原作のブラックさが薄まって魅力半減なアニメ「琴浦さん」

 今期アニメのスタート時期には話題になった「琴浦さん」ですが、その後はだんだんと下火になっていきその序盤で原作買っててちょっと早まったかなあと思っていつつもせっかく買ったのでと思って読んでいたら凄く面白くって、ふとアニメを思い返してみて「何か違う」となりました。アニメを見て感じた「こういう作品」というものと、原作を読んでて感じた面白さの質が全然違っていたんですよね。ぶっちゃけ原作のほうが面白くって、アニメは原作の面白い部分をそのままやれていないというか、アニメにするにあたって加えた改変というか、こういうアニメとしてやりたいという方向性が原作の持つ本来の面白さとは違う方向に行っているような気がしてしまいました。
 アニメはまだ途中ですし最終的にはどうなるのかわからないのですが、現時点で感じた違う何かについて書いてみたいと思います。

  • 森谷の扱いが違う!

 一番感じているのが森谷の扱いでしょうか。最初に真鍋と親しげにする琴浦さんを憎んで色んなことをするっていうのは原作でもアニメでも変わらないポイントですし、原作では森谷教という架空の新興宗教をやってるという設定が道場に変わっているというのももう知られた改変ポイントかと思います。本当なら宗教のほうが面白いのですがまあ仕方ないところです。ただ、アニメでは森谷が愛憎劇のように琴浦さんや真鍋に何かして、それが許してもらって仲良くするようになった、みたいに描かれているように感じていて、脳筋でバカだけどそんな変な奴じゃないみたいに見えるのですが、原作ではそもそも家が新興宗教やってるところから性格が歪んでしまっていて、しかも道場でもないので脳筋だからバカってわけでもないんですよね。
 だからこそ、原作では彼女への酷い仕打ちも引き立つというかまあされても仕方がないかなと思うわけです。真鍋も結構クズいんですが、そんなことを言われてもまあしょうがないという気になるんですよね。それがアニメだと、森谷が割とまっとうな感じのキャラとして描かれているおかげで、真鍋が琴浦さんとイチャつきたいからとかで森谷が邪魔で、あとかつて琴浦さんや自分にしたことに対しての仕返しのように森谷に酷いことを言っているように見えてしまい、お返しにいじめても良いのかとちょっと嫌な気分になってしまったのです。原作の感じだと森谷の作画も結構手を抜いている感じのページが前半は特に目立つので、いじめ返してる感が薄れていたのかなとも思います。
 まあ原作3巻後半あたりのエピソードだと割と普通になってきた彼女が見れますので、琴浦さんやESP研究会の面々と接しているうちにややまともになってきたということではないかと思ったりもしています。そのまともになった森谷をベースにアニメでは描いているのだろうとも思います。が、僕はクズだった彼女のほうが面白かったので残念に思っています。

  • ブラックさが薄まった

 アニメでももちろんブラックさはちゃんと描かれているとは思うのですが、それが原作よりもかなり薄く見えてしまっているように思うのです。森谷に関してもそうなのですが、例えば爺ちゃんとかはもっとクズいですし、ESP研の部長もかなりのクズとして原作では描かれています。特に部長に関しては、声優が花澤香菜さんということもありアニメではもの凄くクズさが希薄になってしまっているように感じてしまいます。花澤さんのクズキャラって恐らくは全くイメージにないので。ただ原作では作中でも1,2を争うクズキャラで、琴浦さんに自分の過去をわざと見せるアニメでもやったアレだとか、あと自分が面白いと思う向きに行きそうだと思ったらそう仕向けたり他者を若干陥れるかのような行動をしてみたり動かなかったりと、なかなかに凄いキャラなんです。まあもちろんそんな悪い奴というわけではないのですが、萌えるとかそういう方向ではまず見れないキャラではないかとも思うわけで、そんなキャラに花澤さんをキャスティングしたところからちょっと違っていたのかな? とも思います。
 ただ全体としては森谷のクズさを薄めたことでブラックな感じのネタが全体的に薄まっちゃった感じはあるんですよね。森谷の扱いが悪いことで成り立っていたブラックネタのキレが悪くなっていたり、部長もクズく見えなくなっているからこそ逆に締まらなくなっている感じもあり、原作とアニメでは相当雰囲気が変わっていると思います。

 ブラックさを薄めた反面、琴浦さんを可愛く見せようとしていたり、あるいは真鍋と琴浦さんのラブコメ的な側面を強調しようとしているようにアニメでは感じました。琴浦さん金元寿子さんを起用したあたりは、異能力者の主人公キャラという意味ではイカ娘的でもあり、また黄色系の可愛いキャラというイメージであればスマイルプリキュア黄瀬やよいあたりからの連想かなとか、あるいはラブコメ的な可愛さであればこれはゾンビですか?のトモノリであるとかそういうキャラからのイメージを付けたかったのだろうと思っています。
 ただ原作を読む限りでは、あまり琴浦さん可愛いとは思わなかったというか、琴浦さんを可愛いと思わなくともこの漫画面白い、となるので、ことさらそこを強調するような描写は原作本来の感じではないと思いました。
 またラブコメ要素もアニメのほうが強くて、もちろん原作でも基本的にはそういうエピソードが多くラブコメ的な作品とも言えるのですが、それはあくまでも半面くらいというか一面だけとも言えると思うんですよね。恐らくはアニメではそういう見せ方をしたほうが視聴者にはウケると踏んでの強調のさせ方だったのだろうと思うのですが、ブラックさを薄めていることもあって余計にバランスを崩しているように感じました。
 原作はもっとイイ意味でいい加減で、いきなりビーンボールが飛んでくるような雰囲気がありますが、その辺もアニメではマイルドにしちゃってる感じがするんですよね。何となくですが、原作は元々はwebで掲載されていた漫画だったようで作者個人が自由に描いた良さとか怖さがあったと思うんですよ。普通の漫画だと編集さんと作者が二人三脚というか、ヘタすれば編集部からの指示で方向性が決まったり描くものが変わったりするものだと思うのですが、その辺がない(と思う)自由な面白さが原作本来の面白さではないかと思うわけです。アニメではその辺が感じられなくて、むしろ編集部の修正がたくさん入った「こうすれば面白いんじゃないか」という内容になっちゃってるような気がしています。よく言えば行儀が良い感じで、悪く言えば尖った部分がなくなった感じかなと。テレビアニメ、しかもテレビ局が製作委員会に参加しているような作品ですから仕方ない部分もありますが、どうにも持ち味を削いでしまってるような気がするのです。

                                                • -

 原作2巻に収録されているたまごまごさんのコラムで「人間の裏も表も見えるから、琴浦さんはこんなにもかわいい」という見出しがありますが、個人的にはその辺の加減があまり上手く行ってない気がしています。琴浦さんアニメを作っているのは太田雅彦監督以下みつどもえのスタッフですが、みつどもえでは尖った部分を出来るだけアニメでやったら失敗したみたいな感じだったのを反面教師として観てしまい、尖った部分が無いといけないはずの琴浦さんで尖った部分を削ってしまうという失敗をしているようにも見えます。まあ琴浦さんアニメで尖った部分を出来るだけそのままアニメ化してウケるのかと言われれば、それはわからないとは思うのですが。

琴浦さん1 (マイクロマガジン☆コミックス)

琴浦さん1 (マイクロマガジン☆コミックス)

琴浦さん2 (マイクロマガジン☆コミックス)

琴浦さん2 (マイクロマガジン☆コミックス)

 原作は絵柄に慣れるまで大変ですが、2巻以降凄く面白いのでおすすめです。web版からは加筆修正されているそうです。