SHIROBAKO 5話の作画監督降板騒動、遠藤作画監督は本当に悪いのか考えてみた

 SHIROBAKOの5話はなかなかストレスの溜まる話だったなあと思いながら観ていたわけですが、見返すとやはり面白くてよく出来ているなあと感心していました。
 さて今回は、Twitterのフォロワーさんらが色々な観方をしていたのが興味深かったわけですが、中でもこの作画監督が降板するという事態で誰が一番悪いのかということでした。犯人探しとかはどうでもいいかなと思いつつも眺めていたら、制作進行のタローこと高梨太郎が悪いわという意見と、降板した遠藤作画監督が悪いという意見があって、まあそうだろうなと観てました。
 ただちょっと考えなおしてみたのですが、どちらも犯人というかこの騒動で一番悪いとはいえないんじゃないかと思い直してきたのです。騒動の当事者はこの2人になるわけですが、それはあまりにも局所的な見方すぎやしないかということです。その理由を書いていきたいと思います。

  • タローが一番悪い?

 この問題は制作進行のタローがあまりにも稚拙で遠藤作監を逆なでするような伝達の仕方をしたために起こった問題で、コミュニケーション能力の問題が大きいのは間違いありません。ただ彼が一番悪いのかと言われたら、そんなことはないと思います。
 そもそも情報伝達のやり方に問題がある彼に、大きな仕様の変更を伝える役目を押し付けることで発生するリスクが考慮されていないように感じます。それなのにただひたすら彼を介してのやり取りを続けるというのも愚行のように感じます。彼の言葉選びのセンスはある意味では抜群ですし、遠藤作監を怒らせるには十分なのですが、そういうキャラクターなのだということもわからない間柄ではないと思いますので彼だけに問題の責任を押し付けるのはどうかと思います。

  • 遠藤作監のわがままが悪い?

 遠藤作監のほうを観てみましょう。個人的には彼がタローとばかりやり取りしてて勝手にキレた、という見方でももちろん間違いじゃないと思いますし、監督が決めた仕様変更に対して不満を言い監督やデスクらに何も言わないまま職場放棄したことももちろん社会人として失格だろうとも思います。ただ、彼がそういう選択をしてしまう方向に追いやったのはタローの言葉選びの問題だけでも、2D作画にこだわるあまり3D作画に変更することを快く思わないというだけでは無いと思います。ではどういうところが問題なのか。5話で出てきた遠藤作監のポジションについて見て行きたいと思います。


 遠藤作監の自宅です。外観もですが中も綺麗でなかなか高そうなところに住んでます。子どもはおらず奥さんはクリーニング店でパートか何かをしているようですが、こういうところに住めるくらいには稼ぎがある、ということを示しているのではないでしょうか。おっぱい作監こと瀬川さんの部屋からするとずいぶんと高級感がありますが、それは共働きゆえなのでしょうか。あるいは見栄とかなのか。


