第三少女飛行隊の原作編集の茶沢は本当に悪人なのか?

 SHIROBAKOの後半戦では、ストレスの溜まるキャラとして制作のタローから第三少女飛行隊(三女)出版社の編集者である茶沢に対象が変わった、というのが一般的な見方だろうと思いますしその通りだと思います。主に連絡遅れとか動きが遅いことからくるトラブルの発生源ともなっていて、ムサニが進めている三女のスケジュール遅延の一因にもなっていると思います。
 ただしかしながら、これって編集の茶沢だけの原因でしょうか? というのも、どうにもヘイトが集まりやすいようなキャラ付け(チャラいとか軽いとか)はされているものの基本的にはディスコミュニケーションが原因で、かつそこが問題の「一因」にはなっているものの「主因」とか「原因」そのものにはなっていないようにも思えるからです。これって基本的に前半戦でタローが担っていたポジションと近いんですよね。
 そこで、主な茶沢が問題の発端となったっぽい件を2つほど観ながら、本当にそうなのか考えてみたいと思います。

  • 三女キャラクターデザインで原作者のリテイクが出た件

 初のキャラデをやることになった井口さんがひたすら苦労したところです。突然原作者からキャラデザに納得がいかないとリテイクが出る場面です。もちろんここは、茶沢が原作者にお伺いを立てるのが遅過ぎで、アニメの作業がある程度進んだようなタイミングで原作者がアニメのキャラデをチェックしたからこそ大きな問題になった、と考えるのが普通ですしそう捉えるように描かれているのだと思います。
 ただどうでしょう? アニメ制作のスタートからアニメの放送までのスケジュールがキツいが故ですが、原作者へのお伺いを編集任せにしていたナベPにも問題があるのではないでしょうか。本来であれば編集を通してではなく直接原作者とやり取りが出来れば良いのでしょうが(これも本当にどちらが良いのかはわかりません)、そうでない場合でも原作者からのOKを確実に貰っておいてから作画作業をスタートさせるべきだった、ということなのかなあと思います。このエピソード以降は警戒するとは思いますが、この茶沢の人となりや作者やアニメの現場とのコミュニケーションの取り方を無条件に信用しすぎていたようにも感じます。なので、大きな原因としてはナベPの見切り発車的な進め方にもあったんじゃないかと思うわけです。
 ちなみに三女原作者から茶沢へのメールの文面が非常に抽象的でしたが、普段からこういう文面でやり取りをしているということでもありますし、原作者と編集の間でもディスコミュニケーションが起きている……のか、あるいはこの程度のやり取りでも十分コミュニケーションが取れる関係性なのかもしれません。


これがリテイクが出たキャラデ。

これが原作者からOKが出たキャラデ。大枠は変わってないけどずいぶんと柔らかみが出てる気がします。

  • コミケ的なイベントで流すPV制作依頼のところ

 次にコミケ的なイベントで流すPVの制作依頼が遅いというか伝達されていなかったことです。おそらくは本当に茶沢からは伝えられていなくて、キャラデザの時の意趣返しみたいなことをされているのだろうと思います。これは茶沢が100%悪い……と思いがちですが、果たしてそうでしょうか。
 10月スタートの新アニメの初お披露目の場として、近年では夏コミが重要視されてきていると感じています。それに出版社だけでなくアニメ製作会社やスタジオ単位で出展するところも増えてきたというか、大手出版社や製作はほとんどが出展しています。要はそういうプロモの場として当たり前な夏コミを前にして、PVを作れと言われることを想定していなかったナベPやメーカーPの葛城さんの落ち度のほうが大きいようにも感じます。まあムサニは元請けやるようになって2作目で、そういう当たり前の流れについて不慣れな点もあったのかもしれませんが、そこは連日連夜新宿のテンパイに通っていたナベPなら知らないはずは無いでしょう。キャラデザへのリテイクがあって大混乱に陥っていた経緯もあるので、忙殺される中でうっかり忘れていたということなのかもしれませんが、本来ならお伺いを立てておくのが先なんじゃないかなあと思いました。ただでさえスケジュールがどんどんなくなっていくところなので、余計な仕事を増やしたくないから言われるまでは聴かないようにしよう、というのもちょっとガッカリな思考になりますしね。

