夏コミ新刊 リトバス佳奈多シナリオ後日談SSサンプル公開

 何とか完成しました。SSだけですけども。これから体裁を整えて製本、という難関が待ってます…。



 僕らを知る人が誰もいない場所で、僕ら3人はささやかながら、幸せな生活をスタートさせていた。
 追っ手も来ない、ここ…僕らの家で。

 何も問題が無いわけじゃない。
 けれど、3人いればそんな困難くらい乗り越えられていける、そんな気がした。
 
 それに僕らには、学校に残してきたみんながいる。
 そこへ戻るまで、くじけることなんか出来ないんだ。


「やーやーやー、諸君。やはやは」

 …ってまあ、そんな悲壮感も無く、

「…ったく。直枝は深刻に考えすぎ、あなたは楽観的すぎ…。
 ほんと、どうしようも無いわね」

 言葉はキツイんだけど、口調には「やれやれ」と言った感じで、眼差しも言葉自体も少し優しい。
 何となくだけど、妹と弟を見守る姉のような…。姉妹のほうは本物なんだけど。
 「どうしようもない」なんていう言葉が似つかわしいくらい。

 
 こんな感じだから、実際のところは上手くバランスが取れていて、
毎日が楽しくさえ思える日々だった。

 そんなある日のこと――。




「二木さん」
「何? 直枝。どうしたの?」
「あのさ…二木さんは『二木さん』って僕に呼ばれてることに、何か違和感は無い?」
「違和感?」
「葉留佳さんには言われたんだ。『名前で呼んで欲しいんだ。私の名前が好きだから』みたいなこと言われて」

 されていたこと、置かれていた状況は違っていても、同じような境遇だった姉妹。
 なのに、呼び方が異なることには違和感があった。

「あ、言ったねー」
「でしょ?」
「うんっ。まあ私の場合は、葉留佳って名前があるから、自分が生きてるーって実感があったんだよね」
「…で、それがどうかしたの?」

 何気に葉留佳さんが、切なくなるような心が痛くなるようなことを言ってるんだけど、
それを二木さんは華麗にスルーしてみせる。

「二木さんは…どうなのかなって思って」
「ちょっ、理樹くんまで酷っ」
「ふむ? どういうこと?」

 僕も同調する。ちょっと可哀想な気はするけど。

「おねえちゃんだってさ。名前…好きだよね?」
「嫌いじゃないわ。…あなたほどじゃないけど」
「じゃあ、理樹くんからもそう呼ばれたくはない?」
「…」