「坂道のアポロン」「ヨルムンガンド」などに見る、実写化よりもアニメ化な流れについて

 今期アニメで「坂道のアポロン」や「ヨルムンガンド」が面白いなあと思って観てるわけですが、少し疑問に思うことがありました。どちらの作品も二次元ならではのファンタジー的な仕掛けや物語ではなく、実写でも全く問題ではないんじゃないかと思いました。ただし映像化として選ばれたのはアニメでした。ヨルムンガンドはともかく坂道のアポロンについてはドラマにしても全く問題なかったというか、むしろドラマでやればもっと一般層を引き込めたのではないかという気がしましたし、実際の佐世保を舞台にして町おこしにもなったんじゃないかと思いましたが……。ノイタミナ枠はうさぎドロップのだめカンタービレなど実写化も行われた作品が多いのでもしかしたら今後あるのかもしれませんけどね。
 個人的に思う、実写化ではなくアニメ化が選ばれている流れを考えてみました。

  • やや古い街の風景描写、時代考証に基づく設定

 坂道のアポロンでは昭和の頃の佐世保が舞台になってます。佐世保が舞台なんだから佐世保ロケでもすれば出来るんじゃないか? とも思ってしまうわけですが、ただロケで出来るのは現在の風景なんですよね。実写でやろうとすると、例えば三丁目の夕日みたいなCGとかセットを駆使でもしない限りは実現不可能なわけです。

 現在のドラマのほとんどは現代劇ではないかと思います。もちろん「坂の上の雲」や「南極大陸」みたいな大型企画の場合は除きますが。これは製作費が限られている中でセットや背景なんかにお金をかけられないという事情もあるような気がしてます。なのでドラマ化されるコミックや小説原作が現代劇に限られてしまっているように思ってます。
 しかしアニメであれば、背景は当時の風景写真さえあれば描けます。小物類も当時のものを写真を参考にすれば描けます。逆に、映ってしまってまずいものは描かなくてもいいわけです。もちろん、坂道のアポロンの背景はめちゃくちゃ綺麗ですし、あの背景や小物などを描くのは相当大変だろうなあとも思うわけですが、そういう部分では実写よりも都合がいい部分があるのだろうと思ってます。

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  • よりリアルな演奏描写

 坂道のアポロンの売りがリアルな演奏シーンです。だいたいの回にありますし、確かに凄いんですが、これなら実写のほうがよりリアルな描写として描けるんじゃないか? とも思ったりしてました。
 ただ考えてみると、実写だと主役級に起用された俳優さんがその演奏シーンで演奏しなければならないわけですが、その俳優さんがミュージシャン出身とかでもない限りは付け焼刃的な演奏の演技になってしまいます。ミュージシャン出身の俳優さんもいくらかいますが、そうした俳優さんが高校生役はまず難しいでしょうし配役的にも厳しい気がします。
 アニメの坂道のアポロンでは、演奏された音はもちろん、演奏してる絵そのものもプロのミュージシャンが行った動きを詳細にアニメに落としてアニメとして描いているわけです。ものすごくなめらかかつ迫力のある絵になっているので素晴らしいなと思うわけですが、この動きや迫力を実写でやろうとするとかなり困難ではないかとも思いますし、このアポロンのアニメで描かれたものを超える絵はなかなか難しいように思います。ミュージシャン出身の俳優を起用して演奏シーンはリアルに作れたとしても、演技のほうがダメだとそこで萎えますからね。アニメだと演奏そのものはプロに、動きはアニメーションで、中の人の演技はプロの声優さんにすれば全てプロフェッショナルな仕事で魅せることができますからね。アニメが実写を超えている部分だろうと思ってます。

  • 実写では金がかかりすぎる

 ヨルムンガンドは実際に存在する武器と戦闘、飛行機や輸送船など実際にあるものだけで構成されています(ですよね?)。なので実写化も可能だろうと思うわけですが……まあ実際には無理ですよね。
 あれだけの武器だけでも準備するのが大変でしょうし、飛行機に特殊なロケット弾、ミサイルや機関銃、町中や船上での戦闘……と実写化するならハリウッドで何億もかけてやらないと無理な内容じゃないかと思います。ハリウッドで実写映画化とかって考えても全くの夢物語でしょうし、もし実現したとしても原作通りになんてやってくれるはずもなく。もちろん日本のドラマや映画でも不可能でしょう。そうなると、やはりアニメ化が一番映像化としては近いしより原作でやってることを派手にも効果的にも魅せることが出来る媒体になっているように感じます。

  • 「萌え」要素を添加してアニメ向きにする流れ

 角川書店からアニメ化された「未来日記」と「Another」はともに実写化されています(Anotherは公開まだ)し、「氷菓」は前述の作品同様実写化でも全く問題ない作品だと思っています。未来日記やAnotherはそもそも実写化も同時に進められていたようですが、アニメではより「キャラ萌え」要素を強めに描いていたように思います。特にAnotherや氷菓は原作そのものにはあのような絵は存在していなかったわけですが(Anotherはコミカライズ版がありますが)、アニメにするにあたってAnotherは涼宮ハルヒシリーズでお馴染みのいとうのいぢさんを、氷菓では京都アニメーション西屋太志さんが手がけてますし、よりキャラ萌えを強調するような絵面になっていると思っています。萌えアニメが多くなりすぎて飽和状態になっているとはいえ、キャラ萌え要素がなければアニメじゃない!という人もまだまだ多いと思いますが、Anotherと氷菓はそうしたニーズを汲むべく味付けとして萌え要素を取り入れたのだろうと思います。
 氷菓はわかりませんがAnotherは実写化もされるわけで、その劇場版がどのような方向性で行くのかはちょっとわかりません。が、やはり萌え要素はアニメでこそだと思いますので、実写ドラマ向きの原作をアニメにする時の一つの方法論的な感じで観ています。この辺は、ヨルムンガンド坂道のアポロンとはちょっと違う流れですけどね。

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 個人的には、あまり萌え要素のない原作のアニメ化の流れは歓迎で、より面白い物語やジャンル、キャラクターと出会えるチャンスが増えるのかな、と思っています。ヨルムンガンドとか萌え要素はたぶん殆ど無いけどめちゃくちゃ面白いですし、坂道のアポロンでは素朴なキャラ萌えをさせていただいてます。
 問題はこうしたアニメが商業的に成功するかどうかにかかっていると思います。いくら萌えメインじゃない実写に向いた作品をアニメ化したところで、お金にならなければ次を作ることが出来ませんからね。実際にこういうアニメがあまり作られなくなって萌え系アニメばかりになってしまったのは、そうした作品のほうがお金になる確率が高いからでしょうし。「ちはやふる」のようにアニメの評判は良くてもBD/DVDとなると売上はイマイチなケースも多かったので。氷菓ヨルムンガンドとかはそこそこ売れそうですし、全然違う方向性のアニメに飢えてる気もしないでもないので、今後も継続的にこのようなアニメが放送されるのではないかと期待はしておきます。