麻枝准が『Charlotte(シャーロット)』に活かした『Angel Beats!』の反省点とそのメリット・デメリットを考えてみた。

 『Charlotte(シャーロット)』の原作者(脚本家)である麻枝准氏がインタビュー記事などでよく言っている「CharlotteAngel Beats!での反省点を踏まえて脚本を書いた」という点が気になってきました。当初はAB!よりも勢いがないだとかマイナス面ばかり目についていて、その言葉の意味するところがあまりわからなかったりしたのですが、9話まで観るとようやく納得するところが出てきました。
 Charlotteは基本的には今までの麻枝作品とそう変わらないというか、いつもどおりなところもかなり多かったりもしますが、今回は敢えてAB!とは違った、そしてアニメという媒体を意識した内容になっている部分も相当あると思います。そうしたところを踏まえて、過去の麻枝作品の内容も交えながら見ていくことにします。
※あくまでも個人的にそう見える部分で、麻枝准氏の見解ではないのであしからず。

  • 親しみやすい主人公キャラ

 まずCharlotteで目が行ったのが、主人公である乙坂有宇のキャラについてです。1話前半に強烈なゲスさを描いておいて、そして7話の逃避行な回で更にエスカレートしたゲスさを見せる、というゲスさを前面に出したキャラクターを意識して描いていると思います。
 これって何を意識しているのかと考えると、AB!の主人公である音無結弦だと思うんですよね。音無は基本的には良いやつで、かつそれなりにスペックも高い受け身な主人公キャラだったと思います。ただ自分から行動してみようと思い立ったのがユイの半強制的な成仏でしたし、最終話の皆を成仏させた後に天使ちゃんだけ引き留めるという凄い自己中心的な行動とか発言が一部界隈から非常にバッシングされていたように記憶しています。
 そうした音無で受けた批判を活かして作られたのが、Charlotteの乙坂だと思っています。最初にゲスさを描いておくことで、ゲスいという属性をつけること以上に「(人間として)完璧ではない」キャラであることを最初に描いておいた、という狙いがあったのだろうと思います。その狙いは的中していて、Twitterなどで観る限りでは乙坂へ不快感を持つ視聴者はほとんどいないようですし、むしろあのぼっち逃避行の回でさえ「乙坂死ね」みたいな反応は皆無だったように思います。
 ちなみに、AB!の音無は医者志望ということもあっての完璧キャラ(のちの自己中心主義)だったのだろうと思います。なのでこれはこれで狙い通りだったはずですし、そんな音無が最後に自分の欲望を一番好きな子の前でさらけ出してしまうという人間味あふれた行動に出てしまう、ということを描きたかったはずなので、そこにそこまで病まなくてもいいような気がしないでもありません。

  • キャラを絞ったこと

 Charlotteのキャラクターを発表したときに一番ビックリしたのが、メインキャラを思いっきり絞ったことです。ここはAB!と比較して一番わかりやすい改善ポイントだったと思います。
 特にここまで観てきて一番思うのが「ヒロインキャラを絞った」ということでしょう。AB!であれば、天使ちゃんだけではなくゆりっぺとかユイとか、あるいはAB!のゲームのほうで攻略できるという岩沢とか(?)いたんですよね。なのでギャルゲー的というか、ラノベ原作アニメでよくある女の子がよりどりみどりな状況でもあったような作りだったと思います。そこが、視聴者の意中のキャラにならずにストレスを産んだとかあったのかもしれません。
 そこでCharlotteでは、ヒロインキャラを友利奈緒ただ1人に絞ったのではないかと考えています。柚咲(ゆさりん)と乙坂にはほとんど接点がありませんし、あとは妹の歩未のみとなると、主要な女性キャラは奈緒1人だけという感じになってしまいます。1話で乙坂が落とそうとした女の子もいましたけど、ここまでの話数を観ても奈緒ルート以外に入りそうな分岐点も無かったように思います。ヒロインキャラのルートに集中して、このカップリングを楽しんで欲しい、という麻枝氏のメッセージ的なものなのかなとも考えています。麻枝氏の作品で言えば『リトルバスターズ!』の朱鷺戸沙耶ルートのようなイメージですね。実際に、Charlotteの友利ちゃんもリトバスの沙耶も作品の中ではかなり人気の高いキャラになっているので、その意味でも近い存在になっているような気がしています。関わってくるキャラクターの少なさに関しても近いのではないかと思いますがどうでしょうか。
 ただここはすごくデメリットが多いように思います。というのも、想像の余地が生まれにくいんじゃないかなと。このキャラとこのキャラのルートもあったのかもな、と思いながら妄想を膨らませて二次創作にぶつける、みたいな盛り上がり方もあるにはありますし、報われないヒロインキャラにばかりハマるような人も中にはいますから、そうした二次的な盛り上がりはかなりしにくい作りになっているのではないでしょうか。AB!の同人誌は結構な数が出ましたが描かれたキャラに関してもかなり満遍なかった印象でしたし、Charlotteは公式が提示したカップリング以外は描きにくい気がするあたり、ファンの間で広がっていく余地を消してしまってるように思ってます。

