開になってしまったのと、オリジナル設定に書き換えてしまったことで若干安っぽくなってしまいましたが、13話でまとめるには仕方なかったかなあ、とも思いました。
 ただ、面白かったのは面白かったのですが、個人的には凄く引っかかる部分が多かった作品でもありました。それは、アニメや原作の出来という意味ではなく、戦略的な問題です。
 個人的にはめちゃくちゃハマりましたし、原作絵とのギャップも少ない(同じJ.C.staffの禁書と比較しても断然ざくろは原作に近い絵で頑張ってた)し、良かったと思ってます。ただ、結局どの層に訴えかけていたのかが最後までわからなかったなあ、というのは正直な印象でした。
 一つはDVD/BDの戦略です。ご存知だと思いますが、BDは現時点では発売されていないんですよね。DVDのみの発売です。原作者の描きおろしジャケットに描きおろしコミックという、特典としては最高レベルのものがついているので、売れないわけがないとは思うのですが、せっかく非常にクオリティの高い作画だったので、個人的にはBDで出て欲しいんですよね。BDが出れば余裕で買うだけに……。DVDだけで3000枚以上は売り上げたみたいなので、失敗というほどでもなく、まあまあの成功を収めているわけですが、BD出せばもう少し行けたかなあと思うだけに惜しい戦略だったんじゃないかと思っています。
 二つ目には、表題の通り「結局どの層に見せたかったのか?」がわからなかったところです。コミックバーズというマイナーな少女漫画雑誌連載で、かつ原作者の星野リリィさんはBL作家として有名な方ということで、原作ファンの多くは女性ではないかというのはわかります。ただし、その原作ファンの数というのはどのくらいいるんでしょうか? 個人的には、アニメ化が決まるまでは知りませんでしたし、知り合いに聞いてみても知らなかったという人がほとんど。アニメの前評判も、みつどもえとコラボしたり一応週刊少年雑誌に連載されているイカ娘よりも低かったように記憶しています。アニメを数多くプロデュースしているアニプレックスの企画だけにそれなりには露出はされていますし、アニメ制作も禁書などで有名なJ.C.STAFFですし、力の入った企画であることは間違いないんですが、幅広く深夜アニメを見る層に向けての働きかけという意味では弱かったと言わざるを得ません。原作の出版社的に、大々的に出来ない事情はあったのかもしれませんが、多くのアニメをプロデュースするアニプレックスも、音楽を手がけるランティスも、ざくろに関しては同じ時期に放送していたアニメの中でも2〜4番手という扱いだったことを見ても、もう少し宣伝して欲しかったな、と思うわけです。
 三つ目に、腐女子……中でもBL好きな層向けに作られているのであればそれでいいじゃないか、と思うわけですが、腐女子や作者さんの元居た場所からのファン向け……とは言い切れない部分があります。それは……主題歌です。
 ざくろアニメの主題歌はご存知のとおり、声優アイドルユニットである「Sphere(スフィア)」なんですよね。作品本位で選ぶのならあり得ませんし、作者さんのホームから考えても全然外れています。スフィアのファン層から考えると、むしろこちら側、男性のアニメ・声優ファンを惹きつけるためなのかと考えるのが普通ですよね。スフィアのファン層を広げるためとも言えなくもないんですが、スフィアの売り方は女性アイドルユニットの売り方に非常に近い感じで、さほど女性アニメユーザーに訴えかけるものは多く無いように見えます。メンバーの豊崎愛生寿美菜子は「けいおん!」の主要キャラの声優ですし、男女共に人気が高かったため知名度そのものはあるのかもしれませんが、けいおんキャラとスフィアが繋がってくるかどうかはまた別問題だと思います。
 もちろん、スフィア繋がりでアニメざくろを見始めた人もいるでしょうから、その意味では成功していると思います。が、アニメ本編はDVDの発売のみでBDの発売がないのはどうして? という一つ目の疑問に戻ってくるわけです。
 「おとめ妖怪ざくろ」という作品が、それこそ男性キャラばかり出てくる、見た目からして明らかに女性しか見ないだろう、というものであれば、DVDだけで全く問題ないわけですが、ご覧になられた方ならお分かりかと思いますが、男性キャラたちももちろん魅力的ですが、恋したり戦ったり涙したりする女性キャラたちが、とにかく可愛くて格好良くて可憐で……という作品なわけです。たまたま女性向けの雑誌に掲載されていただけで、男女ともに楽しめる作品だったと思います。
 なので、宣伝やDVD/BDの戦略など、方向性が定まらなかったんだろうなあと思いました。2010年秋アニメは、こういう1クールで始まりから終わりまでしっかりとストーリーが流れる作品がほとんど無かったと思いますし、わかりやすさの意味でも非常に貴重な存在だったと思うので、色々と上手くやっていたらもう少し大きなうねりになったのかな、と少し残念に思いました。
 ちなみに、原作はほぼ使いきってますので二期は期待できませんが、まだ終わったわけではありませんので、続きは原作を待つことにしたいと思います。原作はアニメより繊細な絵とキャラ描写が楽しめるのでおすすめです。また、ドラマCDが近いうちに発売されるので、そちらは買ってみようかと思います。いいキャスティングだとも思っているので、楽しみですね。

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