参考:瀬川さん部屋

 彼がどのくらいのキャリアかつポジションのアニメーターなのかは定かではありませんが、時間が出来たからといってアニメ業界の大物監督と飲みに行く約束がすぐに出来てしまうくらいには認められたアニメーターなのは間違いないようです。作画監督をやるようなポジションのアニメーターだとギャラもそれなりなんじゃないの? と思われる方もいるかもしれませんが、どうやらその段階に至っても稼ぎは乏しい方も多いのがこの業種だそうですが、遠藤作監に関してはもう少し稼げるポジションを確立しているように見えます。そして慕う後輩もおり、大物監督からも一目置かれるようなかなり腕の立つアニメーターということなんじゃないかと思います。
 そして「えくそだすっ!」8話の作監を任されていたわけですが、瀬川さんも話していた「エフェクトの作画で認められた」こともあって、彼は自分のエフェクト作画の腕を見込んでこの話数を担当させてもらうことになった、と恐らくは考えているでしょうし、弾幕をバイクで抜けていくところは自分の見せ場だとも考えていることから張り切っていたはずです。そこで梯子を外されるがごとく3Dへの差し替えですから、チャンスで代打を送られたような気分になっていたのではないかと思います。また本編2話で意に反してえくそだすっ!4話の作監を引き受けたことへの不満もくすぶっていたのかもしれません。そう考えると、この仕様変更に怒ってしまうのもプライドの高そうな性格からも仕方ないのかなと思ってしまいます。
 監督にもデスクにも言わずに降板すると言ってしまったのはさすがに不味すぎると思うのですが、個人的には制作進行のタローや3D担当の人への不平不満をぶつけるためではない気がしています。というのも、これだけの大きな変更に対して担当の話数の作画監督への伝言が制作進行からのみってのがそもそも不味かったのではないかとも感じるからです。遠藤作監はエフェクトの作画を見込まれて任されていると思い込んでいたのに、彼の得意なところを把握していたのかいないのか定かではないながらもそこを取り上げるような決定をしているわけです。彼の性格を考えるとこの変更で不満が出るのは当然のことと思いますし、そもそも彼を起用したのはエフェクト作画のためでは無かったのかという風にも感じるかもしれません。それなのによりによって言葉選びが最高のタロー任せにしてしまっては蔑ろにされたと受け取られてしまっても仕方ないのかなと思ってしまいます。要は、監督なり演出なりが彼に作画ではなくCGで行くための納得行く理由を説明しなければならなかったのではないかということです。それなりに地位を得てるアニメーターに対して筋を通さなければならない場面だったのかなと思います。タローも遠藤作監も他の誰かに話せば良かったものの自分たちだけで仕舞いこんでしまったのも悪かったのでしょうけど、そもそもそれ以前の問題だったように見えました。
 あと、遠藤作監は責任感がないとかそういう意見も観ましたが、ゴスロリ様こと小笠原さんと井口さんというムサニのツートップと違ってムサニ所属ではない可能性もあるのかなあと思ってます。ムサニ所属だったりえくそだすっ!に思い入れがあれば作監降りる!とか言い出さないと思うんですよね。あくまでも雇われ作監だからこその無責任発言なのかなあとも思ったりしています。

  • 真犯人は?

 そう出来なかったのはひとえに監督が絵コンテ終わらないから、ということになりますし、手遅れになるまで監督任せにしていたデスクの判断ミスとも言えるように思います。タローがデスクに相談しなかったのはまずいとは思いますが、かと言ってあの状態のデスクに相談して妙案が出てくるとも思えません。平時でさえ「万策尽きたー!」と言ってしまうような人ですから、あまり頼れないのだと身に染み付いているのかもしれません。

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 ちなみにタローは、自分が遠藤作監を説得できないと確信するやいなや他に作監やってくれそうな人を探していますが、個人的にあれは正しい行動なんじゃないかと思ってます。というのも、揉めている間もOAというか締め切りは常に近づいてきていてアニメ制作を止めることは出来ません。のでその手がダメそうなら次の手を打つというのは正しい方向性なのかなとも思うからです(タローが代わりの作監を見つけることなど出来るわけもなく問題解決能力はたぶん無いので結果は変わらないはずですけど。。)。
 と言うかアニメ制作に限らずですが、いちいち問題が起きたからって犯人探しをしてるような時間は無いはずなんですよね。要はその問題をどう乗り越えていくか、という部分が大切なはずで、この「SHIROBAKO」というアニメでもそこを描きたいはずだと思ってます。実際にSHIROBAKOでも、対岸の火事のように観ていた宮森さんに火の粉が降りかかってきたと言うよりは実は同じ棟の火事だったことで飛び火してしまったわけですから、同じアニメを作っている以上、関係ないことなんて無いってことも描きたかったのかもしれません。
 ……と、まあ脱線してしまいましたが、タローも遠藤作監も、個人的には責められないかなあと思っています。
■追記
 PA堀川社長もこうツイートされてました。

※参考
#SHIROBAKO 五話を見た軽い感想(作監・菊地)--スタジオエル スタッフ日記 より