棒声優さん(非声優系の声優起用)の意味と効果とは?

 今期アニメでちょくちょく見かけるのが「棒声優多いよな」ということです。見てればわかるとおりですが、つまりはセリフが棒読みな声優さんやプロ声優じゃない方を起用するケースが今期は特に多いような気がします。「棒声優多いよな」の後に続くのは「下手」とかそういうネガティブな感想とかイメージなんだろうと思います。特に、アニメが多いからプロ声優さんの数が足りない……というわけでもなくむしろそれならプロ声優さんの仕事を奪うな、という感じの声が多いような気がしてます。
 ただ個人的にはこうした棒声優さんの起用については理解できてますし、狙いや意図みたいなものも見えるのであまりネガティブには捉えてませんし、むしろ面白いなーと思うこともしばしばです。今回はそうした棒声優さんを起用する意図や狙いみたいなものがどんなところにあるのかを考えてみたいと思います。
※棒声優さんという言葉を便宜上使いますがネガティブなイメージではありませんのでご了解ください。

  • 非プロ声優による生々しい演技を求めている

 エウレカセブンAOを観ていて、いきなりうさぎドロップのりんちゃんの声が聞こえてきて吹きそうになりました。それはともかくとして、エウレカセブンAOには、あまり声優としてはメジャーではない人だとかもよく出ている印象ですが、音響監督が同じ若林和弘さん繋がりでクロエ役にうさドロのりんちゃん役をしていた松浦愛弓さんが出ていたものだと思われます。この松浦愛弓さんは凄く子どもっぽい声をしているんですが、それもそのはず彼女は10歳(6月で11歳!)というリアルに子どもなんですよね。うさぎドロップでは監督さんによる抜擢起用だったということですけども、やはり子どもによるリアリティを求めていたような気がしますし、エウレカAOでもわざと「子どもじゃないもん!」てセリフを言わせてみたりしてその辺の子どもらしさを非常に生かしていたと思います。
 子ども役の演技が上手いプロ声優さんのほうが、演技も上手いし良いんじゃないか? という声はもちろんあると思います。松浦愛弓さんの演技は可愛らしくもあり個人的には凄く好きなんですが、少し長めの語りになるとどうしても棒っぽい演技になってしまっていると思います。ただ、プロ声優さんが子どもの演技をするってのは、あくまでも「演技」ですし、大人が子どもを演じていることには変わりません。松浦愛弓さんが起用されたアニメはどちらも、子どもが子ども役として演じるという意味もあるんでしょうが、あまり演じすぎず、中の人の個性や素も活かそうという方針で起用されているように感じています。
 その効果ですが、例えばエウレカAOでは、そんな子どもが戦闘機に乗ってシークレットみたいなおっかない物体と戦わなければならない、という世界観を顕してくれているように思います。そう考えると、大人は指揮したり後方支援したりとかしか出来ないあたりの無力感だったり、守らなければいけないはずの子どもを前線に送り込まなければいけない無常さだったりがより浮き立つような気がしています。うさぎドロップではまさに等身大の小学校低学年の女の子(に近い)が演じてる距離感の近さやリアリティを最大限生かしているような気がしてました。若林和弘さんといえば、ジブリ作品や最近公開された「ももへの手紙」など俳優さんが起用されるアニメで音響監督をされていることが多いのですが、どの作品にも共通してるのが「演技をさせすぎない」ことではないかと思ってます。まあこの辺は、普通のアニオタが観ると不満に感じることも多い部分ではあるんですけどね。

