アニメの原作改変を肯定的に考えてみる

 まもなくライブイベントが行われ、劇場版の公開も予定されている「けいおん!」ですが、個人的には「けいおん!」とアニメ二期の「けいおん!!」は全くの別作品だと考えています。一期の頃はその可愛さと音楽の本気度で、緩さとインパクトとそれらとのギャップで観ていた気がしましたが、「けいおん!!」は原作の枯渇と2クールを埋めるために必要だったとは言え、一期や原作からの大幅な改変があり、もはやオリジナルアニメに近い形が取られていました。ただ、原作の枯渇や話数を稼ぐという次元ではない改変ぶりは、もはやこの「けいおん!!」というアニメ作品が原作や一期アニメから独立し、単独のアニメ作品としての完成度を追求していたからこそ出来た芸当とも言えますし、一期が成功したからこその大胆な作りだったと思います。
 同じように原作からの大幅な改変で成功したアニメとしては「侵略!イカ娘」があるかと思いますが、原作エピソードそのままではアニメにしにくい尺や構造だったとはいえ、数話のエピソードを混ぜて1話を作っていたり、大幅にオリジナルエピソードを追加して尺を稼いでいたり、原作にない完全なオリジナル話を入れたりしていました。
 この2作品について言えるのは、「原作超え」ではないかと思います。どちらも原作も読んでて面白いとは思いましたが、明らかにアニメのほうが面白くなっています。声や歌、動きがついた効果があったにしてもアニメでの映え方が凄いですよね。
 では何故アニメが原作を超えてしまったんでしょうか? 作画がキレイだったこととかそんな次元ではないでしょう。面白さの本質を膨らませつつも、アニメ作品として映えるような原作改変をしていたから、ではないでしょうか。
 しかもこの2作品で共通するのは、原作の面白さを膨らませた……とは言えない部分があります。例えばけいおんだと、音楽の格好良さなんて原作を読んでいてもあまり伝わらないし、軽音楽部の女の子たちがわいわいやってるだけ、とも言えます。しかし「けいおん!!」では、そんな女の子たちがワイワイやってるだけ……ではありませんでしたよね。前半の話と後半の話がシンメトリーになっていたりとか、序盤や一期の細かいエピソードを伏線のように使って回収してみせたり、最後のライブのシーンで泣ける方向に描いて見せたり……。作品としての構造的な部分もそうですが、原作には全く無かった要素をアニメにぶち込んでいるんですよね。イカ娘も、原作では「飼い方」の説明だけでしか無かったミニイカ娘エピソードをセリフなしの泣ける話に作り替えてしまいましたし、同じく原作ではバドミントンの話を野球に替えて、しかもガチの野球アニメのスタッフを参加させてどの野球アニメよりもリアルな野球シーンになってましたしね。そしてどちらもそのアニメオリジナル要素がことごとくアニメ視聴者には好評でもありました。
 つまりは、原作の純粋な解釈だけではなく、アニメにするに当たってより映えるやり方を取っている、ということにもなると思います。けいおんイカ娘は、それぞれ原作通りのアニメ化が不可能だからこそ出来たとも言えますし、アニメにすることで人気になった作品なのでアニメ制作側が好きに出来たとも言えますが、こういうやり方は他の原作付きアニメではあまり取られていないような気がしています。

  • 原作改変は悪なのか

 というのも、1つは「原作改変が悪」という共通認識が強すぎることがあります。過去にファンが多いのにアニメが悲惨な出来だった作品が結構あって、それらのトラウマが強すぎる気がしないでもありません。かつては原作経験済みだからアニメも観る、というスタンスでアニメを観ていたのでわからないでもありませんが、原作の熱烈なファンだからこそ原作の面白さを100%生かして欲しい、そう考えてしまうんですよね。でも、TVアニメには1話が30分弱、OP/EDやAパート・Bパートなどの制限もありますし、よほど強い力が働かない限りは1クール12,3話で終わらされてしまいます。なので、例え原作がゲームだろうが漫画だろうが小説だろうが、原作を100%アニメに反映させることなんて不可能です。そもそも、基本は1人で作られる漫画や小説と、多数の人間によって作られるアニメでは性質そのものが違いますよね。なので、アニメ化される際には既に改変はされるものだという認識は持っておいたほうが良いでしょう。それが、アニメから入る人たちの目にはどう映るのか、までは考えながら原作改変に対しては発言すべきなのかもしれません。

  • 相対的に減っている原作ファン

 もう1つは、そもそも原作ファンに向けてアニメを作る事自体への疑問があります。週刊少年ジャンプ連載作品だったりだとか、単行本が数十万冊以上売れるような作品のアニメ化であれば、原作ファンそのものが多いわけですから、彼らに満足してもらわなければアニメ化成功とは言えないと思います。しかしながら、現在アニメ化されている作品の原作の多くは、単行本やゲームが10万売れていないようなものがほとんどです。ラノベはどのくらい売れているのかわからないので除くとしても、10万人未満の原作ファンに向けてアニメを作ったとして、彼らが100%満足したとしても10万人未満しか喜ばないわけです。もちろん、原作通りにやっても原作を知らないアニメ視聴者が観て面白いと思う可能性はありますが、それはアニメ作品としては特化してないですよね。もの凄く原作からしてアニメのサイズにぴったり来るものもあるのでしょうが……。
 また、原作がそもそもさほど売れていない作品って「隠れた名作」的なものもあり、原作の販促の意味も込めてアニメ化されるものもあるとは思いますが、原作そのものの完成度が高くない作品や、人を選ぶ内容の作品のアニメ化というケースが増えてきているように思います。その場合、原作通りにアニメ化すること自体がそもそも間違いになってきますよね。
 原作通りにやるなら原作読めばよくね? となってしまうのもアニメ制作側としては問題でしょうし、アニメを一度見たら原作はいいや、ということにも繋がりかねず、両者ともにいい話ではありません。

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 ラノベ原作アニメが昨期〜今期にかけて比較的受け入れられているのは、ラノベはそもそも原作に色んな要素を詰め込んでいるためで、アニメ化する際にアニメとして映えそうな部分を原作からチョイスするorウケそうもない要素は切り捨てるやり方が上手くハマっているからだと思います。改変されている作品も多いみたいでそれが必ずしも原作ファンに受け入れられていない部分もありますが、アニメ作品として面白く作られているものについては、割と高確率で売り上げにも繋がっているような気がします。

 原作改変というか、原作が出る前に原作の後日談を壊れた感じでやってしまったミルキィホームズのような成功例はありますが、イカ娘のようにアニメの印象が強すぎて原作の売り上げに繋がらないケースもあり、原作改変アニメが主流になることは考えにくいのですが、アニメ製作サイドからすれば、原作の売り上げに繋がろうが繋がらなかろうがアニメBD/DVDなどが売れてくれなければ全く儲からないわけですから、もう少し大胆に原作改変するアニメが増えればもっと面白くなるのかな、と思っています。もちろん、腕のいい監督さんや脚本家さんがやってくれることを前提に、ですが。

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