  • 茶沢のアニメへの関心が薄い件

 ここでふと思うのが、茶沢のアニメへの関心が低すぎるのではないか、という問題です。そもそもコミケ用のPVの制作依頼が遅れるというのは三女アニメのプロモに大きな支障をきたすということでもありますし、その出来がアニメの成功の鍵をにぎることになるのかもしれないわけですが、それをやっちゃうあたりに無責任さと同時に、アニメの成功への関心が薄いことも伺えるのではないかと思いました。
 キャラデザのところもそうです。いたずらにアニメの制作期間を縮めるようなやり取りをしていましたが、別にムサニの面々を追い込みたいとかそういう悪意があるわけではなく、単純にそれがアニメのクオリティにも関わってくるというところまで考えなしにやってしまっているところが問題なのだろうという見方です。
 茶沢のアニメへの関心の薄さの理由ですが、全く描かれてはいませんが、本業ではないところにあるのではないかと考えています。以前にマチ★アソビで講談社の編集さん(アニメでも頻繁にクレジットされている方です)のお話で、アニメ化作業の時に編集が間に入って作者の負担を減らすことも仕事、だと言っておられたのですが、本来であれば普通の編集の仕事の範疇ではない、ですよね。ある意味では本業ではない余分な仕事をさせられている、ところから来るものではないかと考えています。なので態度ではわかりませんが、アニメの出来に対しての関心が薄いのは本業ではないから、なのかなあとも思いますし、木下監督やナベPなどアニメ制作側との温度差もこのキャラが入ることで描かれているようにも感じています。

  • 茶沢はアニメ制作側にとっては悪いばかりの編集ではない理由

 茶沢という編集はディスコミュニケーションが過ぎて悪い編集のようにも捉えがちですが、アニメ制作側にとって悪いばかりなのでしょうか? 個人的には人となりさえ押さえておけばむしろ、アニメ側にとってはかなりやりやすい相手になるんじゃないかと考えています。その理由が、茶沢のアニメへの関心の薄さです。
 キャスティング会議では途中退席するわ、1話アフレコのところでも主要キャストの収録が終わってから来て、主役の新人声優が残されている中で演技を確かめずにさっさと帰ってしまうわ。普通ならどうなってしまうのか確かめたくなるものでしょうけど、関心が薄いので帰ってしまうわけです。アニメの出来なんかどうでも良いと思っているからこその関与度の薄さだろうと思うわけですが、ここがアニメ制作側にとっては都合がいいと思うのです。
 キャスティング会議のところでは音響関係の人間が自分の推しを強く主張するさまを描いていましたが、出版社がそれをやることも実は多いと思うんですよ。どことは言いませんが某出版社原作アニメでは、あの若手人気女性声優さんが起用される率がもの凄く高かったりしましたし、そういうアニメでは出版社の編集が強く推しを主張しているんだろうなと推測しています。が、茶沢みたいな編集であればそれはないわけで、アニメ制作側が良いと思ったキャストが通りやすくなります。もちろん原作者が好きな声優さんを主張したり、オーディションとかキャスティング会議に参加して意見したりというケースもあるようですが、それよりも出版社の人間が主張するようなケースのほうが厄介でしょう。
 原作者の押さえておくべき意向は汲まなければならないのでしょうけど、出版社とか編集個人の意向を反映させなくても構わないというのは非常にやりやすいのではないかと思っています。なのでSHIROBAKOスタッフ……とりわけ水島努監督あたりは、こういう編集だったら作りたいようにアニメ作れるんだけどなあ、とか考えながらやっているのかもしれないとさえ考えてしまいます。水島監督のアニメで原作者とそりが合わなかったという話は僕は知らないですし、かなり監督の作りたいように作ってるように見えるのですが、そういう監督からするとこういう編集のほうが案外やりやすいと思っているのかもしれないなあと考えています。

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 とまあ、茶沢を悪人とは思えない理由を色々と書いてみましたが、それでもムサニやみゃーもりの障害の一因として描こうとしているのは間違いないと思うんですよね。ただ、負の面ばかりを強調して良い面はなるべく描こうとしていないだけなのだろうというのが個人的な見方でもあります。
 このまま茶沢はチャラい悪人なだけのキャラとして描かれたままになるのか、あるいは良いところもあるじゃんって感じになるのかはわかりませんが、ただ悪いばかりではないキャラであることを頭の片隅に置きながら今後のSHIROBAKOを観ていくと面白いかもしれませんね。