昨秋の、原作がマンガなアニメDVD/BDの売り上げ不振から、マンガ原作アニメのあるべき姿を考えてみた
昨秋アニメのBD/DVDの売り上げが出揃ったようです。俺妹・禁書II・スタドラ・薄桜鬼あたりが合算で1万枚を越えてきたようで、ミルキィホームズがそれに続くようです。それぞれの原作の媒体がラノベ・ラノベ・アニメオリジナル・ゲーム(女性向け)・オリジナル(ゲーム?)で、原作がマンガのアニメは、それに続く売り上げだった「侵略!イカ娘」を待たなければならないというくらいに、マンガ原作アニメの売り上げが軒並み不振だったようです。
http://yaraon.blog109.fc2.com/blog-category-16.html(やらおん!より)
イカ娘はBD2巻も初動6000枚を越えて高い位置で安定しているのですが、それ以外の原作マンガのアニメは、「もっと ToLOVEる」で7000枚弱、「そらのおとしものf」がBD+DVD合計で4000枚程度、「おとめ妖怪ざくろ」がDVDのみの発売で1巻は3000枚程度の売り上げで、その他はそれ未満ということになってしまいました。原作ファンがそれなりに多そうだった「神のみぞ知るセカイ」でも3000枚に届きませんでしたし、「バクマン」が合計2000枚、「海月姫」に至っては700枚程度という状態でした。数字の読みやすい二期ものを除けば、昨秋のアニメBD/DVDの売り上げの下位がほとんどアニメ原作モノという悲惨さになってしまってます。
その中で一番売れたのがイカ娘なんですが、アニメ化される前の単行本の売り上げは初動で8000部ほどの時もあり、アニメ効果で2万部くらいにまではなったようですが、恐らくは昨期のどのアニメ化された原作漫画よりも売れていないと思われます。なのにアニメBDが一番売れている事実は、他の漫画原作アニメに対しての強烈なメッセージではないかと思います。では、イカ娘が成功したのと、それより原作は売れているのにアニメは売れなかった作品たちとでは何が違ったというのでしょうか? また、そこから導かれる「売れる原作漫画アニメ」というのがどういうものなのかも考えてみましょう。
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昨期の原作マンガのアニメで一番力が入っていたのが「神のみぞ知るセカイ(神のみ)」なのは間違いないと思います。構成が倉田英之氏かつ秋葉原やギャルゲーが頻出するあたりで「俺妹」と被ってしまったという不幸は無くは無いのですが、それでも、片や昨期No.1売り上げという差は如何ともし難いでしょう。原作の面白さの差、と言われるとアレですが、ラノベとマンガという違う媒体で比較するのもフェアではない気がします。
神のみアニメは、とにかく声優陣が豪華ですし、ヒロインごとにエンディングを歌う声優さんが変わったり、キャラソンのようなものもあったりと手間は掛かっているのは凄く感じました。それと「オトナアニメ」の倉田氏×原作の若木民喜氏の対談記事を読んでわかったのですが、原作者の意向がかなり入った作品だったということでした。確かアニメ絵を渡辺明夫氏(エロゲ原画家としても有名だったぽよよんろっく氏)にしたのも原作者の意向ですし、バグゲーム回の脚本を担当した高橋龍也氏もギャルゲーオタクだった原作者のためでもありました。アフレコ現場には倉田氏よりも長く居たという話もありましたし、原作者が相当深くアニメに関わったという意味では、他の原作漫画のアニメ作品よりも原作により近いのだと思います。実際にアニメを観てから原作を読みましたが、原作の雰囲気をかなり再現していましたし、少なくとも原作レイプなんてことは有り得ないかと思いました。
ただし、アニメBDは思ったほど売れませんでした。原作は初動でイカ娘の3倍は売れているので、原作ファンがアニメBDを応援の意味でも普通に買ったとしても、この差にはならないでしょう。作画のクオリティは高かったですし、それなりにBD特典もありますし、インパクトあるOP曲といい、原作ファンが手を出さない理由はない気がするからです。でも結果的には、原作派が3分の1しかいないイカ娘に2倍以上の差をつけられてしまっているわけです。この差はいったい何なのでしょうか?