  • 単一ルートしか無いストーリー

 先ほどの項目と被る部分がありますが、AB!とCharlotteの大きな違いが「たくさんのルートがあるうちの1つのルートを描いた」のか「そもそも単一のルートしか無いシナリオ」か、ではないかと思います。AB!では、もし音無がここでこういう行動を取っていたら、だとか、この選択肢を選んでいたら、という箇所が多かったように思いました。それこそ、音無が天使ちゃんにこだわるあまり、天使ちゃんが仲間に入って一緒に卒業式やって、そしてあの終わりになった……ような感じだったかと思います。が、AB!だと例えばユイを成仏させないルートもあったでしょうし、そもそも音無ではなくゆりっぺや日向が主人公でかつそのキャラを動かして話を進めるようなやり方もあったでしょうし、そうした色んなルートがバックグラウンドにはあるのだろうと視聴者にも感じさせながらも、アニメで描くのはあくまでもその中の1ルートだけ、というのが視聴者の中に消化不良なものを残した、という反省点だったのかなと想像しています。
 Charlotteでは前述のとおり、他にルートがあるような想像は出来ない作りになっていると思います。というか、ここまでの流れが既に何周かしていて(ただし乙坂にはループした意識や記憶が無い)、その過程を経た後に訪れたトゥルーエンドのルートに入ったところが作品の始まり、みたいな感じを意識して書いていると感じます。最初から作品で描く部分を絞って進めている感じなので、他のルートを考える余地も与えないような作りになってますよね。麻枝氏の作品で例えるなら『リトルバスターズ!』のRefrainルート(トゥルーエンドへ向かうルート)をいきなり描いているような感じがします。なのでクライマックスの本当に見せたいところだけ観てよ! 的なメッセージもあるようにも感じます。
 ただ、やはり想像の余地は広がらない作りですよね。最初から色んな可能性を潰しておいて、その結果として生まれたようなルートをいきなり始めているようなものですから。まだこれを書いている現時点であと3〜4話残していますから、ここからこちらが唸るような展開に入っていくのかもしれませんが、それでもシナリオを書いている側が考える最良のルートを提示される展開になるわけですから、やはりあれこれと考えさせるようなものにはならないのではないかと考えてしまいます。

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 まあそれでも、あれこれと考えるのは視聴者側の自由ですし、そうした余地が無いと感じているのは僕だけなのかもなーとも思ってます。
 あとは、AB!の反省点を踏まえて作られたCharlotteのほうが面白いのか、あるいはただ純粋に面白いものをと考えて作られたAB!のほうが面白かったのかどうか、というところなのかなあと思います。そこは僕だけで決めつける部分ではないですし、多数の視聴者の方がどういうジャッジを下しているのかにもよりますし、今後の展開次第な部分もありますが、今のところは一長一短かなという風に観ています。
 AB!のほうが圧倒的な熱量を感じていた、とは思っているのですが、それは自分が年をとったからかもしれませんし、他の外的要因によるものかもしれませんし、あるいはここで書いたような内容から来るものかもしれません。逆に、AB!よりも洗練されたものを感じてたりだとか、AB!自体を知らない若い世代にはウケているのかもしれません。
 結末がどうなるかわかりませんが、最後まで見届けて、その反省点が活かされた結果、作品そのものが面白くなったのかどうかを見極めたいと思っています。