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 昨年放送された「放浪息子」でも、主人公の二鳥君役の畠山航輔さんはリアル中学生でしたし彼も非プロ声優さんでした。ヒロイン役の瀬戸麻沙美さんは声優さんではありましたが声優としてのキャリアからすると初めての役でしたし、まだ現役高校生だったはずでやはり役柄との距離が近いタイプの起用だったと思います。ここでも声変わりするかしないかくらいのリアル中学生ならではの生っぽさを作品の中で生かしていたように感じましたしそこが凄く面白く感じました。
 AKB0048もこのタイプなのかもしれません。襲名メンバーは豪華声優陣が演じる一方、研修生は全てAKB系のグループから選抜されたメンバーで構成されています。有名な方は何人かいるようですが、皆声優としては素人です。これって、中の人にとっても声優の「研修生」みたいなものなんじゃないかと感じています。巧さに差はあるように感じますが、とりあえず声優としてのキャリアはここからがスタートなわけで。それがアニメの作中でのキャラの成長とともに中の人達も成長していくような、そんな生っぽさを同時にやろうとしているような気がしています。
 このように、プロ声優さんのような凄い演技をさせる方向性ではなく、役柄に近い年齢の人による等身大の演技を作品に、キャラに生かす効果があると思いますし、個人的にはそこが作品の肝になっているケースが多いように感じています。

  • キャラの個性をオンリーワンなものにするため

 今期で言えば「謎の彼女X」なんかがそうですよね。ヒロインの卜部美琴はこれが声優初挑戦の女優さん、吉谷彩子さんなんですが、最初は棒っぷりが酷いなあと思っていたのがだんだんと「あの声でないと……」という感じになってきたのではないでしょうか。声優養成所などのレッスンを経ないで声優をやることになったわけか、声優として普通はこういう演技とかこういう声だ、という常識が全く通用しないような感じに聞こえます。つまりはオンリーワンなんですよね。

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 このタイプの起用の意図ですが、キャラをオンリーワンにしたいためというのが一番でしょう。既存の声優さんが演じてしまうと、初の主演級の起用とかであればともかく、以前に演じたキャラのイメージや属性が少しは残ってしまう可能性が高いと思います。しかしながら、既存のキャラにはない魅力を持ってたり既存のキャラのイメージは必要ないようなキャラであれば、声優さんが演じてきたキャラのイメージが被さってしまうのはあまり狙いとしては良くないのだろうと思います。そうなると、声優さんの巧拙で選ぶよりはオンリーワンが出せる声優さんが好ましいということになり、上手くはないけど声優としてあまり染まりきってないようなフレッシュな起用が時々あるのだろうと思ってます。
 このパターンで起用されたといえば、7月から2期が始まる「ゆるゆり」もそうですよね。ごらく部の4人は皆あまり声優としてキャリアが無かったり目立たない存在の状態で起用されてますが、中でも歳納京子役の大坪由佳さんは、このゆるゆりがデビュー作でいきなり(実質)主人公という抜擢人事だったわけです。さすがに棒っぽい演技になるところもありますが、京子の見た目美少女だけどちょっとウザかったり実は女子オンリーのハーレム目指してたり(語弊あり)とあまり既存のキャラの枠にハマらない感じのキャラだと思うのですが、その辺が、まだ声優としてのキャリアをスタートさせたばかりで枠にハマらない演技をする大坪由佳さんと京子にぴったりだったように思います。
ゆるゆり (2) (IDコミックス 百合姫コミックス)

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 このパターンの起用は、割と日常系アニメで多いような印象がありますし、キャラとともに成長していく声優さんを観る楽しさもあるので、作品やキャラと声優さんを一体となって応援しやすい良さもある一方で、フレッシュさを求めるあまり既存の声優さんではなくどんどん新しい人をデビューさせてしまうので、フレッシュさを失ってかつ演技派とも言えないような女性声優さんが早くから見切られてしまう、という弊害も併せ持っているように感じています。

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 とまあ色々と書いてみましたが、実際のところはどういう意図があって起用されているのかは作品によっても監督さんや音響監督さんによっても異なると思います。前述の若林和弘さんも、「よんでますよ、アザゼルさん。」あたりでは豪華声優陣による極上の掛け合いをしていたりと棒声優さんを起用する場合とは異なる芝居をさせていますし、ケースバイケースなんだろうと思います。
 ただ、棒な演技があってもそこから生まれる別な効果にも耳を傾けるとよりアニメは面白くなるんじゃないかと思ってます。ネガティブなイメージを持たれている方も、ぜひそういう観点から聴いてみてはいかがでしょうか。

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