個人的には、漫画の読者がアニメBD/DVDの主要な購入者にはなっていないから、と考えています。つまりは、漫画をアニメ化する前から愛読しているような人たちは、アニメのBD/DVDをあまり買っていないのかな、と。もし原作ファンが一定割合でアニメ化された際にBD/DVDを買っていたとしたら、それこそ週刊少年ジャンプの作品のアニメDVDでランキングが埋まるでしょう。でもそうはなっていませんよね。もちろんジャンプあたりの作品がアニメ化された場合は深夜アニメとはならないでしょうから、普通に視聴率とにらめっこしながらでしょうがスポンサーからのお金があるので、DVDが売れなくても問題はないんでしょう。アニメ化されることにより原作に箔が付く意味の方が大きいのでしょうからね。
では、いったいどういう層がアニメBD/DVDを買っているのでしょうか? 漫画原作アニメの場合は、純粋にアニメ作品として面白いかどうかを観て感じるアニメファンの動きが全てではないのかな、と考えています。そしてここで、イカ娘の話になるわけです。
イカ娘は原作ファンの数が非常に少ない状態でアニメ化され、正直なところ「何でこれがアニメ化されるんだろう……?」という話題しか放送前は無かったのですが、アニメ化されて以後は、コアなファンのみならずライトなアニメ視聴者にも浸透し、しかしアニメからハマった層にはさほど原作に繋がらずに、BD売り上げでかなり高い数字が出たわけです。つまりは、深夜アニメ視聴者がお金を出そうと思ったからこその成功だったと思うわけです。
イカ娘アニメの特徴は、アニメ化の際の1回3話構成など、原作ネタの構成の上手さでやや薄くなりがちな原作ネタを魅力的に描写したことと、アニメオリジナル回・オリジナル要素がことごとく視聴者にはウケたことだろうと思います。イカ娘アニメの野球をする場面がありますが、原作ではあそこはバドミントンなんですよね。水島監督は野球アニメ「おおきく振りかぶって」も手がけていたことから原作の安部真弘さんに「バドミントンを野球に変えてもいいですか?」ということを聞いたそうですが、原作の安部さんは特にアニメに口を出さなかったそうです(オトナアニメVol.19より)。ここって結構重要なことだと思うんですが、イカ娘の場合、原作者がアニメ側に要望を出すことはほぼ無かったようで、ここが神のみとは大きく異なるところではないかと思うわけです。
つまりは、アニメ製作者さんたちが、アニメ作品として最適な形で出せる環境がイカ娘アニメにはあった、ということです。原作縛りが少なく、形としては極めてオリジナル作品に近い形で世に出せた、ということにもなると思います。結果、ウケたわけですから成功だったんでしょう。
ここで話を戻します。イカ娘の場合、原作がさほど売れていないし、数少ない原作ファンにウケたところでどうしようもないことはわかっていたはずなので、アニメ作品単体として楽しめるように作られたんだろうと思います。が、そもそも原作ファンの数が多かろうと少なかろうとアニメBD/DVDの数字が出るわけではないので、原作ファン向けにアニメを作るという方向からして「売れるアニメ」からは程遠くなってしまうような気がしています。
神のみアニメは全て観た後で原作を買いましたが、3人目の中川かのん編あたりから「アニメとしての尺」と「アニメの1話当たりの要素の濃さ」のどちらもが破綻してきていて、正直めちゃくちゃ退屈になってきてしまいました。4人目の汐宮栞編になると、もはや花澤香菜さんがやってる、その1点でしか視聴継続できないくらいに酷いものだったと思いますし、原作を読んでも、原作で出てくるエピソードの中でさほど面白い部類には入らないヒロインたちでした。一方で、誰も攻略しなかったり、高橋龍也氏が脚本を書いたというバグゲーム回などはかなり面白かったので、これは構成の倉田氏の問題なのかと思っていたんですが、原作者からの要望もあって「1ヒロイン2話構成」を辞めた(オトナアニメVol.19より)とあったので、原作者が口を出したことで1クールアニメとしての構成としては間延びしまくってしまったのだと思います(もちろん自分の考えを貫かなかった構成作家の問題も大きいでしょうが)。視聴率が0.1%という、深夜アニメとしても異例の低さという話もありましたが、結果としてこのセールスということは、深夜アニメ視聴者にはあまりウケなかったんでしょう。
アニメ制作側が好きにやったイカ娘がそれなりに売れ、原作者のオナニーアニメみたいになった神のみが売れなかった事実は、漫画原作アニメの「原作通り」あるいは原作付きアニメの「原作者側の意向を広く反映させる」ことでのアニメそのものの評価を下げる危険性が高いことを示していると思います。もちろん、原作者側の意向がアニメ視聴者のニーズとマッチすれば問題ないんでしょうが、アニメ製作者側のほうが「売れるアニメ」の方向性を知っているでしょうし、ギャンブル的なやり方だと考えています。
そういえば、神のみアニメの構成である倉田氏が構成を手がけた俺妹アニメ8話の、桐乃の書いた小説がアニメ化される回で、原作者である桐乃の意向を無視したアニメ作りで原作レイプされた→京介たちがそれを変えさせた、という内容でしたが、現実は非常に皮肉な結果になっていると思います(汗。
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つまりは、原作通りかどうかなんて、アニメ視聴者的にはどうでもいい、と思うわけです。原作通りにやって面白ければそれでいいですが、原作とは異なる展開のほうが面白いのであればそちらを選択すべきだと。漫画は古くからアニメの原作としてあり、原作レイプ的なことはタブー視されたりもしていますが、「けいおん!」や「らき☆すた」のような、そもそもアニメ化が原作通りでは難しい作品のアニメが成功したことの意味は、漫画原作アニメのアニメ化の方向性の意味をも投げかけているように思います。
もちろん、それには優秀なアニメ制作会社や監督さん以下スタッフがあればこそ、の話ですが。もう少し漫画原作アニメの作り方は考え直さないといけない気がします。アニメ化で原作ファンが飛びつくのは、漫画読者ではなくラノベ読者やゲームユーザーでしょうから。
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今期アニメでも、原作漫画アニメは苦戦しそうです。エロコメな「お兄ちゃんのことなっかぜんぜん好きじゃないんだからねっ!!」が若干目立つ程度で、あとは全く話を聞かない「フリージング」、一期で売れるアニメじゃないことが確定した「みつどもえ増量中」、ちっとも面白くなってこない「夢喰いメリー」、ノイタミナ枠っぽく面白いけど売れるわけではなさそうな「放浪息子」などですからね。「レベルE」を今さらアニメ化しなければならないくらいに、アニメの原作としての漫画が枯渇してきている現状にも目を向けないと、オリジナルアニメかラノベアニメしかそのうち無くなってしまうんじゃないかとまで思ってしまいました。